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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
11/39

11 ゴーレムマスターはクエスト達成を報告する


 三人と素材を乗せたゴーレムたちがリューエンに着いたのは、ちょうど日が沈み始めるころだった。


 入市の手続きをしてギルドへ向かう。クエスト達成の報告と、素材の売却を行うためだ。アリスもそれなりには回復したようで、しっかり自分の足で歩いている。ザナックも、デスブレード・ビートルに追われていたときと比べると、ずいぶん回復していた。


「甲殻のほうはボロボロだからアレだが、この顎は結構な高値で売れると思うぜ」


「そうなのか? アリス、お前商人なんだから相場くらい分かるだろ。どのくらいだ?」


「あー、うん、え~とねぇ。ちょ~っと忘れたな~……」


「おい……それでも商人か……」


 そんな軽口をたたきながら大通りを歩く。早朝から活気のあった通りは夜にさしかかるこの時間帯でも変わりなく、食料に消耗品に豊富に売っている。冒険者というのは受注するクエストによって出発時間が変わるので、この時間でも活発に店が開いているのだ。


 十分も歩けばギルドの入り口が見えてくる。さすがにリーフも二度目なので感動で動けないということはない。よどみなくドアを開け、迷いなく受付に向かう。クエストの報告をするのはリーフだ。


 ギルド登録の時もクエスト説明の時も、アリスが主に応対した。だが帰り道に、リーフはアリスに頼み込んで自分が報告をさせてもらうことにした。彼もそれっぽいことをしたかったのである。


「お疲れ様です。どうされました?」


「午前に薬草採取のクエストを受けたリーフなんだが……」


「かしこまりました。ではギルド証の提示をお願いします」


 言われるがまま、リーフとアリスはギルド証を提示する。


「……はいはい、確認しました。リーフ様にアリス様ですね。それでは、薬草の提示をお願いします」


「これだ」


 リーフは腰に下げていた、リキュアの入った皮袋を受付嬢に出す。


「俺とアリスの分、合わせて20株入っている。それで問題ないんだろう?」


「はいはい、では確認させていただきますので、少々お待ちください」


 渡された皮袋を持って受付嬢は奥に引っ込む。地味に緊張していたリーフは、滞りなくことが進んでいることにそっと安堵の息をついた。

 そして待つこと数分、彼女は血相を変えて飛び出してきた。


「リ、リーフ様!? あなた、どこまで薬草を採りに行ったんですか!?」


「魔の森の外縁部のはずだが。リキュアはポーションの原料だろ? 何か問題でもあったのか?」


「ねぇいったいどうしたの?」


 ギルド証を渡した後、テーブルでザナックと談笑していたアリスが、何が起きたのか確認しに来る。


「いや、俺もさっぱりだ」


「どうせ何か変なことでも口走ったんじゃないの? で、どうしたの? 受付嬢さん」


「あ、いえ、その……」


 言いよどむ受付嬢に、アリスは分かってますよといった様子で言った。


「どうせリーフが粗相したんでしょ? ごめんなさいね。この人、できる風に見せかけて結構ポンコツだから」


 その言葉にリーフがじろりとアリスを見下ろす。


「お前にだけは言われたくないな」


 その返しにアリスがキッと下から睨み返す。


「ホントのことでしょ? いちいち感動しちゃって、立ち止まって、なんだか子供の相手をしているみたい。魔術の腕だけは認めてあげるけど、それをとったら一体何が残るの?」


「ポンコツ商人がどの口で言うんだ。お前はその魔術の腕もさっぱりじゃねぇか。だいたい、今回だってザナックがいなかったら魔物の素材を回収し忘れるところだったんだぞ。本来、あれはお前が言うべきことなんじゃないのか」


