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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
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6 ゴーレムマスターは冒険者になる

 アスペル王国西端に位置するのが、このリューエンという都市だ。


 都市を西に歩けばオリザ王国国境から広がる広大な森林地帯、通称“魔の森”が存在する。獣型の魔物が多く存在し、また、薬草の類も豊富な場所だ。


 南には山が広がり、そこにはダンジョン化した古い鉱山がある。元鉱山だけあって、魔石が多く産出される。


 また、東に続く街道にも、比較的強い魔物が出現する。これらは魔物の脅威と隣り合わせであると同時に、その素材という恩恵を受けることができるということでもある。


 このような状況から冒険者の需要は高く、儲けもよい。そのため各地から冒険者が集まり、いつしか冒険者の町と呼ばれるようになった。


 そんな都市をリーフはアリスの案内に従って歩く。


 まだ日も昇りきっていないというのに、大通りには数多くの出店が立ち並び、携帯食料や消耗品などを売っている。店の前では、店員たちが声を張り上げて客を呼び込んでおり、クエストを受けたのであろう冒険者たちが、それにつられて店へ寄り、自分の懐と相談をしながら買い物をする。


 活気のある町だ。そんな様を眺めながら、リーフは新しい町に来たというワクワクを覚えながら思った。


 ほどなくして、ひときわ大きな建物が見えてくる。どうやら目的地の様だ。


「着いたわ。ここがリューエンの冒険者ギルドよ」


「おぉ~……!」


 リーフの想像の二回りは大きかった。思わず声が漏れてしまう。


 オリザ王国の冒険者ギルドは、王都のものでもさほど大きくなかった。それを基準にしていたため、その二倍は大きいここのギルドには、驚きのあまりため息しかない。

 冒険者ギルドの大きさは、その需要や質と比例すると聞く。つまりこの町は、それだけ町にも冒険者にも需要があるということなのだろう。


「呆けてないで、さっさと入るわよ」


「お、おう」


 アリスは、ボケっと立っていたリーフを促すように声をかける。それで我に返ったリーフは、少々間抜けな声を出す。そんな様をアリスは、少し面白いものを見たようにクスリと笑うと、そのままギルドへ入ってしまう。


 リーフもまた、多少緊張しながらも、アリスに続いてドアをくぐると、目に入った光景に思わず足を止めてしまう。


 ギルド内では、朝も早いというのに活気に満ちた冒険者たちが、食事をしたりクエストを確認したり、思い思いの活動している。


 正面にはテーブルや椅子が配置され、その奥には受付がある。右手にはカウンターがあり、その奥の棚にはいろんな酒が並んでいる。左手には各種案内板があり、クエストや仲間募集の張り出しがしてある。奥には居酒屋(バル)らしきものがあるが、現在は開いてないようだ。


 まさに本で読んだ通り、これぞ冒険者ギルドといったものだ。


「これが……冒険者ギルド……!」


「えぇ、なんでそんなに感動してんの……?」


 呆れを含んだアリスの言葉はリーフには届かない。

 一つため息をついた彼女は、動かなくなったリーフの腕をつかみ受付まで引っ張ってゆく。多少奇異の眼で見られてもお構いなしだ。 


「おはようございます。本日はどのような……アリス様!?」


 受付の前に立ったアリスを見て、受付嬢は驚きの表情だ。そういえば、アリスは依頼した冒険者とはぐれたと言っていたと、リーフは思い返す。たしかに騒ぎになるはずだ。


「おはよう。ギルド登録の手続きがしたいのだけど」


「え、ええ……」


 なんでもなさそうなアリスに流され、受付嬢は普通に返事をしてしまうが、しかし、はっと我に返る。


「手続きじゃないですよ! え、行方不明になったと聞いてたんですが、いつの間に戻ってきてたんですか!?」


 彼女が魔の森で行方不明になったことはすでに報告されており、捜索隊を組むことが決定されていた。しかし、外縁までならともかく、森の中心部まで範囲に入っていたために、数時間では人員が集まらなかったのだ。


