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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
17/39

17 ゴーレムマスターは困惑する


 翌日、無事リューエンについたリーフとアリスは、早速ギルドに足を運んだ。


「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」


 カウンターでにこやかに応対するのは、先の薬草採取クエスト報告の時に担当した受付嬢、エマである。リーフたちの姿を認めたとき、前回のことを思い出してか、顔が引きつった彼女であったが、今回は空気がピリピリしていないのでほっとする。


「クエスト達成の報告よ。鉱山でこれを渡されたんだけど」


 アリスは鉱山の支店カウンターで発行された証明書を手渡す。


「達成証明書ですね。拝見させていただきます」


 エマは受け取った証明書をしばし眺める。そしてにこやかに顔を上げる。


「確認いたしました。おめでとうございます! 本日よりお二方はEランクに昇格させていただきます! つきまして、ギルドプレートの更新を行いますので提出をお願いします」


 言われた通り、二人はプレートを出すとエマに渡す。プレートを受け取ったエマは、手早く更新作業に入る。


「一週間と立たずEランクに昇格とは、前回から感じていましたが、良い腕をお持ちですね」


 作業をしながら彼女はリーフたちを褒める。


 実際、Fランクからすぐ昇格する人材はトントン拍子にランクを上げていく。現在のA、Bランクに所属する冒険者たちは、エマが知る限りほとんどがノンストップで昇格していった。


 褒められて嬉しかったのか、アリスとリーフは得意げに笑った。


「私がいたからね!」


「大半は俺のおかげだがな」


「は?」


「ん?」


 二人の声が重なる。互いが互いににらみ合う。一気に空気がピリつき始めたのをエマは感じ取っていた。


「おいおい。移動手段に俺のゴーレムを使っておいてそれはないだろう。明らかに俺のほうが貢献している」


 分かってないなコイツは、とばかりに苦笑するリーフ。


「そもそも私がいなかったら、リーフはいまだに冒険者登録すらできていないわ。そもそものきっかけを作った私のほうが貢献度は大きいんじゃないかしら?」


 子供なんだから、とばかりに肩をすくめるアリス。


「貢献という言葉の意味を分かってるのか? アリス」


「リーフこそ、随分と屁理屈をこねるじゃない?」


 ピリついた空気は火種となり、一気に燃え上がる。エマはそれをただ、見ていることしかできない。プレートの更新作業はまだ終わっていないからだ。


「あ、あのう……」


「薬草採取もあのトカゲ倒したのも俺のゴーレムだ! それをお前忘れてんじゃないのか?」


「討伐クエストで必要な分は私が倒したわ! それにあなた一人だったら、今頃クエストそっちのけで観光でもしてるでしょうね! 私が手綱を握ったからスムーズに昇格できたのよ!」


 エマは作業を続けながら、内心頭を抱える。過去にもギスギスしたパーティを対応したことはあるが、その彼らでさえ受付ではもめ事を起こさないだけの分別はあった。


 そもそもこの二人は、何故、自分が担当した時にこのようなことになるのだろうか。


 やいのやいのと言い合いを続けるリーフとアリス。それに終わりがないことを察したエマは、ようやくプレートを更新し終えると、たまったうっぷんを爆発させるかのようにドンッ、とカウンターを叩いた。


 言い争っていた二人は、驚いた表情でエマを見つめる。


「こちらが! 更新したプレートになりますので! ご確認をお願いします!」


 プレートを叩きつけるエマか。その気迫に押されたか、リーフとアリスの言い争いは一気に沈静化する。


「す、すまなかった……」


「ご、ごめんなさい……」


「謝るくらいならカウンターでケンカしないでください! そういうのは手続き全部終わってからよそでやるもんです!」


 当たり前の正論に、リーフもアリスも申し訳なさそうにしながら、プレートを受け取る。プレートの刻印は“F”から“E”へと変わっていた。


「で! 他に御用はありますか!」


 もはや苛立ちを隠さないままエマは二人に聞く。正直、彼女としてはもうさっさと立ち去ってほしかった。が、リーフが「すまないが……」と言葉を発すると、げんなりとした表情で応対した。


「あっちで買取できないと言われた素材があってな。査定を頼みたいんだが……」


「ハァ……かしこまりました。で、その素材はどこに?」


「大きいから外に置いてたんだ。すぐに持ってくるから少し待っててくれ」


 リーフは小走りで外に出ると、晶柱を抱えてすぐに戻ってくる。


「ロックフェルドラゴンの希少ドロップだそうだ。査定を聞きたい」


 その言葉にエマは再び頭を抱える。


「ロックフェルドラゴン!? あなたたち死にたいんですか!? 前にBランクの魔物を狩ってきたと思ったらお次はAランク! なんでFランク卒業の試験でAランクと魔物と戦ってんですか!? ああもう、これだから実力のある新人は、向こう見ずなんだから……! しかも倒してくるなんて、あなたたち何やってるかわかってるんですか!?」


 普段、彼女は仕事の場でこのように爆発することはない。しかし、日々の疲れはもちろんとして、Bランクを倒してきた新人の昇格に関する会議、それによる仕事の増加、無茶をする新人への心配と苛立ち、そして何よりその原因を作った張本人たちの言い争いによって、たまったストレスが爆発したのだ。


