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閑話 リーフのゴーレム講座

※閑話という名の設定公開話。お嫌いな方はスルーしても大丈夫です。


 とある町の宿の一部屋。照明のおかげで余すことなく照らされた室内には、黒板の前に立つリーフと席について机に向かうアリスの姿があった。


「さて、俺のゴーレム魔術について聞きたいとのことだったが」


「ええ。一魔術師として興味があるの。できるだけ簡潔にお願いね」


「いいだろう」


 今から行われようとしているのは、ゴーレムの勉強会だ。アリスにとって、リーフの長々とした説明は辟易するものであったが、彼の言うゴーレム魔術に興味はあった。魔術をその道の達人に教えてもらえるというのは、魔術師にとって何よりの糧となる。長々とした話による精神的ダメージを差し引いても、十分に価値のあるものだと彼女は認識していた。


「そうだな、まずは簡単な概要から始めよう」


 そしてリーフはうっきうきである。人はもともと教えたがりだというが、彼の場合、あまり人に求められたことがないので、余計に嬉しいのだ。それに、自分の信頼する人間が自分が入れ込んでいるモノに興味を持ってくれたというのも一因だ。あわよくば、ここでゴーレムの素晴らしさを叩きこんで、自分の仲間にしようとまで考えていた。


 リーフはチョークを持って、黒板に術式を書いていく。そして書き終わると、振り返って解説を始める。


「ゴーレムは創造魔術によって作られる。これがその術式だ」


 魔術は、マナと言霊とイメージによって発現する。適切なマナを言霊によってイメージ通りに現出させる、これが魔術発動のプロセスだ。術式というのはこのうち、特に言霊を図式化したものである。


「だが、これだけではゴーレムはただのデクだ。だから、これに行動選択の基本パターン、マナによる命令の受信、表面結界なんかの術式を組み込んでいく。そうしてゴーレムはようやく使えるようになるわけだ」


 カッカッとリーフはいくつかの異なる術式を書いていく。


「知ってはいたけど、こうしてみると結構面倒な構造をしているのね」


「そうだ。ここまでを創造魔術で刻むのは面倒だから、基本的には工房製のゴーレムが使われるわけだな」


 アリスはふむふむとメモ帳に書き込む。それを待ってから、リーフは話を続ける。


「ゴーレムが動けるのは、創造魔術によって与えられたマナの分だけだ。そして、各種術式が示すように、その行動の端々でマナは消費されていく。だから、その場で作られたゴーレムは継続的な行動をとることは難しい」


「でもリーフのゴーレムは長い間動いてなかった?」


「それは俺のゴーレムがスペシャルだからだ」


 少し自慢するように、リーフは言った。一瞬、地雷を踏んだかとアリスの顔がこわばる。だが、さすがのリーフも、大きく話が脱線することは避けたかったらしい。


「俺のゴーレムの仕様はまた今度だ。続きを話そう」


 そう言って、黒板にまた何やら書き始める


「そうしてくれると助かるわ」


 その様子に、露骨に安堵するアリスであった。


「さて、お前も知っている通り、現在主流のゴーレムには魔導炉が入っている。魔導炉とは、魔鉱を材料として構成される……簡単に言えば魔物の魔石のようなものだ。これによってマナを生み出す」


「確か、魔導炉を装備しているゴーレムのほうが出力が高いんだっけ?」


「その通り。継続的にマナを供給できるんだから、それも当然の話だ。そうして供給されたマナを利用した魔導具兵装も取り付けられる。代表例として挙げるには少々異端だが、馬車を引いているヘルハウンドが、典型的な工房製ゴーレムといえる」


 そこでくるりとリーフは振り返る。黒板には新しい一つの術式が書かれていた。


「ここまでがゴーレムの概要。次は俺がゴーレム魔術と呼んでいるものだ」


 そこでリーフは、用意していたコップから一口水を飲む。


「この術式は傀儡魔術といわれるものだ」


「確か、森で巨木(ジャイアント)人形(ウッドゴーレム)や、ダンジョンで魔術人形(マギアゴーレム)を作った時に使った魔術よね? 糸を出して、文字通り傀儡のように操るっていう……」


