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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
23/39

23 ゴーレムマスターはお披露目する


 数日後、リーフはアリスとともに冒険者ギルドの魔術訓練場に来ていた。出来上がった試作品を見せるためだ。


 試作品が出来たと伝えたところ、ボルガが大喜びで訓練場に案内したのだ。エマと、そしてなぜかザナックも一緒だ。


「またどうした、ザナック」


 ザナックはあくまで冒険者であり、ギルド職員ではない。今回の依頼はギルドがリーフたちに依頼している形なので、彼には直接的な関係はないはずだ。

 そんなニュアンスのリーフの問いに、ザナックは疲れた顔でため息をつく。


「……ギルドから指名されたのさ。関わりあるし、せっかくだから来いと。なぁ、エマちゃん」


 名前を呼ばれたエマは、あらぬ方向を向きながらピーピーと口笛を吹いている。


 その様子からリーフは察する。要するにボルガのお守りだ。一人でボルガにつくのをエマは嫌がったのだろう。


「いやぁそれにしても早かったね。てっきり一週間はかかるかと思ってたんだけど」


 さすがさすが、とボルガは上機嫌だ。後ろで渋い顔をしている二人にまるで気がついていないかのようだ。そして、再び口を開こうとする彼を遮るように、リーフはパチリと指を鳴らす。


「これが試作品だ」


 この短い期間で十分にボルガの性格を思い知らされたリーフは、彼が言葉を発する前に口を開く。もちろん余計なことを喋らせないためだ。ここにはエマもザナックも、アリスもいる。そんな場で追放された、などと口を滑らされたらたまったものではない。とっとと用件を済ませるに限る


 リーフの指に反応して、後ろに控えていたゴーレムが灰色の筒を担いで持ってくる。それに、リーフ以外の全員の目が集まった。。


「魔鉄鋼合金製の携行式魔導火砲だ」


 ゴーレムから試作品を受け取りながら、リーフは解説を始める。


「全長は0.75メートル。重さは3キロ。マナを流すことで起動し、トリガーを引けば爆発魔術(エクスプロージョン)が直線状に放たれる」


 百聞は一見に如かず、そう言ってリーフはそれを肩に担いで構える。狙いは30メートルほど先に設置してある人形だ。魔術訓練で使われるものであり、多少ではあるが魔術耐性を持つ。初心者の魔術程度なら傷もつかない。


 リーフがマナを流すと、火砲は静かに唸りを上げる。砲身に取り付けられた簡易の照準器(サイト)で狙いを定め、そのまま引き金を引くと、砲口から拳大の火球が撃ち出される。


 まっすぐ人形に直撃した火球は、一瞬後には、パっと真っ赤な炎の花を咲かせる。後には灰と化した人形が残っただけだ。


 間髪入れずリーフは、今度は空中めがけてもう一発撃つ。勢いよく撃ちあがった火球は数秒後、膨れ上がって火球を作った。


「このように対象に接触するか500メートル進むと起爆し、半径2メートルを吹き飛ばす。使用する魔石の質にもよるが、だいたい5発ほど撃てる」


 どうだ、とリーフは振り返る。そこには喜色満面のボルガと、呆気に取られる3人の顔があった。


「す、す……」


 もろ手を挙げてボルガはリーフに駆け寄ると、右手を取ってぶんぶん振り回す。


「素晴らしい! 予想以上だ! さすがリーフ・ピー……うぶ!」


 案の定口を滑らせそうになったボルガの口に平手を叩きつける。年甲斐もなくはしゃぐボルガと対照的に、ほかの3人は固まったまま驚いている。


「すごい……要求通り、いえ要求以上です……」


「なんだありゃ……すげぇな……」


「あいつ……術式書けるってことは“爆発(エクスプロージョン)”も使えるのね……」


 一人だけ驚くポイントが異なっているが。


「何か質問はあるか?」


 絡んでくるボルガを押しやりながらリーフは言った。その言葉にハッとしたエマはおずおずと手を挙げる。


「ええと……魔術が扱えない人でも使えるんですよね?」


「最低限マナが扱えればな」


 リーフの答えはつまり、赤子でもない限り扱えるということと同義である。マナを持たない生物はよほどのことでもない限り存在しないし、人間族であれば幼少期には最低限マナを扱えるようになる。


「なんなら撃ってみるか? 受付嬢のあんたが使えれば、冒険者であれば誰でも使えると納得してもらえるだろう?」


「え、ええ……」


 エマはリーフから火砲を受け取ると、普段彼女が使う生活用の魔道具と同じようにマナを込める。すると、リーフの時と同じように火砲は唸りを上げた。


 おずおずとエマは、リーフのように火砲を担ぐと、照準器をのぞき込む。


「ええと、それで引き金を引く……きゃあ!」


 彼女が引き金を引いた瞬間、反動とともに火球が放たれた。突然のことにエマは思わず尻餅をついてしまう。砲口がぶれたことで、火球は上空に飛んでいった。


「ま、多少反動はあるが、しっかり構えれば問題ないはずだ」


「さ、先に言ってください!」


 エマの抗議をリーフは華麗にスルーした。


「俺からもいいか?」


 今度はザナックだ。


「なんだザナック」


「弾数は増やせないのか?」


 弾数が増えれば、当然継戦能力も高くなる。前に出て戦うザナックにとっては、援護の量は多く、そして長いほうがいいのだろう。彼のその質問に、リーフは難しい顔をして答える。


