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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第4章  永久平和のひととき
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4-16. 激走

「なんでもっと早く言わんのだ父上っ!」

「久々にひっ、娘に会えた喜びでへっ、ちょっとほっ、浮かれちゃったかなはっ」

「ふざ、ける、なっ!!」

 われらは走りに走っていた。

 なぜかといえば、新手の説教師が次から次へとやってくるから。……という原因は一応正しくはある。

 しかしもっと重大な原因がある。父の知るオロイシュの居所というのが、街のまったく反対方向だったのだ。

 時間がないというのに!

 川に沿って細長く広がった都市であるというのが始末が悪かった。

 父が言うには、この街のつくりがオロイシュ教の特色に直結しているのだという。

 川を中心として人々の生業が成り立っており、自然、船を使っての輸送を担う人の数が多くなる。

 そのような水夫(すいふ)たちは陸に上がる時間が惜しいが、かといってまったく礼拝できない、説教も聞けないのでは信仰上困る。

 そんな迷える水夫のために運用されたのが「教会船(きょうかいせん)」。船の中に礼拝室を備え、常に説教師が駐在する船だ。住民たちは、辻説法を聞くか、教会船へおもむくことによって日々信心を深めている。街なかに宗教施設が見当たらないのはそういうわけだ。

 教祖オロイシュはほとんどいつも教会船に乗っていて、川を上流から下流へ、下流から上流へと移動し、信徒たちを受け入れているという。

 そして父いわく、その教会船とやらは、今の時間はわれらのいた下流域ではなく上流域にいるというのである。

 日が暮れようとしているのに練合術の話なんか始めたのは、別に時間の余裕があったからでも何でもなくて、単に父が好奇心に負けただけであった。ゆるしがたい。もう一発殴るべきでは。そういうわけで、われらはこうして走るはめになっている。

 なお父が一人でこの都市に迷い込んだ時は、オロイシュが教会船で街を巡回しているとようやく気づいた時にはもう夜で、たどりつく前にやる気が消失したのだそうだ。

 そしてわれらも今まさに同じ目に遭わんとしている。

 いやまだ時間はある。父のときと比べれば。

 こんな街にやる気を吸われてたまるか。わたしの冒険の邪魔はさせない。

 しかるに化け物説教師はやってくる。現在追いかけてきているのは三人。

 もちろん、父から教会船のことを聞いて以後、いちいち相手はしていない。ただひたすら逃げる、これあるのみである。

 いや逃げているのではない。親玉に接近しているのである。

「カイっ、ちょっとがんばってくれないか! 息つく暇もない!」

「えー。これはサーラさんの成人の儀式じゃないですかー」

 わたしの横を走るカイは、息を切らすこともなく平然としている。もはや疑問にも思わないが、こう疲れる状況では腹が立つ。何しろ、カイはサーキィを肩車してすらいるのである。サーキィは術を使って少し疲労しているし、体が小さいからということでの処置なのだが――たまには足がもつれる可愛げぐらいあってもよかろうに! いやっ、やっぱりそれはサーキィが怪我しそうだからダメだ!

「儀式は一瞬お預けだっ」

「しょうがないですねぇ」

 カイは半身だけうしろを向き、説教師たちを指差した。

 すると、先頭の説教師が音もなく弾き飛ばされ、その巻き添えを食ったうしろの二人の説教師もろとも、はるか後方へと吹っ飛んでいった。

 砂粒には変わらなかったものの、まず追いつかれないほどに距離が開いた。

「ふはーっ」

 それを見てわれらは立ち止まり、いったん息を整える。

「ありがたい……ぶはぁ」

 父は膝に手をついてぜえぜえあえいだ。

「教会船まで……あとどれぐらいだ……? 父上……?」

「もう……ちょっと……だと思う…………あ、あれ」

 父の視線にしたがい川の上流へ目をやると、視界の端に船が映った。

 船の上に家が乗っかったような外観で、三角の屋根の上には、はっきりとはわからないが太陽をかたどったようなオブジェと、鐘が付いているように見える。全体には質素なたたずまいだが、あれでまちがいないだろう。

「もう少しだ! あと一息!」

 走り出そうとしたその時、今までわれらにまったく無関心というか、まるで見えていないかのように振る舞っていた街の人々が、われらを凝視しているのに気づいた。

「あいつら、説教師様に暴力を振るった…………」

 群衆の中の誰かがそう言った。

 それを契機(けいき)に住民たちの目の色が一斉に変わった。そして、空気もまた変わったのがありありとわかった。排外(はいがい)の空気だ。

「まずいぞ。早く行こう!」

 わたしが言わずとも、みなも雰囲気の変化を感じ取っていたようだ。われらはすぐさま走り出した。

 まったく、なんて街だ!


次回 >>> 「 教 祖 」

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