「その通り。前も言ったが500年ほど前、“ゴーレム王”アウグストゥスが自立式ゴーレムを開発するまでは、この傀儡魔術による人形こそがゴーレムと言われていた。いや、正確にはゴーレムとすら言われてはいなかったか」


「どういうこと?」


 若干言葉を濁すリーフに、アリスは質問する。


「それまで、ゴーレムと呼ばれていたのは魔物だったそうだ。今でも遺跡なんかで発見されるやつらだな。その構造を解き明かし、実用化したのがアウグストゥスだ。そもそも、それまでは創造魔術というものもなかったそうだからな」


 難しい顔でリーフは言う。


「じゃあ、その傀儡魔術で作られていたゴーレムはなんて呼ばれていたの?」


「文字通り、傀儡、人形だったそうだ」


「ふーん」


 適当に、アリスは相槌を打った。魔術というのは歴史に学ぶこともあるが、それはそれとして、彼女の興味は傀儡魔術にあった。なので、先を話すようリーフにそれとなく促す。


「で、それをリーフはどんな感じで生かしているの?」


「ああ。傀儡魔術というのは、その本質は対象の支配にある。相手さえ望めば、その身体だってコントロールできる。魔術人形なんてのはその応用で、自分、あるいは他人の魔術を支配し、創造魔術で命を吹き込むことによって操っている」


「他人の魔術の場合は、やっぱりその人の許可みたいなのがないといけないのよね」


「その通り。何か変な感覚を覚えなかったか?」


「ああ、確かに。なんだかゾワッとした」


 アリスは、魔術にマナの糸がつながった時の感覚を思い出した。確かにあの時、ぞわぞわとした感覚を覚えたのだった。


「それを受け入れれば支配権を譲渡できる。拒否すれば、当然はじける。よほどのことが無い限り、これは当人の意思によって決定される」


「あの時は、私が受け入れたから、魔術の支配が譲渡されたのね」


「そうだ」


 満足そうに、リーフは頷く。


「だが、これには多大な負荷をかける。だからもともと、不安定な命しか持たないゴーレムは、その負荷に耐えられず、術をとくと同時に崩壊する。扱いも難しく、何より相応のマナを持ってないと成り立たない。前も言ったが、この辺りが傀儡魔術が廃れた原因だな」


「まあ、使い勝手が良いものが生き残っていく、っていうのは魔術のなかでは結構あるわよね」


 アリスは、昔を思い出すかのように天井を見上げる。

 ちなみに、無詠唱魔術があまりにも消耗が激しいにも関わらず生き残っているのは、使い勝手が良いからである。


「とはいえ利点は多い。本人からマナを直接供給できるから、魔導炉が無くても高い出力を得られる。精密な動きができる。魔術の付加ができる。行動選択の簡略化、戦場把握、状況判断による遅延の省略……数え上げるとキリがないな。そして工房製並みのゴーレムをその場で作り出せる俺のような使い手ならば、これらを十分に使いこなすことができる」


「確かに、そうかも」


「ゴーレム使いの神髄は人機一体と俺の師は言っていたが、真の意味で人機一体をなせるのが、この創造魔術と傀儡魔術の併用というわけだ。ゆえに、俺はこれをゴーレム魔術と呼んでいる」


 そこでリーフは一旦話を切った。そして、アリスに聞く。


「ここまでで何か質問はないか? 今なら何でも答えてやるぞ」


「あら、親切ね。じゃあ、魔術人形のことなんだけど――」


 その質問をきっかけにして、彼らの魔術談義が始まる。


「それはスライムの構造を基にして――」


「魔術式はこっちのほうが効率的――」


「それじゃ出力が不足する――」 


「――――……」


「――――!」


 それは日が暮れて、夜が更けても、なかなか静まることはなかった。

細かい設定を考えるのが好きです。後から考えるとガバガバだったりするんですが……


ご要望などが無ければ、次回からは新章突入。時期は6月頭くらいになると思いますので、よろしくお願いします。

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