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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
25/39

25 ゴーレムマスターは待ち受ける


 カンカンカン――


 町全体に鐘の音が響き渡る。この日、リューエンは物々しい雰囲気に包まれていた。

 数年に一度の大災害、魔物達の大暴動(スタンピード)がついに発生したからである。

 普段は気楽な住人達も、この日ばかりは不安そうに顔を見合わせ、それでも自分たちのなすべきことを行っていた。


「状況は!」


 ボルガの怒鳴り声がギルドに響き渡る。さすがのボルガも真面目モードであり、普段の軽薄な態度からは想像もつかないほど張り詰めた表情をしている。


「十分前にスタンピード発生を感知! 規模は不明! ですが、数は最低でも600は確認しています! 予想では、あと一時間で第一次防衛線に到達します!」


「ようし! 冒険者たちを最終防衛線に集めろ! ついでに軍隊(クソバカ)どももだ! 周辺都市への連絡は!」


「滞りなく!」


「アスペル王国軍の指揮官が会いたいとのことですが、無視してかまいませんか!?」


「構わん! とっとと配置につけと追い返せ!」


 ギルド職員たちはテキパキと動く。わずかな遅れが悲劇を生む、それを彼らは理解していた。ギルド職員は裏方だ。だが、だからこそ為さねばならぬことがあるのだ。


 おおよそ一月前に、ギルドより出された特別依頼。それはスタンピードへの参加依頼である。FやEランクの冒険者たちには柵や堀、トラップを設置させ防衛線を構築する。そして当日、Dランク以上の冒険者たちを動員し魔物を殲滅する、それが作戦であった。


 一つの町の危機であることから、この依頼はギルドより参加を強制させられている。だが、そうであっても冒険者たちの士気は高く、反発するものはいなかった。ボルガの人望のなせるわざだ。


「町にも冒険者(やろう)どもにも被害は出させん! キリキリ動け!」


「はい!」


 ギルド職員の声が重なる。


 スタンピード到達まで、あと三時間。



・ ・ ・



 Dランク以上の冒険者たちは、町の外に集められていた。すでに周辺には、柵と堀が張り巡らされている。

 彼らの前にはギルドより派遣された職員が、最後の説明を行っていた。 


「――先日説明させていただいたとおり、皆さんは5つのブロックごとに分かれて戦ってもらいます! AランクやBランクの方を中心として対処してください!」


 ギルド職員の言葉に、冒険者たちは神妙に頷く。彼らとて命を懸けた戦いだ。だがそれ以上に、自身の背後に町があるという事実が、彼らをより真剣にさせるのだった。


「また、今回は敵を確認次第、新開発の魔道具を持って露払いを行います! 訓練を受けた6名を火砲隊として、各ブロックに配置します! 同時に魔術師の皆さんにも魔術を放ってもらいますが、魔道具より火魔術が発射されるので水魔術を撃つのはやめてください!」


 リーフたちは指定された期日の一週間前には、魔道具『携行式魔導火砲』を納入していた。そのためギルドは、あらかじめ選抜した冒険者たちに十分に訓練をさせることができたのであった。


「すでに魔物の群れは第二次防衛線に到達しております! 十分に警戒してください! 町の運命は皆さんにかかっております! どうか、ご武運を!」


 ギルド職員の言葉に、冒険者たちは雄たけびで答えた。


 スタンピード到達まで、あと二時間。



・ ・ ・



「いよいよね……」


 ぽつりとアリスが呟く。それにリーフは笑いながらからかう。


「緊張してるのか? らしくもない」


「わ、私だって緊張ぐらいするわよ!」


「まさか、そんな繊細な神経を持っているとはな」


「むぅううう!」


 その言葉にアリスはむくれてしまう。だが、少し体の固さはほぐれたようだった。その様子に、リーフは懐かしむように微笑んだ。


 彼らの冒険者ランクは“E”である。なので本来、この作戦には参加できない。しかし、ボルガのごり押しによって、Dランク以上の冒険者たちに混じって前線に投入されたのだ。


 意外にも、冒険者たちの反発はなかった。彼らがデスブレード・ビートルやロックフェルドラゴンを倒したということは、すでに冒険者たちの間に広まっていたからだ。一人でも戦力が欲しいこの状況である。ランクが低い程度でとやかく言うものはいなかった。


