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追放されたゴーレムマスターはのんびり旅をしたかった  作者: もあい
第一章 旅立ちとスタンピード
1/39

1 ゴーレムマスターは追放される


「リーフ! 貴様を追放する!」


「……は?」


 王より放たれたその言葉に顔を上げるのは、この国、オリザ王国に仕える若き魔術師、リーフ・ピースメイカーだ。その表情には困惑と、そして確かな呆れが混じっている。


 そんな彼の様子を満足げに見下ろすのが、国の若き王サラビエ4世と、王の側近である王国筆頭魔術師アシェードだ。それぞれ一年ほど前に即位した王と、それに伴って台頭してきた魔術師である。彼らの表情にはありありと優越感が浮かんでおり、リーフの呆れには全くもって気が付いていない。


 サラビエが威圧的な声で、もう一度言う。 


「聞こえなかったか? 貴様をこのオリザ王国から追放すると言っておるのだ」


「お言葉ですが王よ。なぜ、私が追放されねばならぬのですか?」


 それにリーフは問い返す。追放などと、そのような罰を受けるようなことを彼はした覚えがなかった。言葉に険があるのも仕方がないだろう。


 加えるならば、こんな訳のわからないことを、よりにもよって凶悪な魔物の討伐任務から帰ってきた直後に言われれば、誰だって機嫌の一つくらい悪くなるだろう。


「くどいぞ!」


 王の、再度の威圧である。だが、いくつもの死線をくぐり抜けてきたリーフにとって、若年の王の威圧など屁でもない。赤銅色の眼が鋭く光り、逆にサラビエを射すくめる。


 その眼光に、得意げだったサラビエの表情が、一気に怯えの混ざったものへと変わる。コロコロと表情が変わる、まるで百面相のようだ。


「聞け、リーフよ! 貴様にはいくつもの罪が確認されておる。流言、資金の横領、部下の成果の横取り……数えたらキリがないわ!」


 委縮した王に代わってか、今度はアシェードの甲高い声が響く。それがまたキンキンと響いて、リーフはさらにイライラを募らせた。


「どれもこれも、全く持って記憶にございませんが?」


「言い逃れはできんぞ! すでに証拠も証言も上がっておる。貴様の罪は明らかだ!」


「そ、そうだリーフ! 本来ならば縛り首にでもしてくれるところだが、先王時代の貴様の働き、そしてわしとの仲に免じて追放処分で済ませてやろうというのだ!」


 仲間ができたからか、とたんサラビエが気勢を盛り返す。王のくせに、昔から変わらず、気の小さな男だ。


 それにしても、だ。リーフは内心、ため息をつく。


 ここまであからさまであれば、子供だってだって気がつく。


 つまりこれは、リーフをこの国から追い出すための茶番劇というわけだ。先ほど挙げられた罪が身に覚えのないことというのは当然として、現在の彼の境遇から物理的に不可能であるということくらい、王もアシェードも知っているはずだ。


 人気のない郊外に住み、滅多に自宅から出ないので流言などできないし、横領できる資金はおろか、研究費すらもうずいぶんの間供給はない。そして、彼には部下などいない。


 だいたい、常に辺境の魔物退治か、中枢にかかわることを許されず自宅で研究しているのだ。どれもこれもできるはずがないだろうというのは、自分を冷遇している目の前の連中が一番分かっているだろうに。


 しかし、現に今、糾弾されているということは、つまり()()()()()()なのだろう。なんとも露骨なものである。

 そんな計画に王が乗るなど、リーフは考えたくはなかったが、むしろ、この様子だと率先しているのだろうと感じていた。


「はぁ……」


 リーフはこっそりとため息をつく。


 先王が生きていたころから、サラビエ4世が自身に暗い感情を持っていたことを、彼は薄々感じてはいた。なにせ、ともに先王を魔術の師として仰いだ間柄だ。もう十年以上の付き合いがある。しかし、まさか王になった今になって爆発するとは予想していなかった。


 アシェードにしてもそうだ。彼が常日頃から送るじっとりとした妬みの視線は、ああもがっつり向けられると、気が付かないほうが難しい。だから王と結託して、追い出す計画を練るのは理解ができる。しかし、この杜撰な計画にゴーサインを出したのは理解ができない。脳みそが腐っているんじゃないだろうかと、リーフは本気で心配になる。


 どうせ追放されるのであれば、もう少しまともな追放劇をしてほしかった。


「あー、王の心遣いに感謝します」


 リーフの、その棒読みな言葉に、サラビエのこめかみがピクリと動く。だが、彼の心中に浮かんだであろう罵詈雑言が口から出ることはない。そのかわりか、口角をにぃっと上げ尊大に言い放つ。


「国境付近まで精鋭の騎士たちに送り届けさせる。よもや逃げられるとは考えるなよ」


 その言葉にリーフはうんざりとする。考えていることが丸わかりだ。隠すのであればもう少し上手に隠せ。


 そんな内心などおくびにも出さず、彼は王に一つの願い事をした。


「かしこまりました。つきまして王よ、一つお願いを聞いていただくば」


「ふん! ずうずうしいな。なんだ!」


「病気を患った妹がいまして。兄である私が離れると生きてはいけないので、どうか同行を許していただきたい」


 その言葉にサラビエは意外な顔をした。それもそのはずで、リーフはこれまで妹の話をサラビエにしたことはない。


「貴様、妹がいたのか」


「ええ。ただ、人目に見せられない状態でありますから、お話する必要もなかったのです」


 サラビエは顎に手を当て、考えるような素振りをする。だがそれも束の間で、従順なリーフの態度に気を良くしたのか、サラビエは鷹揚に頷いた。


「よかろう。一人も二人も、どうせ変わらん」


「ありがとうございます。では……長い間お世話になりました、()()()()王よ」


 リーフは立ち上がると、その眼と同じ赤銅色の髪をかき上げ、鍔広の帽子をかぶる。そうして一礼すると、背を向け去っていった。





「これで厄介払いができましたな」


「ふん、せいせいしたわ。わしが王になったら、いの一番に奴を亡き者にしてやろうと考えていたが……ようやく願いが叶ったわ!」


 待ちに待った追放劇を終えたサラビエとアシェード。彼らの顔には達成感が浮かんでいた。


 サラエボはリーフが嫌いだった。小心者の気がある彼と、常に自信にあふれるリーフでは、反りが合わないということもあった。だが何よりの原因は、先王である彼の父が事あるごとに彼とリーフを比較してきたからである。自分を省みない父親とその関心を一心に集めるリーフに、いつしかサラビエは嫉妬と殺意を覚えていた。


 アシェードもそうであった。若くして王国魔術師まで上り詰めた実力、魔導技師としての才能、そして先王からの厚い信頼。人の風評を気にするアシェードは、自分の地位がリーフによって奪われるのでないかと気が気でなかったし、何よりその才能に嫉妬していた。


 だから彼らは結託し、リーフ追放計画を練ったのだ。そして、この計画はまだ終わりではない。


「とはいえ王よ。まだ、安心はできませぬぞ。やつはスラムの出身。生命力だけはゴキブリなみですからな」


「問題ない。わしが直々に選び抜いた騎士たちだ。仕損じることもあるまい。酒でも飲みながら、ゆるりと報告を待つとしよう」


 二人の男の笑い声が、広間に木霊した。

 

 

 

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