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『九坊 - kubo -』  作者: 新開 水留
2/146

[1] 「新開」1


 目に見えない力というものは確かにあって、それが科学的かそうでないかはまた別問題である。あるものはあるし、ないものはない。僕たちが日常的に使っている携帯電話のカラクリだって、『電波』というひと言だけではなんの説明にもなっていない。だが目には見えない電波の存在を僕たちは知っているし、それはあるものだと信じている。

 呪いだって本当は同じだ。目には見えないが(時に見えるが)、確実にその効力は存在する。

 その日の深夜、自室で一人横たわっていた「U」という謎の女性の携帯電話から飛んだソレが、電波なのか、はたまた呪いに似た何かだったのか、それは誰にも分からない。しかしそのどちらだったにせよ、目に見えないながら確実に存在する運命の糸と呼ぶべきものが、思えば全ての始まりだったのだ…。



 平成二十二年、秋。

 三神さんが病院に担ぎ込まれた時、一番最初に駆け付けたのは僕、新開水留だった。

 三神さんというのは名を三歳といって、『天正堂・三神派』の看板をかかげる凄腕の拝み屋、呪い師である。通報を受けて救急隊員が到着した時、彼にはまだ意識があったそうだが、まともに喋れる状態ではなかったという。彼は自分の記した日記をずっと腕に抱えており、病院に到着してストレッチャーで院内へ運ばれる道中、看護師の胸にその日記を押し付けた。三神さんは険しい顔で口を閉ざしたまま一言も声を発しなかったが、何度も指先でその日記を叩いたそうだ。読め、という指示だと受け取った看護師が中に記述のあった連絡先を確認し、僕が呼ばれたというわけだ。

 三神さんの日記には頻繁に「U」という依頼女性の名前が出て来た。僕はすぐさま上司である坂東美千流に連絡を取り、日記を手渡した。

 坂東さんは、警視庁公安部が秘密裏に組織した『広域超事象諜報課』の室長である。通称『チョウジ』と呼ばれるその組織は、主に日本中で頻発する超自然的な事象、いわゆる心霊現象によって引き起こされた事件を調査・解決に導く霊能力捜査員たちの集まりである。大学生の頃に坂東さんと知り合った僕は、とある事件を切っ掛けにスカウトされ、なんのキャリアもないままチョウジの臨時職員として雇われることとなった。大学を卒業後、三神さんの下で『天正堂』という拝み屋の見習いを始めた頃と、時期を同じくする。

 病院へ現れた坂東さんが僕の手渡した日記を読む間、僕は三神さんのいるICUの前で念を送り続けた。学生時代は霊感に毛が生えた程度の力しかなかった僕だが、今ではある程度、生体エネルギーと呼ぶべき霊力を使って小さな奇跡を起こせるようになっていた。特に念話や思考会話と呼ばれるテレパシーがもっとも強く発現出来、相手がそこにいると分かっていれば十中八九意志の疎通を図れた。

 だが、三神さんは一言も返事を寄こさないばかりか、僕に意識を繋げようとさえしなかった。気を失っている、あるいは麻酔で眠っているのだろうかと思われたが、嫌な予感が拭いきれずに何度も念話を試みた。

 三神さんは、大量の吐血と体中に出来た無数の切り傷、そして至るところに黒紫色の圧迫痕を浮かび上がらせた状態で発見されたという。目の下には麻薬中毒患者のような分厚い隈が出来ており、彼のいた部屋には異常な腐敗臭が充満していたそうだ。突発的な病気や、事件事故の類でないことは医療関係者の目から見ても明らかだったそうだ。単純に、僕と念話が出来る状態ではない、ということならば納得のしようもあったのだが…。




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