表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第4章  永久平和のひととき
60/79

4-8. 邂逅

 どこをどう走ったか、わたしと父は薄暗い路地に逃げこんでいた。

 わたしは地面にうずくまり、肩でぜいぜい息をした。

 わたしに走らされた父は、家の壁に背を預けて息を荒くしながらも、まだ事態を飲み込めないといったふうで、あちこち眺め回したり、考えこんで唸ったりしていた。

 しばらくすると、ようやく得心(とくしん)したのか、落ち着いて息を整えはじめた。

「いた」

「ここにいましたか」

 わたしはその声にとっさに身構えたが、路地の向こうから姿を現したのはサーキィとカイだったので、力が抜けてまたどっかと座った。

「おど……かすな。ふーっ……はああ」

「驚いたのはこっちですよ。突然走り出して」

「びっくり した」

「すまぬ……なんだか、こわくて。はあーっ、ふう」

「ちょっと奇矯(ききょう)ではありましたけどね。さて、バダルさん。久しぶりですね……というほど時間は経っていませんか」

「――カイ殿。どうやら、娘をうまく、げほげほっ、導いて、くれたようで」

「父君 としをとった か?」

「いらんことを。ごほんっ。サーキィまで来ている、とは」

 父はせきこみながらふたりに笑顔で返した。

 わたしはあらためて父の姿を見た。数年ぶりに会う父。あいかわらず筋肉質で体格がいい。頭はぼさぼさ、口ひげもあごひげも満載だ。少ししわは増えたかもしれぬ。薄汚れたマントを着けた小汚い旅装姿なのも変わっていない。わたしも人のことはいえまいが。

 ようやく父を捕まえた、という喜びはわたしの中に薄かった。何しろ、過去だかなんだかわからないところに来させられたあげく、そこから出る方策は見当がつかない。

 さらに、ここの住民たちは、来た時には異邦人のわれらをちっとも気にするふうではなかったのに、父を殴ってみたらば総出(そうで)批難(ひなん)を浴びせてくる。そのあまりに突発的な変わりよう、彼らの行動原理がまるで理解できなかった。

 素直に喜べる状況を神頼みしたい気分だ。神様トーマ様スラオヤ様……、やれやれ。

「ところで、サーラさんはなんで突然バダルさんを殴ったんです?」

「いや……その、今までの鬱憤が……」

 わたしがもじもじとすると、父は頬を()いて、

「そこまでのこと俺したかな」

「してないとは言わさぬ。あと、恍惚(こうこつ)とした顔で説教を聞いてたのが気に食わなかった」

「ああ、そういえばうっとりしてましたねえ。なんですかあれは」

「いや、俺にもよくわからんのだがな……」

 父が言うには――

 推測どおり、父は昨日この遺跡を訪れたところ、われらと同じくこの街に飛ばされてしまったという。

 脱出すべく街の中をかけずり回って調べたが、得るものは少なく、日暮れが近づいてきた。

 すると不思議なことに、「脱出できない!」という焦燥感が次第に薄れてきて、だんだんいろんなことがどうでもよくなった。

 一晩経ってみるとすっかり心が安穏(あんのん)として、迷いや悩みにあふれていたこれまでの人生が急激に無意味なものに思え、そんなところに説教師の話を聞き、あまりのありがたさで、頭が平和の一大音楽で充ち満ちてしまった――――

 そしてわたしに殴られて正気に戻る。

 とのことであった。

「父上、本気で言ってるのか?」

「父を疑うとは情けない」

 そう言ってふんぞり返る父。

 さっきまでの(てい)たらくをもう忘れたか。えらそうにしおって腹立たしい。


次回 >>> 「 蠢 動 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