4-15. 練合
カイが両手をかかげると、三本の刃はカイの前で交叉し、柄の宝石と同じ、紫翠色の澱みに包まれはじめた。
紫と翠がそれぞれに幾筋もの光条となり、渦を巻いて、三本ともを色の影に隠してしまう。もはやそれは回転する巨大な宝石だった。
「すごい ちから…… 動術のはんちゅう こえてる ……」
サーキィが珍しくも苦悶の表情を浮かべた。
動術の才のないわたしにも、幻動気の圧力といっていいのか、なんらかの力場があるように感じられる。体の前面が、経験したことのない種類の力で圧迫されているかのようだ。
やはりこの者、あるいはこの一族は、単なる動術家とはとても思えない。物体同士の練合術なんて、数多の「題材」の中でもひとつも見たことがないぞ。
天啓を待つように両手を広げるカイ。無上のほほえみで、妖しき光の炎を操っている。わたしは今、神話的な存在を目にしているのかもしれない。
やがて宝石のごとき球体は次第に収縮し、ついには爆発した――――と思ってしまうぐらいの閃光を放った。
わたしは思わず目をおおった。
「――? んぐっ。げほっげほっ」
衝撃波が起きて、さっきまで説教師だった砂が巻き上がってきた。ええい気持ち悪い。
「あれ、すみません」
謝ってくれたのはよいのだが、人なんだか石なんだかわからないものを吸い込んだかもしれないと思うと、ぞっとする。
「何はともあれ、できましたよ。見てください」
どうにか目を開けてみると、紫翠の球体に代わって一本の剣ができあがっていた。
柄や鍔は、植物の茎を思わせる、うねった何本もの管が寄り集まって形を成している。刃渡りは長くなり、剣身は柄の宝石と同じ紫翠色に変わっていた。また、どういうわけか両刃から片刃になっており、その幻惑的な曲線はサーキィの釼を思い起こさせる。
紫翠の刃は、光の照り返しが少ないのに、色が常に妖しく瞬いており、その部分だけこの世界から落ちくぼんでいるように見えた。
芸術品として作ったような、実用性のなさそうな剣。外観だけならそう見えるのに、なんだろうか、この心の躍りようは。
「どうぞ、サーラさん」
カイの前に浮かんでいたその剣は、ゆらりと動いてわたしの目前までやってきた。
面妖な剣身の光にわたしは魅了されて、ついと手を伸ばしたが、
「……触っても大丈夫なんだろうな?」
わたしはカイをじろりとにらんだ。
「さあ? 大丈夫なんじゃないですか? くっつけたのはぼくですけど、材料作ったのはぼくじゃないので」
こやつめ。この期に及んで……。
とはいえ、サーキィがわたしのために供出してくれたのだ。受け取らないわけにはいくまい。
わたしはそっと剣をにぎった。
……だいじょうぶ。何も起こらない。
柄は今までと変わらず手になじんだ。
しかしその重さは、なんともいいがたい。
持ってみた感じ、これまでとほとんど変わらないといえば変わらない。ところが振ってみるとやけに軽やかに動く気がする。なんというか、何にも邪魔されないのだ。空気さえも刃の軌道を避けているような、霊妙な鋭さを持っている。
「いやあーいいもん見た。大事に使えよ、サーラ」
父はすっかり上機嫌だ。
言われるまでもない。父としては「いいもん見た」で済むことだろうが、サーキィの手前、わたしはこれを大いに有効活用せねばならないのだから。
「さあて、それじゃあオロイシュのところへ行くか。日が暮れちまう」
父は顎をしゃくった。
空を見てみると、ずいぶんと日は傾いていた。
そうだ。早くしなければ、この街に取り込まれ、ひたすらに永久平和を希求する住民にされてしまう。それは勘弁願いたい。
永遠に平穏を享受できるかもしれないといえば、それを望む者は世界中に大勢いるだろう。歴史の中に名を残した宗教で、それを願わなかったものを探すのが難しいぐらいである。
だがわたしはとてもそうなりたいとは思えなかった。
すでに滅んだ都市の時の狭間に浮かんでいるに過ぎない街。
精神の波風を余さず押しつぶそうと歩き回る説教師たち。
陽光が陰るごとにすり減っていく生気。
どれもこれも気色が悪い。削られていく心が見る安寧の夢よりも、着実に歩んだ魂がつかみ取る現実を、わたしは選ぶ。
次回 >>> 「 激 走 」




