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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
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15 ゴーレムマスターと魔術の人形


 アリスの火球が姿を変え、炎の魔人を形成する。筋肉質な上半身に兜を象った頭部、足は無く、トカゲと同等のサイズだ。そして何より目を引くのは巨大な異形の両腕だ。


「魔術が……変わった……!?」


 自らが放った魔術の変化に、アリスは目を奪われる。そんな彼女に、リーフはどうだと言わんばかりの笑みを浮かべる。


「解説はあとだ。トカゲを片付けるぞ!」


 リーフの指を動かせば、炎の魔人(ムスペル)は、その頭部に収まった魔導炉を瞳のように輝かせ、その巨大な腕を振りかぶる。


 本能的な危機を感じたのだろうか。攻撃が来る、その一瞬を突き、トカゲはその太い尻尾でムスペルの胴体を薙いだ。だが、魔人の胴体を砕くはずの尻尾は、何を砕くでもなくすり抜けてしまい、逆に尻尾に火傷を負う。


 予想外であったか、トカゲは苦し気なうめき声をあげた。


「火に実体があるかよ!」


 ニヤリと笑ったリーフは、火傷で動きが止まったトカゲに対し、炎の魔人(ムスペル)の大きく振りかぶった拳を振わせる。


 実体がないはずの魔人の拳がトカゲの横っ腹へめり込む。熱と衝撃を同時に喰らい、トカゲは苦悶の叫びをあげながら後退する。


「まさか……炎壁(フレイムウォール)!?」


 アリスから驚嘆の声が上がる。


「その通り! 性質を魔術によって自在に変化させる! それが魔術人形(マギアゴーレム)だ!」


 リーフはまるで一流の指揮者のように、魔人を操る。魔人はそれに応え、体を自在に変化させながら、トカゲを攻撃する。


 魔人の打撃は確実にトカゲを削っていく。炎の拳が直撃するたび、トカゲの甲殻は砕け、内部を焼き焦がしていく。


 反対にトカゲの攻撃はなんら有効的な打撃を与えられてはいない。躍起になってする反撃は、すべて魔人の身体を通り抜けていく。それどころか、攻撃をするたびに火傷を負う始末であった。


 戦いはもはや、一方的なものになっていた。


「グルアアアアアアアアアア!!!!」


 しかし、トカゲもまだ終わらない。


 魔人を倒せないと見るや、標的をリーフたちに変える。


 巨体に似合わぬ素早さで距離を離したトカゲは、今度は両前足を地面に叩きつけ岩の槍を生成する。片足で使った時の倍以上の数の槍がリーフたちに襲い掛かる。


「無駄なあがきだ! “炎刃(フレイムカッター)”!」


 リーフの叫びに魔人が身をひるがえすと、腕を刃に変化させ薙ぎ払う。


 鋭く変化した炎の刃は、一太刀で伸びた石の槍を容易く切断した。マナによるつながりを失った槍は、リーフたちを害することもできず、力をなくし落ちる。


 そのまま、魔人はトカゲへと切りかかった。


 岩の槍をすべて無力化されたことに狼狽する暇もなく、トカゲは炎の剣に切り刻まれる。強靭であろう岩の鱗は熔かされ、鈍色の瞳は焼かれ、全身くまなく火傷を負う。

 トカゲの意地だろうか。四肢は力を無くしかけて、それでも口を大きく開けて岩塊を撃ちだそうとする。


 だが、反撃をリーフは許さない。


「これで終わりだ!」


 魔人は右腕の刃で、左腕を切り落とすと、その炎を吸収する。左腕の炎を吸収した刃は魔人の巨体を超え、大きく、そして白く輝く。


「“白炎刀(フレアブレード)”!!」


 ムスペルは白く輝く刃を構える。そして勢いよく突き出された白炎の剣は、圧倒的熱量を持って、岩塊ごとトカゲを刺し貫いた。

 トカゲの瞳から光が消え、四肢が力を失う。


「ふん!」


 最後のトドメとばかりに、リーフは刃を切り上げる。


 トカゲの巨体は真っ二つになり、完全に沈黙した。



・ ・ ・



 ふぅ、と一息つき、リーフは傀儡魔術を解く。マナの糸がフッと消え、炎の魔人も霧散していく。最後に魔人の頭部あった魔導炉が、甲高い音を立てて地面に落ち、割れた。


 真っ二つになったトカゲの死体もネズミのように、床に吸収されるように溶けていった。後には、トカゲの背中に生えていた、人間大ほどの白い晶柱が残っただけだ。


「で、結局何だったの? あのゴーレム」


 アリスがリーフに近づきながら言う。彼女は火球(ファイア)の魔術を放った後、戦いに巻き込まれないように下がっていた。


魔術人形(マギアゴーレム)だ。しょうがない、解説してやろう」


 ニンマリと笑いながらリーフは答える。そこには、先ほどの戦いから来る疲労などは微塵も感じられない。むしろ、自身の好きなものを存分に語れることがうれしいといった表情だ。


 それを見たアリスは、地雷を踏んだことを知った。


「簡単に言えば、物質の代わりに魔術で構成されたゴーレムだ。通常のゴーレムと違うのは、魔術によっては実体を持たないことだな。そもそも、なぜ魔術でゴーレムを作ろうという発想になったのかというと、土魔術で発生した岩塊で――」


「詳しいことはあとで聞くから、概要だけお願い」


 なので彼女は話をぶった切る。救われたことなどに感謝はあるが、それよりなによりめんどくささが勝った。魔術師として興味はあるので、詳しいことは後でゆっくりと教授してもらおうとも思ったが。