「できるかできないかで言えばできる。だが、かかるコストには見合わんな」


 弾数を増やすにはいくつか方法がある。質の良い魔石を使う、総魔鉄製にする、大型化する、威力を抑えるなどだ。しかし、これらを実行することで増える弾数はせいぜい1、2発であった。


 値段が高くなる以外にも、取り回しが劣化する、要求マナが増えるなど、多くのデメリットがある。それを分かりやすく、リーフはザナックに伝えた。


「爆発魔術をこのサイズで実用的にまとめるなら、現状がベターだ。開発時間がそうあるわけでもないしな」


「なるほどな……」


 理路整然としたその回答に、ザナックは少し残念そうに、しかし納得した様子で頷いた。


「いやぁそこまで考えてくれているとは! これで次のスタンピードも安心だ!」


 ボルガの感激した声が響く。だが、その言葉に含まれていた言葉にザナックが反応した。


「え、スタンピード起こるんすか!?」


「そうだ。あれ? 言ってなかったっけ?」


「初耳ですよ……」


 ザナックはげんなりした顔をした。どうやら、まだ冒険者たちに告知していないようだ。1か月後に起きるはずなのに、大丈夫だろうか。リーフはそこはかとなく不安を抱いた。


「……まあ、これでいいんなら量産を始めるが……あとは……」


 リーフはちらりとアリスを見やる。その視線に応えるようにアリスは頷く。


「ここからは私が受け持つわ。大船に乗ったつもりでいて!」


 アリスは自分の胸をトンと叩いた。ここからは商談、すなわち彼女の出番である。



・ ・ ・



 

 詳細を詰めるため、彼らはギルドに戻っていた。アリスとギルドとの交渉の間、リーフはザナックと雑談をしていた。


「しかしザナック。お前ボルガのお守りなのに全然だったな」


 試作品の実演してから交渉に入るまでの間、ボルガははしゃぎっぱなしだった。それだけならうざいだけなのだが、いちいち積極的に絡んでくるのはリーフとしては勘弁してほしかった。交渉のため別室に行く段になると駄々をこね始めたので、結局リーフがアイアンクローで黙らせたのだった。


「いや、ホント勘弁してくれ……」


 ザナックは苦笑しながら答える。それはもうすでに諦めたものの表情だ。


「よくあんなのについていっているな」


 その様子にリーフは苦笑いする。が、それに対しザナックは子供のように無邪気に笑う。そこにはボルガへの強い憧れが込められていた。


「まあ、あれで真面目な人なんだよ。冒険者(俺たち)目線だし……」


 それに、とザナックは言葉を継ぐ。


「偉大な“到達者”が俺たちを率いて守ってくれる。なら俺たちは応えなきゃ嘘だろ?」


「……案外慕われているんだな」


 度々感じていたボルガの持つカリスマ性。そして常に冒険者のことを考えた行動。だからこそ、彼はあんな性格でもなお、リューエンの冒険者たちに慕われているのだろう。そう、リーフは感じた。


「あれで普段の奇行が治れば万々歳なんだけどな」


「違いない」


 二人して笑いあう。そのタイミングで交渉を終えたのか、アリスとエマが姿を現す。


「あれ? ボルガさんは?」


 ザナックの言う通り、同じ部屋にいたはずのボルガの姿が見えない。その疑問にエマが答える。


「マスターはスタンピードの対策を考えると言って部屋に残っています。数日後には緊急クエストが発令されるはずです」


「なるほど、確かに真面目だな」


「だろ?」


 まるで自分が褒められたかのように、ザナックは笑った。


「リーフ」


「おうアリス。どうだった?」


「上々よ」


 やや疲れた表情ながら、アリスは自信気に笑みを作った。


「期限は1か月。試作品と同じものを30門用意してほしいそうよ」


 できるでしょ、というアリスに「当然だ」とリーフは答える。


「材料は全部あっち(ギルド)持ち。工房も当然貸し切りで使っていいって。それとこちらの要望もきっちり通したわ」


「流石じゃないか」


 交渉前に、リーフはアリスに一つの要望を出していた。それは報酬の一部を現物として先払いしてもらうことである。彼は火砲の原料でもある魔鉄を、報酬として希望していた。


「それにしても魔鉄なんて何に使うの?」


「それは今後のお楽しみだ」


 子供っぽくリーフは笑った。


「ま、いいわ。それを引いての金銭報酬がこれ」


「どれど……れ……」


 ぴらりと渡された紙を見たリーフは固まった。その額、平民の年収(オリザ王国基準)の実に10倍。リーフが生きてきた中で、一度も目にしたことのない額であった。


「……なんだか、初めてリーフの驚く顔が見れた気がするわ」


 満足げに、アリスは笑った。

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