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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
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5 ゴーレムマスターは提案を受け入れる


「すっごい速いわね! こんなゴーレムは初めて」


「だろ? すごいだろ?」


 森の中をゴーレムが走る。その両肩にはリーフとアリスが乗り、リューエンの町を目指す。

 二人が乗れるほどの巨体であるがゆえに、ゴーレムの走る音はそれなりに大きい。しかし、幸いにも大規模な魔物の襲撃はなく、数匹程度であればそのまま弾き飛ばしていた。


「リーフは何でリューエンへ行くの?」


 ゴーレムに乗っているうちに、両者の険悪な雰囲気は多少改善されていた。主にアリスがゴーレムを褒めたことが要因である。

 すごいすごいと素直に褒められることは、リーフにとってはまんざらでもなかった。その結果、彼の態度は軟化し、アリスと普通の会話ができる程度には打ち解けることができていた。


「路銀を稼ぎたくてな。冒険者ギルドに登録しようかと考えている」


「へぇ路銀……お金に困ってるの?」


「食うに困るほどってわけじゃないが、余裕がないのは確かだな」


 リーフは実質、着の身着のままに放り出されたと同然だ。食料も金も無い今、資金の確保は最優先と言えた。


「冒険者登録してないの? 旅人なのに珍しいわね」


「いろいろ事情があるのさ」


 適当に答える。幼少より国に仕えていたため、リーフは冒険者登録する必要はなかった。


 冒険者登録すると、ギルドのある都市に入る際の税が免除されるなど、いくつかの利点がある。ギルドは大陸中に広がっている為、どの土地に行っても恩恵を受けられる。もちろん定期的にクエストをこなさないといけないが、それでも旅人をするなら非常に有意である。


 いつか彼が読んだ『大陸の歩き方 ~オリザ王国編~』にそう書いてあった。リューエンを目指すのはそういった理由でもある。


「ふぅん、ふ~~ん……」


「どうした?」


 何やら思案しているアリスを見て、リーフは怪訝な顔をつくる。


「提案があるんだけど」


「却下する」


 速攻で拒否した。無碍(むげ)もないその態度に、アリスは思わず食ってかかる。


「何よ、まだ内容も話してないじゃない」


「提案を聞くほどの信頼関係はないだろう?」


 多少態度が軟化したとはいえ、リーフにとってアリスはまだ警戒対象という認識であった。


「そんな言い方ってないじゃない!」


「リーフ様、さすがにそれは。せめて、内容を聞くべきでは」


 アリスとドゥーズミーユ、二人の非難を受ける。アリスはともかく、ドゥーズミーユも一緒に非難してくるのはリーフにとっては意外だった。


「……ああ、分かった分かった。聞けばいいんだろう」


 観念したように両手を上げる。

 そんなリーフのようすに、アリスは一転、にこやかに話し始める。


 表情の良く変わるやつだと、リーフは内心思った。


「あなた、ゴーレム使いなんでしょ? それなら当然、魔道具の作成もできるはず。しかも凄腕でしょ?」


 ゴーレムの種類にもいろいろあるが、現在主流のゴーレムは、魔道具作成の技術が必須だ。故にゴーレム使いはその大半が魔道具作成にも長けている。ゴーレム自体が複雑な魔道具ともいえなくもない。


「なんで分かる」


「このゴーレムを見れば分かるわ。私も何人か、ゴーレム使いとそのゴーレムを見たことはあるけど、あなたの作るものほど見事なものは無かったわ。私が知る限り、あなたのゴーレムは最高よ」


「……フ、当たり前だ。この国、いや大陸を見ても、俺ほどのゴーレム使いはそうはいないだろうさ」


 アリスの褒め言葉に、リーフは鼻高々だ。自身が誇る技術を褒められて嫌な者はいない。特にリーフの場合、ゴーレムに強いこだわりがあるうえ、王国では、特に王が変わってからは純粋に褒められることなどなかったので、なおさらだ。


「ええ、そうでしょうね。それでね、本題はここからなんだけど、私と組んで魔道具を売らない?」


「お前と組む?」


 アリスの提案はリーフにとっては意外であった。少なくとも、思わず聞き返してしまうほどには。


「そ。私が注文をとってきて、あなたが作る。もちろん仲介料はいただくけどね、悪い話じゃないでしょう?」


「無名の魔導技師に信頼なんてないだろう?」


 彼はいつか読んだビジネス書に書いてあったことを質問する。


「あなたのゴーレムが技術力を担保してくれるわ。大丈夫、あとは私が何とかしてあげるから」


「……」


 リーフはしばし考え込む。


 悪い話ではない。彼には魔導技師としても一流だとの自負がある。よほど無茶なものでない限り作り上げることができるだろう。それに、彼は駆け引きには疎い。国にずっと仕えており、任務も討伐や研究など、人との駆け引きには全く関係のないものであった。商売にはそういった技術が必要であるだろうから、商人だという彼女を仲介にするのは間違ってはいないだろう。