 ぶった切られたリーフは、一瞬残念そうな顔をしたが、切り替えて話を続ける。


「投げ入れた鉄球――つまり魔導炉を核としてマナを供給する、魔術の特性を持ったゴーレムだ。火魔術で壁や刃を作れるように、魔術人形はその体を壁にも刃にもできる。特に火や風なら実体を持たないから、適切な攻撃手段を持たない限り倒すことは難しいだろう」


「すごいわね……弱点とかあるの?」


「まずは反属性の魔術だ。火なら水、水なら土といったように、弱点となる属性の攻撃を喰らうとダメージを受ける。次に魔導炉だな。これを破壊されると、マナが供給できないために数分も経たず消滅する。元が魔術だから当然だがな」


「無敵ってわけじゃないのね。でね、その……あれって二人じゃないとできないの?」


 少し恥ずかしそうにアリスは聞いた。それが彼女にとって一番聞きたいことだった。


「言っただろう、俺たちのってな。アレは作るのに時間がかかる。魔導炉の準備から、敵の隙から、魔術の準備から一人でやらなきゃならない。他人の魔術を使う場合はそいつの協力が必須だが、役割分担ができるからずいぶん楽になる」


 リーフはアリスの眼をまっすぐに見ながら微笑む。


「お前がいてくれて助かった。ありがとうな、アリス」


 初めて聞く素直な感謝に、一瞬驚いた顔をしたアリスは、慌ててプイと顔をそむける。決して、リーフの言葉に照れてしまったからではない。


「あ、あなたと協力するって話だったし! あなたが協力してくれるなら私も協力しなきゃいけないし!」


 噴火したように一気にまくしたてる。そして、彼女はリーフにくるりと背を向けた。


「……で、でもね、その……ありがとう」


 顔は見せぬまま、しかしぽつりと呟いたアリスの感謝に、リーフは苦笑する。だが、不思議と晴れやかな気分になった。


「フ、どういたしまして」


 その言葉には、確かな信頼が含まれていた。アリスはリーフに顔を見られないよう背けたまま、はにかむように笑った。


「ずいぶん仲がよろしくなりましたね」


 唐突に上から声が響いた。リーフとアリスがそろって上、即ち落ちてきた穴を見上げると、こちらを覗く輝く一つ目が見えた。


「ドゥ、ドゥーズミーユ!?」


 驚くアリス。


「ドゥーズミーユか。どうだ、いけたか?」


 対してリーフはようやくかといった態度だ。のんびりとドゥーズミーユに、何かの確認をする。


「はい。浅部においては問題ありませんでした。今、梯子を下ろします」


 ドゥーズミーユの小さな体の横から、縄梯子が下りてくる。


 何がなんだかよくわかっていないアリスを先に上らせると、リーフはトカゲのドロップである晶柱を担いで後に続いた。


 上った先には、ドゥーズミーユと梯子を支えるゴーレム、そしてそれに驚いているアリスがいた。


「え、ど、どういうこと? ダンジョンじゃゴーレム作れないんじゃなかったの?」


「アレは外に置いてきたゴーレムだ。ドゥーズミーユの遠隔操作でこっちまで来てもらった。ま、保険だな」


「もともと、ゴーレムの遠隔操作はダンジョン探索の救助用です。テスト結果は上々と考えます」


 アリスの動揺に、なんともなしに答える一人と一体。その態度に、アリスは一気に頭に血が上るのを感じた。


「う、う――」


「次は中部、最後に深部か。テストがうまくいくというのは気持ちがいいもんだな――アリス? どうした、どこか痛むのか?」


 嬉しそうな顔から一転、心配そうな顔を作るリーフ。だが、それはアリスの上った血を下げることはできなかった。


「嘘つきぃ!」


 アリスは目に涙をためながら怒鳴った。


「ゴーレム持って入らないって言ったじゃない! 嘘つき!」


「い、いや、でも保険は大事だろ? それに二人で協力って話を――」


「それは地下での話! 今は一階でしょ!」


「えぇ……」


 アリス自身、結構無茶なことを言っているとは自覚していた。しかし、一度沸点まで上がってしまった怒りを急に収めることも難しかった。


「先に出てるから! 後から来てね!」


「おいおい……道を覚えてるのか?」


「馬鹿にしないで!」


 そしてずんずんと門番部屋の出口に向かっていく。しかし、出る直前に立ち止まると、少しだけ顔をリーフたちに向ける。


 それはついさっきまでの怒っていた時とは異なる、神妙な、そしてどこか不安そうな顔であった。


「ねぇ、リーフ」


「なんだ?」


「あなたたちってたぶん、人には言えないことがあるんでしょ?」


「……まあな」


 突然の態度の変化に、リーフは困惑しながらも問いに答える。


「でもね、それは私もなの。それにたぶん、私ってこんな性格だから何度も迷惑をかけると思う」


 そこで、躊躇したようにアリスは口をつぐむ。そして、少しだけ震えた声で言葉を継いだ。


「でも、それでもあなたの旅についていきたいと思ったの。迷惑じゃなければ、だけど――」


 だんだんと声が小さくなる。

 それにリーフは笑って答えた。


「それはお互いさまだろう? アリス。お前がついてきたいのなら、俺たちの旅に同行してくれ」


 アリスの肩が震えたように、リーフには見えた。


 少しの沈黙の後、アリスはリーフに背を向けると、少し上を向く。


「……そ、そんなに言うなら同行してあげるわ! か、感謝することね! ……先に外で待ってるから!」


 震える声で言い切って、アリスはリーフたちを振り返りもせず、走っていった。


「フ、素直じゃない奴め」


「ええ。まさか、リーフ様以上だとは考えてはいませんでした」


「……お前も言うようになったな」


 残っていた鉱山クマと、鉱山トカゲのドロップをゴーレムに持たせ、リーフたちはアリスの後を追うのだった。






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