NIGHT BALLADE
生ぬるい潮風に揺られるボサボサの髪
パールピンクの車体に照らす月光
漁港のスロープを眺める
テトラポットを歩く蟹
一寸の流れ星
荒い砂地のビーチ
浅い海と二人の温度
腰の高さの防波堤
後部座席のガラスに映った月
いつも冗談
いつも笑い
いつも泣いた
BGMは決まって洋楽で
鼻でフンフン歌いながら
特に決まった事もなく
ダラダラと道を駆けていこう
夜と海と君と僕
ほんのちょっとの絆だけど
何も無いよりは良いよね
たくさんの事があったけど
ほんのちょっとの絆だけ
うっすら白浮んだ首筋に
八重歯を浅く押し付ける
いつも使っている石鹸と
汗と潮のスパイスで
エビチリソースのように甘辛だった
「ねぇ、ちょっとしょっぱいよ」
「大丈夫。もうちょっと噛んでいて」
見上げた眩い月光に
10cm離れたリングを描く
君に「片手をあれに翳してみて」と
サイズは合わないけれど
君への贈り物
月を見上げたままの君
僕は車のガラスに映された
君の翳した右手を見ている
風に流されてくる暮夜雲が
劇場の幕引きをしているようだ
僕らはそっと抱き合って
軽い口付けをして手を取り合った
少しだけ重い沈黙を
何でも無い冗談ではぐらかす
「今夜も月がハゲてるね」
そしてこれからも駆けていこう
いつも残してしまう、あのぬるい缶ビールを蹴飛ばして。