4-8. 邂逅
どこをどう走ったか、わたしと父は薄暗い路地に逃げこんでいた。
わたしは地面にうずくまり、肩でぜいぜい息をした。
わたしに走らされた父は、家の壁に背を預けて息を荒くしながらも、まだ事態を飲み込めないといったふうで、あちこち眺め回したり、考えこんで唸ったりしていた。
しばらくすると、ようやく得心したのか、落ち着いて息を整えはじめた。
「いた」
「ここにいましたか」
わたしはその声にとっさに身構えたが、路地の向こうから姿を現したのはサーキィとカイだったので、力が抜けてまたどっかと座った。
「おど……かすな。ふーっ……はああ」
「驚いたのはこっちですよ。突然走り出して」
「びっくり した」
「すまぬ……なんだか、こわくて。はあーっ、ふう」
「ちょっと奇矯ではありましたけどね。さて、バダルさん。久しぶりですね……というほど時間は経っていませんか」
「――カイ殿。どうやら、娘をうまく、げほげほっ、導いて、くれたようで」
「父君 としをとった か?」
「いらんことを。ごほんっ。サーキィまで来ている、とは」
父はせきこみながらふたりに笑顔で返した。
わたしはあらためて父の姿を見た。数年ぶりに会う父。あいかわらず筋肉質で体格がいい。頭はぼさぼさ、口ひげもあごひげも満載だ。少ししわは増えたかもしれぬ。薄汚れたマントを着けた小汚い旅装姿なのも変わっていない。わたしも人のことはいえまいが。
ようやく父を捕まえた、という喜びはわたしの中に薄かった。何しろ、過去だかなんだかわからないところに来させられたあげく、そこから出る方策は見当がつかない。
さらに、ここの住民たちは、来た時には異邦人のわれらをちっとも気にするふうではなかったのに、父を殴ってみたらば総出で批難を浴びせてくる。そのあまりに突発的な変わりよう、彼らの行動原理がまるで理解できなかった。
素直に喜べる状況を神頼みしたい気分だ。神様トーマ様スラオヤ様……、やれやれ。
「ところで、サーラさんはなんで突然バダルさんを殴ったんです?」
「いや……その、今までの鬱憤が……」
わたしがもじもじとすると、父は頬を掻いて、
「そこまでのこと俺したかな」
「してないとは言わさぬ。あと、恍惚とした顔で説教を聞いてたのが気に食わなかった」
「ああ、そういえばうっとりしてましたねえ。なんですかあれは」
「いや、俺にもよくわからんのだがな……」
父が言うには――
推測どおり、父は昨日この遺跡を訪れたところ、われらと同じくこの街に飛ばされてしまったという。
脱出すべく街の中をかけずり回って調べたが、得るものは少なく、日暮れが近づいてきた。
すると不思議なことに、「脱出できない!」という焦燥感が次第に薄れてきて、だんだんいろんなことがどうでもよくなった。
一晩経ってみるとすっかり心が安穏として、迷いや悩みにあふれていたこれまでの人生が急激に無意味なものに思え、そんなところに説教師の話を聞き、あまりのありがたさで、頭が平和の一大音楽で充ち満ちてしまった――――
そしてわたしに殴られて正気に戻る。
とのことであった。
「父上、本気で言ってるのか?」
「父を疑うとは情けない」
そう言ってふんぞり返る父。
さっきまでの体たらくをもう忘れたか。えらそうにしおって腹立たしい。
次回 >>> 「 蠢 動 」




