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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第4章  永久平和のひととき
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4-18. 威力

 空を突き刺すように伸ばしたオロイシュの両腕は、説教師と同様、石に変わっていく。それは急速に全身にも及び、のみならずそのすべてが何倍にも膨張した。

 顔色は土くれのそれと同じになり、乾ききった地面を思わせるヒビが顔中に走った。とうてい人の顔とは思えぬありさま。体も次第に、一切合切(いっさいがっさい)を呑み込まんとする、激しく巨大な土流(どりゅう)のうねりへと変貌していった。

 なんと醜怪(しゅうかい)威容(いよう)であろう。

 オロイシュがおたけびをあげると、今まで彼を拝んでいた人々は瞬時に岩石と化した。われらは人の形をした岩に取り囲まれた格好となった。住民たちの存在は彼奴(きゃつ)の見た夢か、それとも取り込まれた人間のなれの果てか。

 土塊(どかい)となったオロイシュの口の奥から、耳をつんざく叫喚(きょうかん)が飛んできた。

「私の一部となり、永久平和のいしずえになるのだ!!」

 われらを取り込み、この世界の(かて)としようというわけか。

 どんなに平和を愛そうとも、もはやここは滅んだ都市。滅亡から目を逸らす伴侶(はんりょ)にはなってやれぬ!

 わたしは新しい剣を構えた。

「カイ、サーキィだけは守ってくれ」

「おお。オロイシュと戦ってくれとは言わないんですね」

 茶化(ちゃか)すようなカイの物言いに、わたしは口角を上げて返した。

「わたしが主体にならないといけないんだろう?」

「ははは、そうですね。だいじょうぶ、命は守ります」

「その言葉、信じるぞ」

「サーラ、俺のことも気にかけてほしいな」

 父がもじもじとして言う。気色の悪い。

「父上は自分でなんとかできるだろう」

「親子の信頼、うれしいねぇ」

 父はにやつきながら剣を抜いた。

「くる」

 サーキィがいつもと変わらぬ調子で言った。

 オロイシュは右手を高々と上げ、叩きつけるように振り下ろしてきた。

 巨大化した腕。まともには受けられない!

 それでも反射的に剣をかざすわたしの横で、カイが手を伸ばした。

 するとオロイシュの腕は手首のあたりであらぬ方向へひん曲がった。普通の人間なら確実に骨が折れているところだ。

 わたしはその機を逃さず腕に斬りつける。

 岩の塊であるゆえに、硬い手応えが返ってくるものと思っていた――

 が、拍子抜けするほどに刃はあっさりと通り、その腕に対してはわずかであるはずの切り口が、どんどん広がっていく。

「むうっ」

 オロイシュが驚いて一歩退くと、さらに切り口は大きくなり、ついには手首から先は地面に落ちてしまった。

 ずずん、と震動が響き渡る。

「その剣の力か。すごいな」

 父が驚嘆(きょうたん)の声をあげる。

「そのようだな。これなら容易に打ち倒せるやもしれん」

 紫翠色の剣が急激に頼もしく思え、内心余裕が生まれた。しかしそれも束の間、周囲からあの石がこすれるような音が鳴り出した。

 岩となった人々の狭間から、七人の説教師が()い出てきたのだ。

「数で押すってわけか。左側の三人は俺がやろう」

 言うが早いか、父は説教師に向かって駆けていく。

「じゃあ残りはぼくがやるのかな? 多勢に無勢だなー」

 とぼけた顔をして頬を掻くカイ。

「カイどの ちょっとまって」

 サーキィは、石畳に手をついたかと思うと、そこから鋭く尖った石を次々に作り出した。槍の穂先のようなそれらをひょいとカイに渡す。

「すばらしい。これで一度に攻撃するというわけですね」

 サーキィがうなずく。

 意を受けたカイはその石を動術で宙に浮かべ、説教師たちに向けて高速で放った。

 石は投げ槍のごとくなって疾駆する。

 みごと説教師の頭部に刺さり、二人がひっくり返って砂に帰した。残るは二人。

 どうやら安心して背中を預けられそうだ。

 わたしはオロイシュに向き直った。


次回 >>> 「 死 闘 」

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