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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
3/39

3 ゴーレムマスターは旅立つ


 暗い森の中を一体のゴーレムが駆ける。枝や細い木々をなぎ倒しながら真っすぐ進むその肩には、人が一人乗っている。赤銅色の髪をたなびかせ、ゴーレムの上に悠々と座っている男のその手には、鍔広の帽子が把持されていた。


 森に入って十分後、後方から爆発音が聞こえたあたりで、男はのんきに呟く。


「そろそろいいか」


 ゴーレムを停止させ降りると、手にした帽子をかぶり直す。そう、暗殺されたはずのリーフである。


「しかしうまく引っかかってくれたもんだ。やはり、この手の任務に新兵を使ってはだめだな」


 王の口ぶりや騎士たちの態度から暗殺を察知した(バレバレだったが)彼は一芝居うったのだ。


 彼に妹などいない。妹のミユなる女性は、かねてより彼が開発していた人間ゴーレムの試作品だ。


 つまり、仕掛けられたら適当なタイミングでゴーレムと入れ替わり、とっとと逃げる。あとは残したゴーレムを自爆させて死を偽装するだけだ。


 これがあの砂嵐を突破できるような手練れがいたなら、もう少し別の方法をとっただろう。だが、メンツを見ただけで雑魚だと判断できたので、必要なかった。


「その通りですね。手練れが一人でもいたら厄介でした」


 彼のつぶやきに答える声があった。リーフは懐から、その声の主である握りこぶし大のゴーレムを取り出す。


「妹の振りから遠隔操作までご苦労だったな、ドゥーズミーユ。実験は成功か」


 この、ドゥーズミーユと呼ばれる小型のゴーレムは、リーフが作り出した最高傑作である。人工知能を搭載し、自立して動くことができる。搭載した魔導炉は、大気中のマナを取り込んで動力にするため、マナを遮断しない限り半永久的に稼働する。


 何よりも、オリザ王国に存在するほぼすべての本をアーカイブとして記憶しているため、知識量であればリーフをもしのぐ。まさに生きた図書館だ。当然、過去の研究データも記録しているため、わざわざ資料を持ち出す必要は無い。


 だからこそ彼は、任務の時には必ずこの小さなゴーレムを連れていっていた。


「口調の変化をおかしいとも思わない連中ですから、成功して当然です。さらなる実践テストは必要かと」


「当然だ。最終的には極限環境での使用も想定しているんだからな」


 今回はドゥーズミーユの最終テストも兼ねて、ゴーレムの遠隔操作の実験を行ったのだ。結果は成功、指示した通りにゴーレムを動かすことが出来ていた。とりあえず数キロ程度は問題なし。最終的には、ダンジョンや山岳地帯などの救助用に使うつもりだ。


「遠隔操作の感想はどうだった?」


「魔導炉の暴走による自爆はもうしたくないですね。死ぬほど痛かったので」


「はは! そりゃそうだ! ま、おかげで連中も俺が死んだと思ってくれるだろうし、これでのんびり旅ができるな」


 もちろんジョークだ。ゴーレムに痛覚はないし、そもそも遠隔操作魔術は感覚を共有しない。 


 そもそも、なぜ彼が見え見えの暗殺を甘んじて受け入れたか。そして何故このような茶番をしたか。それは彼の目的にある。


 リーフは孤児であった。だが運よく先王(サラビエ3世)に拾われ、そこからは国のために働いてきた。魔物の討伐から魔導兵器としてのゴーレム開発、時には戦争まで、それこそ身を粉にして働いてきた。苦がなかったといえば嘘になる。だが、先王には恩があったし、なにより人柄が好きだったから頑張ってこれたのだ。


 だが、現王(サラビエ4世)に代わってからは酷いものだった。任務の危険度は増し、研究費は毎月減少し、挙句の果てが追放だ。もはやリーフに、国に尽くす心は残っていなかった。


 それまでの働きで、十分国に恩は返したはずだ。それに先王のいないオリザ王国など、一切の興味すら持てない。そんなことより、彼には叶えたい夢があった。


「ドゥーズミーユ、地図を出してくれ」


「この国近辺のものでよろしいでしょうか」


「ああ、頼む」


 ドゥーズミーユの眼から光が放たれ、近辺の地図を宙に投影する。


 その様子を見ながら、我ながら素晴らしい出来だ、とリーフは誇る。ドゥーズミーユの開発に、数年間を費やしているのだ。特に王が変わってからは、魔導兵器の開発に携われなくなったのでますます力を入れた。その成果がようやく発揮されている。開発者にとってはこれほどうれしいこともない。


「森を抜ければ隣国アスペル王国に入ります。最寄りの町としてはリューエンがあります」


「“冒険者の町”リューエンか。いいな、行ってみたかったんだ」


 リーフの夢。それは世界を旅することだ。これまでの仕事の過程で多くの本を読んでいた彼は、そこに出てくる様々な事柄に興味を持った。本では知れぬ食べ物の味や風景、街並みや文化。そういったものを知りたいと常々思っていた。


 そこにこの追放劇は渡りに船だった。なにせ国を出るきっかけが、わざわざ相手からやってきたのだ。活用しない手はないだろう。


 ここまでの企みに成功し、ご満悦なリーフに、その肩に乗ったドゥ―ズミーユが聞いた。


「出発の前に質問をよろしいですか」


「何だ?」


「何故、騎士たちを殺してしまわなかったのですか? 新米程度であれば、五分もかからず殲滅できると考えますし、最後の爆発にも巻き込めたとも考えます」


 ドゥーズミーユの単純な疑問であった。この小さなゴーレムの言う通り、リーフの実力ならば、新兵の十人や二十人など容易に殺せる。炉心の暴走による自爆でも、威力を抑えた改造品でなく、通常のものであれば全員とはいかずとも半分は巻き込めた。


 その問いに、リーフはフッと笑って答える。


「理由は二つある。一つはすぐに分かるだろう。追手がかからないようにするためだ」


 全滅などさせたら死んでないことが確実にばれ、追手を差し向けられるだろう。それはつまりのんびり旅ができなくなるということである。リーフとしてはそれは避けたかった。


「もう一つは、そうだな。せっかくの門出を血に塗れた足で踏みだしたくないからだな。必要がないなら殺しはしないさ」


 バカ王(サラビエ4世)クソ魔術師(アシェード)なら別だけどな。リーフは冗談めかして笑う。


「そんなものですか」


「そんなもんだ、人間ってのは」


「記憶しておきます」


 チカチカと一つ目が瞬く。その様子をリーフは微笑んで見守っていた。彼にとってはわが子が成長を目の当たりにしているようなものだった。


「さぁ。最初の目的地はリューエンだ!」


「了解しました」


 帽子をかぶり直し、マントを羽織る。そしてドゥーズミーユを肩に乗せると、意気揚々とゴーレムに乗り、前進させる。

 これからは何にも縛られることのない、自由で気ままな一人旅が始まるのだ。これがワクワクせずにはいられるか。

 

「行くぞ! 旅の始まりだ!」


 こうして追放された魔術師、リーフの世界を巡る旅が始まった。








「キャ――――――!」


「リーフ様。悲鳴が」


「……聞こえているさ」


 だが、呑気な旅とはいかなさそうだ。



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