 ただ、だからと言ってすぐにうんとは頷けなかった。


「問題が二つある」


「言ってみて」


「まず一つ。さっきも言ったが俺はお前を信頼していない。たった今であったばかりで信頼しろってのも難しい話なのは分かるだろ。そんな奴に俺の作った魔道具なんて預けられない」


 当然ではあるが、自身の技術を預けるのならば多少なりとも信頼が欲しい。しかし、リーフにとってアリスは、仲間とはぐれるうえ森で炎をぶっ放す危ないやつである。行動だけで鑑みても信頼できそうな面は一つもない。


「そしてもう一つ。魔道具作成に必要な工房を用意できるのか? 仕事となれば剣だって盾だって戦艦だって作ってやるが、俺のレベルの高さに見合う工房がないとしょうがないぞ」


 魔道具を作るには工房が必要になる。性能の高い炉や魔力伝導性――魔導性の高い魔力釜、魔力を刻み込むための刻印刀など、質の良いものが必要になってくる。特に道具における魔導性は重要で、これが低いとマナがうまく伝達できないため、どんな優秀な魔導技師でも一定以下の魔道具しか作れない。


 良い技師と良い道具。この二つがそろって初めて良い魔道具ができるのだ。


「ゴ、ゴーレムみたいに作れないの?」


「モノが違う。出来ないこともないが、ろくな品質にならないな。それによほどのことがない限り、ゴーレムも工房で作られるんだぞ」


 自然の中にあるモノに偽りの命を吹き込むのが“創造(クリエイション)人形(ゴーレム)”の魔術だ。その性能を上げるために魔道具作成の技術が応用されているのであって、岩人形を作るだけなら必要ではない。もっとも、その技術が無ければ、ゴーレムはまともに動かないどころか制御すら出来ない代物になるが。


「俺レベルになると材料さえあれば、その場で工房製と変わらない性能のゴーレムを創造(つく)ることができるがな。その技術は魔道具作成とは似て非なる技術だ。工房がなければまともなものは作れない」


「う……い、いや、なんとか用意してみせるわ」


「その言葉を信用できるほどの関係じゃないだろう?」


「むぅ……」


 アリスは悔しそうに唸る。


 その様子を見てふぅ、リーフはため息をつく。このアリスという少女が何を考えているのかは分からない以上、警戒するに越したことはないはずだ。だいたい、彼はつい最近人に裏切られたばかりである。それがたとえ察していたことだとしても、その事実がリーフの警戒を余計にあおっていた。


「……アリス様」


「何よ……」


 にべもなく断られてむくれているアリスに、ドゥーズミーユが話しかける。


「つまりリーフ様は、信頼関係が欲しいといっているのです。ですから、まずはアリス様がリーフ様に信頼に値する行動をしめせばうまくいくはずですよ」


「行動……」


「こう見えて、リーフ様は本ばかりの頭でっかちなのです。ですから、まずはリューエンの町を案内してくださいませんか? 冒険者ギルドの手続きや、食事、宿の手配なども併せて」


「ドゥーズミーユ?」


 ドゥーズミーユのその提案に、リーフは困惑し、アリスは食いつく。


「……いいわ、案内してあげる。なんならクエストだって一緒に行ってあげる。私だって、自分でいうのもなんだけど、優秀な魔術師なんだから」


「よろしくお願いします」


 そしてリーフが口を挟む前に、ドゥーズミーユが二つ返事に了承してしまう。


「なぜ勝手に話を進めた」


 リーフは小声でドゥーズミーユに文句をつける。だが、この小さなゴーレムはこともなげに答える。

 

「リーフ様。初めての町では、仲間とは言わずとも、知り合いは必要でしょう。それに、彼女は商人と言いますから伝手は多いだろうと思料します。少なくとも、利用価値はあるかと」


 ううむ、とリーフは考え込む。ドゥーズミーユの言うことは、確かに一理ある。どうせ町を案内してもらうなら、ある程度仲良くしていたほうが、都合がいいことは確かだろうし、伝手も多いほうがいいだろう。


