4-21. 回帰
夜の訪れを告げる鳥が鳴いていた。
視界に入った暗い空が、この世のものともあの世のものとも判別できず、しばらく何もできないままに寝転がっていた。
「はぁあっ!」
わたしは跳ね起きた。
「ぉー。サーラ起きたかー」
野太い声がぼんやりと聞こえてくる。
「こっ、ここはっ?」
「サーラさま おちついて」
きょろきょろするわたしの背中に、覚えのある手が触れる。
「サ、サーキィ……いいいい」
わたしは涙を盛大にこぼしながらサーキィに抱きついた。
ちょっと目を閉じてみるだけで、精気を吸われ倒れ伏したサーキィの姿が思い出され、こうして元気でいるのが奇跡のように思えた。
まわりを見ると、「あちらの世界」に吸い込まれたあの橋ではなく、もう一つの、崩れ落ちていたほうの橋のそばに自分がいるのがわかった。川の流れる音が平和そうに響いていた。どういうわけだこれはと思ったけれども、無事に帰れたのなら何でもよい。
「お見事でした。サーラさん、サーキィさん」
わたしの前にしゃがんだ少年が、のんびりとした口調で言った。
「カイ、そなたも無事で。…………何が見事なんだ?」
「いち早く鐘を壊したのが、ですよ。想像を超える力でしたからね」
「???」
わたしが胡乱な顔をすると、カイに代わって父が答えた。
「あの世界を維持していたのが、おそらくあの鐘だったってことだ」
「そうだったのか!?」
「おそらくだ、おそらく。どうなんだ、サーキィ?」
父は食ってかかるわたしを押さえ、サーキィに水を向けた。
「余もこんきょは ない ただ つよい幻動気 かんじた それだけ たたかってるとき きづかなかった けど」
「強い幻動気か……。オロイシュは多くの奇跡を起こしたっていうが、もしかすっと、やつは傑出した動術家だったのかもな。巨大な石を手も触れずに動かしたともいわれてるし。苦心して作り上げた都市があっさり滅んだのを認めたくなかったんだろうなあ。その意志があの街を現出せしめたんだろう」
「人工霊珠を作っていたことを考えると、その種の術の研究家ではあったんでしょう。あの鐘もその成果であったのかもしれませんね。もしくは、鐘の一部が本物の霊珠でできてるとか。そのへん、聞き出せたらおもしろかったんですけどねー」
「酔狂もたいがいにせよ、カイ」
ふたりして突然楽しそうに、なんなんだ。その好奇心は涸れざる井戸か?
「そうだよなあ。あんな素っ頓狂な目に遭っておきながら、仕組みをまったく解明できなかったのは残念だ。それに、もしあの鐘が霊珠だったとしたら、オロイシュは霊珠の一大産出地を知ってたってことになる。しかもあんな時空間を作れるってことは、とんでもない純度ってことだ。それを教えてから死んでくれって話だよな。ったく、サーラがすーぐ喧嘩腰になるからよー。向こう見ずは直しとけよ」
「父上に言われたくないな」
「産出地がわかったとして、まだそこに残りがあるかわかりませんけどね」
「そりゃそうだ。めったに見つからんもんだからなあ。がっはっはっは」
わたしのたしなめなどどこ吹く風、父もカイもふざけたことを言い合う。
一時は取り込まれかかっていたというのに、なんたる楽観であろう。
命知らずでなければさすらい人はつとまらんのか? あきれてものも言えない。
次回 >>> 「 目 的 」




