4-7. 殴打
街を歩いていると、奇妙なことに気がついた。
往来する住民たちの話す言葉が理解できている。理解できているのだが、口の動きがわれらの話す「共通語」のそれとは異なっていたのである。
会話している様子を観察していると、おかしな感覚に襲われる。例えば、「あ」と発音しているような口の動きなのに、耳には「え」という音になって聞こえてくるのだ。気持ち悪くてしかたがない。いったいここはどうなっているんだ…………?
嫌な感じをかかえさせられながらもあちこち巡り歩くと、人だかりを見つけた。
どうやら説教師が辻説法をしているらしい。黒い、僧服のようなものを着ている男が独特の音調で演説している。
人々はそれを熱心に聞いていた。それは、難しい話を難しい顔で聞いているふうではない。今にも「なんとありがたい話だ」という言葉が出てきそうな、信仰心の厚さがにじみ出るような顔つきばかり。
さらに歩くと、同じような集まりがまた見つかり、その雰囲気も先と同様だった。ここは相当な宗教都市だったらしい。
どういう教えなのかは判然としないが、ここの民衆がみな平和そうにしているのはその宗教ゆえであろうか。
いや待てよ? 遺跡には宗教施設のようなものは見当たらなかったぞ。どういうことだ……? 辻説法だけで成り立っているのだろうか? そんなことあるか?
――と、わたしの目はその聴衆の中の、ある人物に吸い寄せられた。その人もまた、ほかの者たちと同じく説教師の話にうっとりと聞き入っている。
それを見た瞬間、ある種の感情がむくむくと湧いてきて、わたしはいつのまにかその人に向かって走り出していた。カイにもサーキィにも何も告げずに。体が勝手に動いていた。
その人物の後ろ襟を引っつかみ、ほかの聴衆から乱暴に引きはがす。
そして、
そいつの顔面を、
思いっきり殴った。
「父上! なにをしておられるか!!」
「あ? え? あっ、サーラ!? お、俺は何を……? ここはいったい?」
父はわたしに殴られて地面にへたりこみ、頬を押さえながらきょろきょろしている。今の状況が少しも理解できないという表情だった。
「そこの人、暴力はいけません」
上気するわたしに説教師が話しかけてきた――と思ったら、説教を聞いていた人たちも次々に近づいてきて、誰も彼もが説教師と同じようなことを矢継ぎ早に言いはじめた。
「何があったか知らないが喧嘩はよくない!」
「話し合って仲良くするべきだ!」
「この街で暴力があるだなんて!」
等々、等々。あまりにも口々に同じことを言うのでわたしはすっかり面食らった。
完全な一枚岩となった群衆はひどく不気味だった。言っている内容がどうこうではなく、あんなに穏やかそうだった人たちが、こんな瞬時に人格が変わったようになってしまうのが、とても信じられなかったのだ。
わたしは背すじのざわつきに耐えられず、父の腕をつかんで遁走した。
次回 >>> 「 邂 逅 」