「だがあの様子じゃ優秀な商人とは思えんぞ?」


「確かに、そうかもしれません。しかし、それでも彼女とは友好を結んだほうがいいと考えます」


 あくまでドゥーズミーユは断言する。リーフは、その言葉を無視することができなかった。なにせ自身の最高傑作である。


 悩むリーフは、重ねて問う。


「……何故彼女なんだ? その根拠は?」


「勘です」


 最高傑作は、しれっとそう答えた。


 その答えに、リーフは思わず笑ってしまう。


「フ、フフ、はははははは! そうだ、そうだな! どうせ風に任せての自由な旅だ、そんなのもいいかもしれないな!」


「え、なに、どうしたの急に……」


 急に笑い出したリーフにアリスは困惑する。それに構わず、リーフはアリスへ話しかける。


「ドゥーズミーユが勝手に言ったことだが、そうだな。あんたが俺たちを手伝ってくれるんなら、俺たちだってあんたを手伝わないとおかしいからな」


「じゃあ……?」


「言葉通りだ。アリスだったか、あんたが手伝ってくれるんなら、組んでやってもいい」


「ホント!? やった! ありがとう!」


 アリスは肩の上で大喜びだ。その様は、うれしさのあまりゴーレムから手を放してしまい、落ちそうになってしまうほどだ。


「まだ、確定したわけじゃないけどな。まずは俺たちがあんたを信頼できるようになるかどうかだ」


「もちろん! あんまり舐めないでね! すぐに信頼させてあげるわ」


 あらん限りの自信をこめてアリスは言う。そんな様子にリーフはフッと笑う。


「頼もしい限りだな」


「これからよろしくね!」


「ああ、よろしく頼む」


 二人はガッチリと握手する。そして、今後について話し合うのだった。



・ ・ ・



 そんな間もゴーレムは進み続け、夜が明け、空が白み始めるころには壁に囲まれた都市の入り口にたどり着いていた。


「ようやく着いたか。結構飛ばしたんだが案外時間がかかったな」


「普通あの森まで半日以上かかるのよ。十分早いわよ」


 アリスはそんなことを言いながら、ゆっくりとゴーレムの肩から降りる。


「まあ、炉を入れてるわけでもないしそんなもんか」


 リーフはそう呟く。


 近年のゴーレムは魔導炉と言われる炉心を入れる。これにより各種性能が向上するが、材料が高価なものばかりである。加えて、扱いを間違えれば爆発するという危険性も持つ。そのため、リーフは自爆させたものを除けばあと一つしか持ってきていない。


 その呟きを耳ざとくアリスは聞きつける。


「あれで炉心入ってなかったの!?」


「移動用にはもったいないからな。それに保管する場所もないのにゴーレムをその辺に置いておけないだろう? 邪魔になる」


「……そう、いや、そんな意味じゃないんだけど……まあいいわ」


 呆れたようにアリスは首を振る。


「そんなことより早く町に入ろう。俺はさっきから中に入りたくてうずうずしているんだ」


「私もです。アリス様、早く入りましょう」


 リーフとドゥーズミーユがやいのやいのと催促を始める。


「分かった、分かったから静かにしなさい。注目されてるわよ恥ずかしい」


「すまんな。じゃあ、早いとこ中にはいろうじゃないか」


「アリス様、お願いいたします」


 はぁ、とアリスはため息をつく。

 なぜ彼らがこんなにもせかすのか、彼女には理解できなかった。


「入るには少し手続きがいるの」


 アリスの指さした方向をリーフとドゥーズミーユは見る。そこには門と、門番らしき兵が数人並んでいる。


「今日は珍しく待ち列ができないわね。まず、あそこの門に行って、それからお金を払うの。最後に入市者の用紙に名前を記入するの。それでようやく中に入れるわ」


「いくらだ?」


「一人当たり1000ゴルよ」


「結構高いな」


 一般的な平民の年収は、おおよそ10万ゴルと言う。そう考えると、1000ゴルというのはそこそこに大金だ。


「あくまで保証もない、よそ者に対しての税だから」


「妥当な値段ってわけか」


 商業ギルドや冒険者ギルドに登録すると、都市の入市税は免除される。もちろん都市の住人もそうなので実質、保証も何もない、そんな人達に対しての税と言える。


「さっさと中に入りましょ。冒険者ギルドに案内するわ」


「結構朝早いが、空いてるのか?」


「ええ。この時間からクエストに行く冒険者も多いの」


「ふぅん」


 さすがによく知っている。思わずリーフは感心する。

 本で見ただけのリーフと違って、活用できる知識としているのだろう。彼から見て危険人物だったアリスの印象が、少しだけ良くなった。


「ところでだ、悪いが1000ゴル貸してくれないか?」


「……私があなたを信頼できなくなりそうだわ」


 さしたる問題もなく、リーフたちはリューエンの町へと入っていった。

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