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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
10/39

10 ゴーレムマスターは意気揚々と解説する


「アリス、とおっさん。どうだ、すごかったろ? 俺のゴーレム魔術は!」


 なんとも軽い口調で歩いてくるリーフを、アリスと男は無言で迎える。先ほどの光景からまだ立ち直れていないのだ。


「おいおい、黙るなよ」


「リーフ様の魔術が素晴らしすぎて、言葉もないのでは」


「そうかそうか! フ、フフ、そんなに俺の魔術はすごかったか!」


 ドゥーズミーユの言葉に機嫌をよくするリーフを見て、ようやくアリスが少し立ち直る。


「ね、ねぇ、リーフ。えぇと、問題なかったらさっきの、その、ゴーレム魔術?について教えてくれないかしら」


「フフ、そうだろう気になるだろう? アレは俺のオリジナルだからな!」


 恐る恐るアリスが聞くと、リーフは待ってましたとばかりに話し出す。


「現代のゴーレムってのは創造魔術で作るのが一般的だ。マナや魔術式を織り込み、指示に対しある程度自動で動く。このゴーレムが発明されたのは今からおおよそ500年前だ。しかし――」


「しかし、それ以前にもゴーレムというものは存在していました。現在の自立式ではなく、先ほどリーフ様が行ったような傀儡式です。すなわち、マナの命を吹き込まない生粋の人形を組み上げ、外側からマナの糸を使って操る方式です。リーフ様の方式はこの自立式と傀儡式を複合させたものですね。口で言うのは簡単ですが、相応に難易度が高いです。大陸でもまともに使えるのはリーフ様だけではないかと考えます」


 説明は自分の仕事とばかりに、リーフの言葉を引き継ぐドゥーズミーユ。自信満々のセリフを奪われたリーフは数度口をパクパクさせてしょんぼりとしてしまう。

 それを不憫に思ったアリスは、再度質問をする。


「じ、じゃあ、なんでその傀儡式ってのは廃れたの? ねぇリーフ、教えてくれない?」


「フ、いいだろう。理由はいくつかあるが……。まずはドゥーズミーユが言った通り、難易度が高いことだ。ゴーレムを手足のように操るというのは実際難しい。サイズが巨大であれば余計にな。次にだが、これを見ろ」


 リーフはマナの糸を解く。すると、繋がれていたゴーレムは文字通り、糸が切れたように倒れ伏し徐々にチリとなっていく。そして一分もしないうちに、10メートルの巨体がチリとなり、風に吹かれて消えてしまった。


「この通り、マナの糸による傀儡魔術は、対象に多大な負担をかける。木人形(ウッドゴーレム)程度では、一度戦っただけでチリに還っちまうんだ。しかも当時は自立式は存在しなかった。戦闘のたびに現地で人形を組み上げ、使役し、一回一回使い捨てじゃあ勝手が悪すぎる。ま、廃れた最たる理由は自立式の登場だけどな」


「なるほどなるほど」


 生返事である。実際のところ、アリスは話半分しか聞いてはいない。質問したのは、衝撃的な光景から立ち直る時間が欲しかったこと、そしてあんまりにもリーフが不憫だったからだ。説明を遮られて、まさかあそこまで落ち込むのかと、アリスは少しばかり呆れた。


 もちろん、魔術師として先ほどのゴーレムに興味がないわけではないが、かといって今この場で理解しようとも思えなかった。

 話しを遮らないのは、ひとえに楽しそうに解説するリーフを止められなかったからだ。


「だが当然――」


「ですが当然、傀儡式にも利点があります。熟練すれば格闘術のような正確で繊細な動きをさせることができること。自立式が状況判断や行動選択時に使用されるマナをそのままパワーや防御にまわせること。様々な魔術を直接、その場で付与できること。大きくはこの三つです」