 だがそんなこと、アリスにとってはおかまいなしだ。


「そこの彼といっしょに今朝、ね。そんなことよりギルドの登録、早くしたいのだけれど。彼と、あと私も登録するわ。二人分お願いね」


 受付嬢の狼狽などお構いなく、アリスは話を進めていく。その強引な態度に、受付嬢は諦めたようにため息をつくと、しぶしぶながら話を進めた。


「はぁ……かしこまりました。では、登録証を発行いたしますので、お名前をお願いします」


「アリス・フラメルよ……ちょっとリーフ! まだ呆けてるの!」


 バシリと背中をたたかれ、ようやくリーフは我に返る。


「おっと! ……痛いな、どうした」


「どうしたもこうしたも、さっさと名前を言いなさいよ。登録できないじゃない」


「お、おお悪かった。リーフだ、姓はない」


 本当であれば、先王より贈られたピースメイカーという姓があるが、あえて隠しておく。万が一、あの馬鹿王(サラビエ4世)に生きていることがかぎつけられたら、面倒なことになるのは間違いないだろうからだ。


「アリス・フラメルと……リーフ、ですね……はい」


 受付嬢は一度中に下がり、すぐに出てくる。そして二人に銀色のプレートを差し出した。


「こちらが登録証になります。では、マナを注いでください。あ、軽くでいいですよ。そしたらこちらにお渡しください」


 言われるがままに、二人はプレートにマナを注ぎ、受付嬢へ返す。


 うけとった彼女は、何やら顔を下げ作業を始める。

 ほどなくして顔を上げ、プレートを二人に渡した。そこにはリーフとアリスの名前と“F”の文字が刻印されていた。


「こちらのプレートはギルドを利用する際は必須なので、無くさないようにお願いします。マナを登録させていただいたので偽造はできないようになっています。都市を移動した際には、必ずその町のギルドに行くようにしてください。門で必ず確認され、連絡がいくようになっているので、来なければ確実にわかります」


「行かなかった場合は?」


 リーフの質問に受付嬢が答える。


「一度であれば罰金程度ですが、悪質な場合は最悪ギルドから追放されます。入った翌日までにはギルドに行ってください」


「分かった」


「冒険者には様々な特典がありますが、その分義務も生じます。都市を出ていくまでに最低2回はクエストを受けていただきます。また、高ランクの方に限るのですが、ギルドからの指名依頼は必ず受けていただくことになります」


「なるほどな。ランクを上げるにはどうすればいいんだ?」


 受付嬢は案内板を示す。


「基本はクエストを受けていただいて、その実績によって上昇します。ランクの最低はF、最高はAとなっています。Fランクは駆け出し専用のランクで、Eランクに上がるまでは都市の移動を制限させていただきます。こちらでクエストを用意しますので、それを達成すればEランクに昇格というシステムになっています」


 慣れてもらうためのシステムなんだろう。意外ときっちりした組織のようだ。

 リーフが感心していると、アリスに早くしろとせっつかれる。


「ありがとう、理解した。これからしばらく、よろしく頼む」


 リーフは帽子をとってにこやかに挨拶をした。





・ ・ ・





「激動の一日だったな……」


「全くそのとおりですね……」


 宿に備え付けられたベッドの上で、リーフは感慨に浸っていた。

 あれからアリスに勧められた店で食事をとり、アリスに勧められた宿をとった。


 リーフもアリスもほぼ徹夜のようなものだったので、初心者用のクエストは明日ということで宿の前で別れたのだった。


「最初は危ないやつだと思ってたが、案外まともだったな」


 アリスに対する評価は、最初に会った時と比べると大きく上昇していた。


 初めての都市に右往左往しかけていたリーフを見るに見かねて、食事も宿もテキパキ案内してくれたのだ。彼女の手配してくれた食事は非常に美味しく、心に残るものであった。宿も、値段を考えると十分に上等といえるだろう。


 何より、未だ無一文のリーフにおごってくれたのである。彼女がいなかったら、今頃は野原で夜風に耐えていただろう。


 予想以上の働きである。アリス様様だ。


「人格的にはまっとうなのだと考えます。よほど、あの時は焦っていたのでしょうね」


「……まあ、お前の言う通りにしてよかったよ」


 流石だ、と褒められるとドゥーズミーユは照れたように瞳をチカチカと明滅させる。


「お褒めにあずかり光栄です」


 リーフはその様子に目を細める。彼は、自身の最高傑作であるこのゴーレムが活躍することが嬉しかった。


「さて、明日も早い。そろそろ寝るか」


「はい、ではおやすみなさい、リーフ様」


 明かりを消しベッドにもぐりこむと、すぐに瞼が重くなる。


 初めての都市、初めての宿、初めてのクエスト。それらの楽しみを上回るほど、疲労は濃かった。初めての経験が多すぎてはしゃぎすぎたというのもあるだろう。もちろん表には出してないが。


 明日のクエストへ思いをはせる間もなく、リーフの瞼は落ち静かに寝息をたてるのだった。

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