「あ、あのぅ……」


 だんだんとヒートアップする言い争いに、受付嬢はただただ困惑するだけだ。


「むぅう! 魔術はまだ本気みせてないだけだし! リーフがグチグチ言うから本領発揮できないんじゃない! 炎魔術さえ使えれば、あの虫だって吹き飛ばせたのに!」


「森で炎なんか使わせるか! お前は爆破狂か! なんでも吹き飛ばせばいいという、その短絡的な考えをまず頭から吹き飛ばせ!」


「ちょ、ちょっと……その……」


 やいのやいのと言い争いを続けるアリスとリーフ。リーフの鋭い赤銅色の眼と、アリスの燃えるような紅い眼が、バチバチと火花を散らす。

 さらなる悪口合戦に入ろうとしたその時、二人の間にザナックが割り込んだ。


「ちょっとちょっと。受付嬢さんが困ってるじゃないか。いったいどうしたんだ?」


 ザナックの介入により、二人の間に一瞬の空白が生まれる。その隙をついて受付嬢が割り込んだ。


「ざ、ザナックさん! お二人とはお知合いですか?」


「おお、エマちゃんか。彼らは俺の命の恩人さ。で、どしたの? 何か問題でもあった?」


「ああ、ええとそうじゃないんですけど……そこのお二人が持ってきてくださった薬草がリキュアでして……Fランクの方がまさか、森の中腹まで入ってこれを採ってくるというのは、当ギルドでは前代未聞でして……」


「なるほど。それで、彼らが本当に森に入って薬草を採ってきたのか確かめたかった訳か。それなら、俺が保証しよう。確かに森に入ってリキュアを採取してたよ」


「ザナックさんがおっしゃるのでしたら……」


 ザナックとエマと呼ばれた受付嬢の間で、スムーズに話が進んでいく。


「ちょっと待った……結局なんだったんだ?」


 その様子に気がついたリーフは、一旦、罵り合いを中断しザナックにたずねる。アリスもそれを知りたいとばかりに、ザナックとエマのほうを向く。


「あー、つまりだな。リキュアの採取クエストはCランク相当なんだけど、それをまさかFランクの冒険者が採ってくると思ってなかったから不正をしたのか疑われたわけだ」


「Fランクのクエストは、他のランク帯のクエストと違って試験の一環でもあるんです。今回の薬草採取のクエストですと、情報収集能力、自身の実力を見極める判断力を試していました。薬草の名前を明示しなかったのはそのためです」


 曰く、あえて薬草名を提示しなかったのは、魔の森に生える薬草の情報を集め、自身の実力で森のどの深度まで入れるのか判断できるかをテストしていた。

 それができる大抵の駆け出したちは、魔の森外周に生える各種薬草を採取する。できないものは魔の森で死ぬだけだし、その程度のことができないようであればギルドには必要ない、とのことだ。


「ですがまれに、第三者との取引で薬草を入手しそれを提出するものがいます。それでは試験の意味がありません。そしてリーフ様方はリキュアという、Fランクでは信じられないものを持ってきました。ですから不正をしたのではないかと……」


