1-8. 動術
さあ、旅じたくだ。
わたしもとうとうこの洲を離れる時が来たのだ。
まずは店に戻って……と、その前に。
「そうだ、カイ。訊いておきたいことがあったのだった。先ほどの技は動術か? そなたは動術家なのか?」
「動術? ……ああ、さっきの太っちょさんが飛んでったやつ。そうですね、そういうことになりますね」
「持って回った言い方だな……まあよい。そなたの体つきからして、筋力でどうこうしたとはとても思えぬからな。わたしの知るところ、動術とは、大気の中にひそむ幻動気なるものを操り、超常なる物理力を発揮する技だという。長期の修業を積むか、相応の道具が必要だと読んだことがあるが」
「へえ、そうなんですか」
「そうなんですかとはなんであるか。そなたの場合は修業を積んだとも道具を使ったとも見えぬぞ。どうやったのか教えてくれ」
動術家に会うのは初めてだ。
題材屋の客が残していった「題材」の中にまれに動術家は現れるが、判然としないことが多い。非常に珍しい存在であるらしく、記述があっても断片的だ。
精霊人たちも同様の術を使えるといわれるが、サーキィは地霊人なのに見せてくれぬし。
地霊人をはじめ、どうも精霊人というのはわれらと価値観が大きく異なるようで、しばしば話が合わぬ。
この機会にぜひ詳しく知りたいものだ! こんな幸運な偶然はないぞ!
と思ったのだが、
「まあまあ。仲間同士でも秘密があるほうがおもしろいじゃないですか。それに、そもそもあまり使いたくないんですよねぇ」
「なぜだ。あれほどの力があればどんなこともできそうな気がするぞ。あんな巨体を吹き飛ばすなど、感嘆するしかない。ああ、もしや体力を甚大に消費するとかそういうことか?」
「実はぼくは追われておりまして」
「なぬ」
何のためらいもなく告白するので、わたしは変な声を出してしまった。ためらいは会話の華であるぞ。
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