「い、いや不慮の事故があってだな……」


「そ、そうそう。ダンジョンの、トラップ? にはまって……」


 尋常ならざる剣幕に、2人はしどろもどろと言い訳をする。だが、それをエマはバッサリと斬り落とす。


「命あっての物種でしょう! 救助を待つとか、逃げるとか、そもそも新人同士でダンジョンなんていかずベテラン雇うとか、いろいろとやり方はあったでしょう!? そういうの考えさせるのも、このクエストの意義なんですよ! それをあなたたちは……!」


 ひとしきり爆発したエマは、肩で息をしながら諦めたようにため息をつく。


「査定をしますので少々お待ちください……」


 そして何人か職員を連れてきて、晶柱を受け取ると、奥に引っ込んでいった。


 その様子を眺めながら、リーフはアリスへある提案をする。


「なぁ、アリス。一つ言いたいことがあるんだが……」


 硬い表情で、アリスもまたリーフへ胸に去来した思いを口にする。


「奇遇ね、私もよ……」


「「もうここで言い争うのはやめとこう……」」


 出会って一週間。初めて二人の心が一つになった瞬間であった。




 

 しばらくして、エマが奥から戻ってくる。怒りの表情こそ引っ込んでいるが、明らかに表情が硬い。


「確かに、ロックフェルドラゴンの希少(レア)ドロップでした。状態も非常によろしいので、査定としましては40万ゴルとさせていただきます」


「さすがに良い値がつくな……。しかし、質の良い魔銀(ミスリル)となると売るには惜しいな……」


 リーフは少々思案する。そして、思いついたようにアリスに尋ねる。


「アリス、お前も何か魔道具が欲しくないか?」


「なによ突然……ああ、そういうことね。別にいいわよ」


「ありがとうな」


 リーフの言わんとすることを理解したアリスは頷く。


「確か、工房の予約をしていたと思うんだが……いつ頃になるんだ?」


 エマに向きなおったリーフは、工房の予約について聞く。エマは突然何を言い出すのかと首をかしげながらも、それに答える。


「ええ、Eランクに上がられましたし、ザナックさんの口添えもありますので、来週には使えると思いますが……」


「分かった。それならこの魔銀、それまで預かってもらえるか? 売らずに加工することにする」


 ミスリルを売らないというリーフの言葉に、エマは首をかしげる。しかしすぐに先ほどの言い争いを思い出す。目の前の男がゴーレムを使役しているといった話だ。つまりそれは、それなりの腕を持つ魔導技師と言うことにほかならない。


「……かしこまりました。もちろん手数料はいただきますが」


「構わない」


「それでは3000ゴルになります。工房に関しましては、明後日には利用日時の決定がしますので、それ以降に来てくだされば、その時にお伝えします」


「助かる」


 リーフは懐から金を出すと、アリスとまた言い争いながら離れていく。その様子をエマは疲れた表情で見送るのだった。




・ ・ ・



 その後、リーフとアリスはEランクの薬草採取のクエストや魔物の討伐を達成しながら一週間を過ごした。


 カウンターでの言い争いこそ少なくなったが、明らかにEランクを超えた成果をだす二人を、エマは胃を痛めながら対応するのだった。というのも、このような優秀な人材をリューエン冒険者ギルドの上層部は早く昇格させようとしており、それをエマが阻止していたからだ。


 別に彼らに何か恨みがあって阻止しているのではない。むしろエマは、単純に彼らが心配なだけであった。


 ランクが上がる、それは多大な危険をはらんだクエストを数多く受けさせられることと同義である。特にⅭランク以上は、危険な依頼の指名をされることもあり、それまでと危険度が段違いなのだ。


 いくら腕が立つとはいえ、彼らはまだ冒険者としては新人。そのような危険なクエストに向かわせることをエマは良しとしなかった。


 もちろん、一受付嬢の彼女はさほど発言力があるわけではない。だが、最も冒険者たちと関わっているのも受付嬢なのだ。


 ギルドが厚い信頼を寄せるCランク以上の冒険者たちを味方につけて、口添えという形で阻止しているのだった。それは奇しくも、この町で大きく名を上げるわけにはいかないリーフにとっては僥倖だった。もちろん、リーフはそれを知らないし、エマも単純な心配からの行動ではあったが。


 しかし、それも長くは続かなかった。


「エマさん……その人は?」


 そして、工房の利用日。 


 工房を使う前にギルドに来てくれとエマから頼まれていたリーフは、疲れた顔の彼女に困惑の表情を向ける。それはアリスも同様だ。

 エマの後ろには、ザナックと、見慣れない初老の男がニコニコとしながら立っていた。


「この人は……」


「ああ、エマ君。自己紹介くらい自分でするさ。まだ、おしめをつけてもらうほどボケちゃないからね」


 ジョークを言うその男をリーフは注意深く観察する。白くなった髪に浅黒い肌。服の上からでも分かる引き締まった体。その顔にはしわと、そしていくつかの傷跡が見て取れる。


「俺はボルガ。このギルドのマスターをさせてもらってる。今日は君の魔道具作りを見学させてもらおうと思ってね」


 ボルガはそう言って、にこやかに右手を差し出すのだった。

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