「クソ……。まだ空気の読み方を学習できてはいなかったのか……!」


 再びの介入に、がっくりとリーフはうなだれる。

 一方でドゥーズミーユは満足げだ。「これからも説明であれば任せてください」なんて言っている。


「ゴーレムには人の心が分からない……! いや、必ず学習させてみせる……!」


 いつの間にかリーフが変な情熱を燃やしていた。アリスはため息をつく。


「よぉく分かったわ。解説ありがと、リーフ。それにドゥーズミーユも。それで提案なんだけど」


「却下……いや。なんだ?」


「即却下されない程度には信頼してもらえたのかしら。そろそろリューエンに戻りましょ、そこのおじさんも連れて」


 アリスのその提案に、リーフは彼女と出会ってから一番の残念な表情を見せる。


「うぅん、まだ説明してないところは多いんだが……」


「あとでいくらでも聞いてあげるわよ。落ち着いた場所でね」


「うぅむ……それもそうだな。じゃあ、帰るとするか」


「ちょ、ちょっと待った!」


 男はようやく立ち直ったのか、ゴーレムを作って帰ろうとする二人に制止する。


「素材をそのまま置いて帰るつもりか!? Bランクの魔物だぞ!?」


「我に返ったと思ったら、第一声がそれなのね」


 アリスの冷たい言葉に男はうっとたじろぎ、慌てて頭を下げる。


「すまなかった。助けてもらって本当に感謝してる。俺はザナック、ザナック・アンダーソンだ。Cランクの冒険者だ」


「逃げようとしてた割には礼儀正しいわね……。私はアリスよ。で、そっちで今ゴーレムを作ってるのが――」


「リーフだ。ランクはF、駆け出しだ」


「Fランク!? いや、驚くのは後にする。俺が言いたいのは、魔物を倒しておいて素材を持って帰らないのかってことだ」


 だが、その言葉にリーフとアリスはピンと来ていない。そこで、ドゥーズミーユが助け舟を入れる。


「魔物の素材はギルドで売却できますし、装備や魔道具にも使えます。リーフ様もいくらか扱ったことはあるはずです。その供給元の一つが冒険者ギルドなのです。Bランクの魔物でしたらそれなりに有用であると考えます」


「あ、ああ、なるほどな」


「魔物全般に存在する魔石。加えて、デスブレード・ビートルであれば、顎と甲殻でしょうか」


「うぉわ! なんだそのちっこいの! ……うん、まあそういうことだ」


 ザナックとドゥーズミーユ曰く、ギルドで魔物の有用な部位を素材として売却することができる。冒険者の主な収入はクエストの達成報酬であるが、その道中で狩った魔物の素材を売ることで副収入を得ているそうだ。そして、Bランクの魔物の素材は供給が少なく、市場には多くは出回らない。デスブレード・ビートルであれば有用な素材が多く、なおさら高く売れるとのことだ。


「あんた、その実力でFランクってことは、何か訳ありなんだろ? 金が欲しいんじゃないのか?」


「確かにな。しかし、このサイズを運ぶのは手間だぞ」


「おいおい。それこそゴーレムで運べばいいだろ」


「……それもそうだ」


 早速リーフはゴーレムを作ると、ザナックの指示に従って解体を始める。作業をするのはもちろんゴーレムだ。


 顎を根元から取り外し、甲殻は無事な部分だけはぎ取る。魔石は体内の心臓付近に存在するため、ひっくり返して胴体を掻っ捌き回収する。全てを終えるのに三十分もかからなかった。


 ちなみにその間襲ってきた魔物は、アリスと作っておいたもう一体のゴーレムが追い払っていた。アリスはもちろん、炎魔術を使ってはいない。彼女もいい加減、グチグチ言われるのは嫌だった。


「けっこうかかったな」


「贅沢を言うなぁ……本当はこのサイズ、5人がかりで二時間はかかるんだぞ。十分早ぇよ」


「そういうもんか」


 ゴーレムに素材を担がせ、もう一体のゴーレムにリーフは飛び乗る。次いでアリス、最後にためらいがちにザナックが乗った。

 ゴーレムたちを出発させながら、リーフはザナックに聞く。


「ザナック、あの残った死骸はほっといていいのか」


「構わねぇさ。魔石を採った魔物はチリに還るんだ」


「魔物ってのも便利な生き物だな」


 感心するリーフを後目に、ザナックは顎に手を当てながら、ぽつりと呟く。


「しかし、あんな浅い場所にデスブレード・ビートルが現れるとは……。嫌な予感しかしないが……とりあえず報告だな……」


「どうかしたのか」


「ああいや、こっちの話だ。まあ、なんかあればギルドが動くか……」


「そんなことより早く帰りましょ……。慣れない魔術使って、もうヘトヘト……」


 アリスはゴーレムの上でぐったりしていた。その様子を見て、リーフはポツリとイヤミが出る。


「……商人のくせして、魔物の素材を見落としてたくせに」


「むぅぅ……わ、悪かったわよ……」


「い、嫌に素直だな」


「もう口論する元気もないわ……」


「あんたら元気だな……」


 三者三様の彼らを乗せて、ゴーレムたちは森の中を駆けて行った。

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