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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第4章  永久平和のひととき
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4-20. 破界

「ううううっ。なぜだ、なぜ私の国を壊す。戦いは嫌だ。滅ぶのは嫌だ。永久平和! 永久平和! 永久平和を!」

 オロイシュは天を()くようにわめいた。

 駄々っ子のように腕を振り回し、われらをまとめて叩きつぶさんとしてくる。木の根もふたたび這い寄ってきた。

「カイ!」

 わたしは叫んだ。

「はいはい」

 カイはわたしの背中に向かって手をかざしたに違いなかった。

 そしてわたしは宙を舞った。

 オロイシュの両腕をすり抜け、彼奴の頭上へと飛び、わたしは剣を振りかぶる。

「幻は独りで見るがいい!!」

 ――――――!!!

 紫翠の刃はオロイシュの額をやすやすと切り裂いた。

 額の裂け目は顔を裂き、(のど)を裂き、四肢を裂いた。

 亀裂はあらゆるところへ拡大していく。

 オロイシュは言葉にならずわめき立てたが、やがて声も体も塵となり、消えていった。

 やったぞ。われらの勝ちだ!

 ――――。

 ――?

「あ、あれ?」

 オロイシュが塵芥(じんかい)と成り果てても、われらは変わらず街の中にいた。

 戦いの最中もずっと鳴り続けていた鐘は、よりいっそうの轟音(ごうおん)を立てて耳を刺す。

 住民たちは岩になったまま墓標のようにわれらを取り囲み、あたりにはオロイシュや説教師であった砂塵が渦を巻いていた。

「カイっ、オロイシュを倒せば戻れるのではないのか?!」

 わたしは大声でそう言ったつもりだったが、口にする寸前で感情が急速に後退していき、言葉が出てこなくなっていく。

 ま、まずい。

 これはまさか……。

 夜! 夜が迫っているのか。このままでは…………!

 体から力が抜けていくさなかにも鐘の音はごぉんごぉんとやかましく響くが、もはやそれを不快に思う気力さえ乏しい。

 くそう。くそう。せっかく、せっかくオロイシュを破ったというのに……。

 カイ……父上……サーキィ……。

「サーラ、さま ……」

「サーキィ……? どうした……?」

 わたし同様無気力に陥りかかっているサーキィ。膝と手を地面に突いて必死に(あらが)いながら、わたしに言った。

「あの かね こわし て」

「鐘?」

 サーキィはくずおれた。

 鐘……。あの船の鐘か……?


ゴオォン ゴォオン

 ゴォオン ゴオォン


 ええい。うるさい。

 あれを壊せば…… いいんだな……?

 わたしは鐘をにらみつけ、剣を構えた。

 みんなを、仲間を、助ける。こんなところで、旅は終わらない。

「ぅううっ――――だぁあああっ!」

 最後の力をふりしぼり、好き勝手に跳ね回る忌々(いまいま)しき鐘めがけて、剣を投げつけた。

 (はし)る刃の(ひらめ)きが、鐘とともに、世界を割った。


次回 >>> 「 回 帰 」

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