「よぅ! お二方。今日は頼むぜ」


 そんな二人に話しかけるのはザナックだ。どうやら彼らと同じブロックで防衛を担当するらしい。


「ザナックか。お前は案外緊張してないんだな」


「俺はまあ、これで二回目だしな。お前こそあんまし緊張してないようだが? アリスちゃんはがちがちっぽいのに」


「うるっさいわね! なによ! 始まったら体なんて自然に動くんだから!」


「おぉう……すまんすまん」


 狂犬の如くうなるアリスに苦笑するザナック。リーフもまた、苦笑しながらわきに抱えていたものを担ぐ。携行式魔導火砲だ。開発者ということもあり、リーフは火砲隊の一人に選ばれていた。


「俺も似たような経験はあるし……こいつにも自信があるからな」


「確かにすごいもんな。なんたらバズーカ」


「イグニッションバズーカだ。DやCランクの魔物の数百匹程度、これの一斉射で吹き飛ぶだろうさ」


「……まあ、頼りにしてるよ」


 力強く火砲の名前を訂正されたザナックは、微妙な顔をしながら離れていった。彼は近接戦を主とする戦士タイプなので、魔術師たるアリスや火砲隊のリーフとは配置が違うのだった。

 それを見送ったリーフは、そういえばとアリスに向きなおる。


「そういえばアリス。お前に渡すものがあった」


「なによ、こんな急に」


「前に約束してた魔道具だ。ほら」


 リーフは懐から銀十字をあしらったネックレスを取り出してアリスに渡す。


「余ったミスリルで造った、まあお守りだな。これまでの冒険で思ったんだが、お前は結構危なっかしい」


 魔道具作成を終えた後も、彼は数日間工房を借りていた。これはその時に作った魔道具の一つで、そそっかしいアリスのために作ったものだった。


「……リーフってデザインのセンスないわね!」


 きょとんとした表情だったアリスは、そんなことを言いながらぷいっとそっぽを向いてしまう。


「悪かったな」


 やれやれといった表情でリーフは肩をすくめる。いかにも、この反応を予想していた、といった態度である。

 そんなリーフに向きなおらず、そっぽを向いたままアリスはぼそりと呟く。


「……でも、ありがとう」


「何か言ったか?」


「いいえ、なにも」


「まあいいさ。……気を抜くなよ」


「リーフもね」


 スタンピード到達まで、あと一時間。



・ ・ ・



 最終防衛線、その中央後方に立てられた(やぐら)から、風魔術を通して声が響いた。


「総員に告ぐ! 総員に告ぐ! 魔物の軍団を感知! 数は700、距離およそ2000! 火砲隊および魔術師隊は直ちに配置につき、合図を待て! 繰り返す! 火砲隊および魔術師隊は直ちに配置につき、合図を待て!」


 その声に冒険者たちは弾かれたように動き始める。火砲隊と魔術師隊は前面に、そして梅雨払いの後すぐ突撃できるよう他の者たちも待機する。


 動きが遅いのは派遣された軍だけだ。もっとも、彼らも一応守りについてはいたが、その一帯は重要でもなければ激戦区でもない戦場の端である。故にやる気が無かろうとこれから始まる戦いに支障はない。軍の力など、ギルドは全くあてにしてはいないのだった。


 やがて、彼らの視界のかなたに、うっすらと土煙が現れた。それはやがてはっきり見えるようになり、ドドドドド……と徐々に地響きが大きくなっていく。


 火砲隊が、魔術師隊が、あるいは冒険者全員が。ごくりと唾を飲みこみ、汗ばんだ手で自身の得物を握りなおす。あるものは緊張からくる汗を拭い、あるものは覚悟を決めた目で土煙をにらみつけ、そしてあるものはこの先に待つ戦いに胸を躍らせる。


 一瞬、場が静まり返った。聞こえるのは地響きと、ガチャリガチャリと得物を構えなおすわずかな音、そして誰かの緊張した息づかい。その静寂は櫓からの、怒号にも似た掛け声で破られた。


「火砲隊! 魔術師隊! 構えぇ!」


 火砲隊が火砲を、魔術師隊が杖を構える。


()えエェェェエエエエ!!!」


 戦いの火ぶたが切って落とされた。

ミスリル鋼合金はミスリルと魔鉄の合金です。先払いの魔鉄とロックフェルドラゴン(鉱山トカゲ)のミスリルでつくった合金ですね。詳しいことはまた割烹にでも書きますので、興味のある方はぜひ。



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