「それで血相を変えて慌てていたってわけか……ほらな、アリス。俺のせいじゃなかったろ?」


「う……! むぅう……う、疑って悪かったわね!」


 悔しそうに謝るアリスと、それを勝ち誇ったように見下すリーフ。ザナックは若干リーフに引きながら、話を続ける。


「とりあえずは疑いも晴れたんだし、報酬もらっとけ。それにもう一つ土産もあるんだし」


「そうだな」


 エマからお金を受け取ると、リーフは外に待機させていたゴーレムを中に入れる。デスブレード・ビートルの素材を担いだゴーレムである。


「そ、その素材は!? ザナックさんが倒したんですか!?」


「まさか。さっきも言ったが俺は彼らに助けてもらったんだ。そこの彼、リーフが倒したデスブレード・ビートルの魔石、甲殻の一部、それに顎だ」


 ザナックのその言葉に、エマは言葉が出なくなる。Fランクの駆け出しがBランクの魔物を倒す。それは、少なくともこのリューエンのギルドにおいては初めてのことであった。


「し、新人が無茶をして……。ええと……と、とりあえず査定をさせていただきますので、少々お待ちください!」


 エマは我に返ると、慌てて周りの職員に声をかけ、素材を受け取って、再度奥へ引っ込んだ。


「はっはっはっ! そりゃそうなるよな。前例ねぇんだし」


 その様子をザナックは楽しそうに眺めている。


「ザナック。あんた、結構信頼されてるんだな」


 リーフが感心したように言う。必死で逃げてきた印象しかなかったため、意外だったのだ。


「これでもCランク、この道10年のベテランだからな」


「なるほどな。培ったものが違うってわけだ。おかげで要らん疑いをかけられずに済んだ」


「助けてもらった礼よ! 気にすんな!」


 そういって愉快そうにザナックは笑う。ムクれてテーブルに戻ってしまったアリスを放っておいて、いろいろと話していると、エマが奥から戻ってきた。


「お待たせしました。査定額ですけれど、甲殻のほうが損傷がひどいため……このくらいの値段での買取になりますね」


「ふうん、結構な額になるんだな」


「顎と魔石の状態が良かったので。それにBクラスですから」


 提示された金額は8万ゴル。平民の一般年収(オリザ王国基準)の大半を一日で稼いだことになる。


「そうだな……。それでいいと言いたいところなんだが……」


「どうしたんだ? 何か不満でもあったか?」


「いや、あの顎は惜しいと思ってな。一本は俺用の武器にしたい。顎一本分抜いたら査定はどうなる?」


 エマは少々思案し返答する。


「そうですね、それでしたら5万ゴルですかね」


「ならそれで頼む。それとなんだが、どこか工房を紹介してくれないか。顎を加工したい」


「紹介ですか!? それはさすがに……Fランクでは厳しいですね」


 そのリーフの言葉に、エマは渋い顔をする。さすがにFランクでは信用にかける。


「そんな固いこと言ってあげるなよ、エマちゃん。ほら、あらぬ疑いもかけたわけだし? たぶん彼らならすぐにもう一つのクエストも達成するだろうからさ、今のうちに探してあげればいいじゃん」


「う、うう、ザナックさんがそこまで言うんなら……分かりました。ギルドマスターにも話を通して、一週間ほどで探してみます」


「ありがたい。よろしく頼む」


 にこやかにリーフは言った。


「では、本日はありがとうございました。くれぐれも、鉱山クエストでは、無茶はしないでくださいね。絶対ですよ」


 エマのその言葉に、リーフは片手を上げて答え、カウンターを離れた。

 ついでザナックに向きなおり、改めて礼を言う。


「あんたのおかげでいろいろと助かった。感謝する」


「さっきも言ったが、あんたたちは命の恩人だからな。これくらい当然だ」


 そうザナックは言うものの、リーフとしては本当に助かったと心から思っていた。なにせ最初に協力を頼んだアリスがあのポンコツっぷりだ。町について最初はよかったが、それ以降があんまりにもあんまりで、彼女に対する評価は下降の一途をたどっていた。


「それでもだ。相方がアイツだったから、余計にな」


 その言葉に、ザナックは苦笑する。


「はは。ま、あの嬢ちゃんをそんなに悪く言ってやるな。口ではああ言うが、あれで結構あんたのこと信頼してるみたいだぜ」


 リーフは驚きの表情をつくる。


「会ってまだ二日も経ってないんだぞ?」


「じゃ、その二日であんたを信頼できると踏んだんだろ」


「分からんな」


 リーフは首をかしげる。会ってそうそう、今に至るまで口喧嘩ばかりしている気がする。それが信頼につながるとは、リーフには思えなかった。


「もう一個のクエストも嬢ちゃんと行くんだろ? そん時でも、またしっかり見てやればいいさ」


「……そうするさ」


 そう言って、リーフはザナックに別れを告げてギルドを出る。その際、テーブルに座るアリスに声をかけたがスルーされたので、明後日の朝クエストに出発することだけ伝えて、報酬をアリスの取り分だけテーブルに置いておいた。


 外はすっかり暗くなっていた。涼やかな風が頭を冷やす。

 

 リーフは夜空を見上げて、ふっと苦笑する。


 確かに、少し性急だったかもしれない。国に裏切られて、気にしていないと思いながらも、どこか心が荒んでいたのかもしれない。アリスはまだ少女だ。それをただ使える、使えない、で判断するのは、自由で気ままな旅には似合わないだろう。


「なぁ、ドゥーズミーユ」


「どうしました?」


 懐のドゥーズミーユが返事をする。


「お前の勘、当たっているといいな」


「私は勘を外したことがありません」


 その冗談めかした返答に、リーフは思わず吹き出してしまう。


「そもそも、今回が初めてだろうが」


「それでも当たりますよ。リーフ様がそう望むのであれば」


「……そうだな」


 リーフはゆっくりと宿へ歩いて行った。夜空には二つの月が輝いていた。



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