表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第4章  永久平和のひととき
71/79

4-19. 死闘

「観念せよ」

 わたしが距離を詰めようとすると、オロイシュの土の顔はにたりと笑って、驚くべき行動に出た。

 切られた腕を岩の住民に伸ばし、それを「吸い取って」しまったのだ。見る間に岩は腕と融合し、手は完全に元通りになった。

「それはずるいな」

 わたしはにやつきながら唇を噛んだ。驚愕しつつも、余裕を失いたくなかった。苦境でも笑みを絶やさないカイの顔がちらついた。

 たとえ強力な剣で相手を圧倒できようとも、次から次に回復されたのでは時間がかかってしまうな――

 時間がない(、、、、、)のだ、われらには。

 日はすでに陰っている。

 わたしは走った。

 オロイシュに向かってまっすぐに。

 オロイシュは巨岩の両腕を大きく広げ、虫を叩きつぶすかのように、わたしを左右から挟みこもうとしてきた。

 こんなもの、まともに相手していられない。

 わたしはいったん走るのをゆるめ、オロイシュの手のひらが間近に迫る瞬間を見計らって、速度を上げた。

 よしっ。

 思いどおり、オロイシュの両手はわたしのうしろで合掌(がっしょう)することになり、わたしは挟まれる前に走り抜けることができた。

 オロイシュに接近したわたしは、剣を下手(したて)から振り上げようとする。少しでも刃が体に触れれば、さっきと同じように亀裂が広がるはず。それでおしまいだ!

 が、地面とほぼ同化していたオロイシュの両足が突如木の根のごとく変化し、恐るべき速さで地面を這って伸びてきた。

 気づいた時には、わたしの右足はつかまれていた。

「うあっ」

 そのまま、とんでもない勢いで引っ張られ、わたしは宙吊りにされてしまった。危うく剣を取り落とすところを、なんとかにぎり直す。

「くっ」

 足に絡まる木の根もどきを斬ろうと剣を振るうが、オロイシュはたくみに動かしてかわしてしまう。

 早く、早くしなければいけないのに。

「乙女にやってよいことではないぞっ。さっさと下ろせっ」

 わたしは悔し紛れに言った。もちろん聞き入れられるわけもない。

 宙吊りになったわたしに、オロイシュの手が再び迫った。こちらに向けられた手のひらを見ると、大きな穴が開いている。

「この街の住人に作りかえてやる。一つになれ。一つになれ。一つになれ……」

 耳障りな音の集合は、そう言っていた。わたしを呑み込む気か。

 こんなところでやられてしまうのか。わたしは十八になったばかりだぞ。まだまだたくさんやりたいことがあるんだ。わたしは無我夢中で剣を振り回した。

 その時、わたしのすぐそばを何かが飛んでいった。

「うぐっ」

 オロイシュの鈍い悲鳴が耳に届く。

 吊られながらもそちらに目をやると、オロイシュの右眼には石の槍が深々と刺さっていた。

「やあ、危ないところでした」

 カイの能天気な発言が聞こえてきた。きっとへらへらしているに違いない。

「新手の説教師が来てるんですが、バダルさんががんばってくれてるので」

 そう言いながらカイはまた石の槍を飛ばし、今度は左眼に突き刺さる。

「がぁあぅうっ」

 オロイシュは、今度は甲高く悲鳴をあげた。

 それとともにわたしの足の拘束がゆるんだ。今が好機とわたしは上半身を起こして、足を捕まえている木の根を斬った。

 わたしは落下しながら空中で体勢を整え、転げそうになりながらもどうにか着地する。

「サーラさま ぶじでよかった」

 サーキィがわたしのもとに駆け寄ってきた。彼女が機転を利かせ、カイの注意をオロイシュに向けさせたのだろう。やはりそなたは最高の友人だ。


次回 >>> 「 破 界 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