1-7. 仲間
カイヴァーン。
題材屋の客としては上客も上客だ。
題材屋の業務は、各地を旅する酔狂なる旅行者たちを集め、彼らが滞在し見聞してきた土地の文化・風俗・歴史、神話やおとぎ話、怪異譚からうわさ話まで広く収集することだ。
そしてそれらを文章化し、ときには絵をつけ、編纂し、ことによっては旋律と楽譜の見本を用意して、さまざまな作家たちに「題材」として提供している。
題材屋を訪れる旅人のうち、もっとも多くの辺鄙な場所について豊富な知見を提供してくれたのが、〝酔狂の極北〟カイヴァーンだ。
のどかな仕事と半分あなどって、題材屋の職務にあまり熱心でなかった(が、その題材資料を楽しく読みはする)わたしでも名前を覚えている。
ふらりと気まぐれにしかやってこず、すぐに立ち去ってしまうが、そのたびごとに知られざる土地の驚異を伝えてくれる、漂泊の大人物であると店員たちのあいだで評判であった。
こんな、わたしよりも年下と見える少年がそうだったとは。まったく想像を超えることは世に多いものだ。
しかしそれで合点がいった。旅においては老練である父が、どこの誰とも知れぬ少年にやすやすと手紙を預けるわけがない、ということだ。
「カイヴァーン殿、そなたこそ一級のさすらい人であろう。そのような方の助力が得られること、まこと幸甚の極み」
姿勢を正してわたしが賛辞を述べると、
「カイ」
「うん?」
「恐縮は必要ありませんよ。ただカイと呼んでください」
仲間としてとはそういう意味であったか?
だがそれならばお安い御用だ。
「よろしく、カイ。ぜひわたしも名前で呼んでくれ」
「もちろん、サーラさん」
カイは、ごろつきをやりこめたときとは異なる笑顔を見せた。
われらはこうして仲間になった。
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