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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第3章  わからない日
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3-12. 秘密

「……このところ術を使っていませんでしたから、見つかるとは思っていませんでした。温泉に立ち寄った時、偶然にもラーシュさんが近くにいたようです。あの時、誰かに見られている気がしてあたりを探ったのですが、何も見つからず、その時は気のせいだろうと思いました。うまく気配を消されてしまいました。ぼくが見落としたばかりに、こんなことになってしまってすみません。謝ります」

 いつにないカイのまじめな表情に、わたしは面食(めんく)らってしまった。

「この際正直に言いましょう。最初、万一サーラさんといっしょにいる時に追っ手に出くわしたら、依頼を口実にして追跡をまぬがれようと思っていました。彼女らは他の人を巻き込むのを嫌いますからね。仲間という言葉を使ったのも、いずれ情が移って協力や弁護をしてくれるかもしれないと期待したからです。幻滅しましたか?」

「……いいや。わたしは商家(しょうか)の娘だ。交換条件は当たり前のことだと思っているよ」

「依頼料代わりだと?」

「そう思ってくれていい。だが、依頼を途中で放り出されては困るからな」

 わたしはにやりとしてから、息をふーっと吐いた。まだ身を起こすことも難しい。カイに体を預けたままわたしは続けた。

「旅の途中、ふと思い出したんだ。そなたが以前、攻撃されるとすれば自分だけだと言っていたことを。それはつまり、追っ手は一族外の者を(、、、、、、)関わらせたくない(、、、、、、、、)ということだろうと。それが頭にあったから、わたしは身を(てい)してそなたをかばった――そうすれば追っ手に対して有利な交渉材料になる。賭けにはなるが、読みは当たっていた」

「……驚きました」カイは目を丸くした。「でも、ぼくを殺すつもりだったかもしれない」

「それならそもそもの時点でもっと強硬(きょうこう)な手段に出ているはずさ」

「…………」カイはやれやれというふうに一息ついて、「向こう見ずは訂正したほうがよさそうですね。それにしたって無茶だと思いますけど」

(せい)のありがたみを感じてるよ」

 わたしは悪戯(いたずら)っぽくほほえんだ。

 ――――しかしわたしの真意は、それだけではなかった。

 何か、したかったんだ。そなたのために。そなたがこの旅において大きな助けであることは疑いようもないが、成人となるための打算だけでかばったわけではない。わたしはそんなに薄情じゃないんだ。……助けられてばかりではしゃくだしな。

 だがわたしはそうは言わず、鈍く光る腕輪に目をやって、別のことを口にした。

「とはいえ、そなたには余計な不利益を負わせてしまったな。すまぬ。わたしばかりが利を得る結果になってしまった」

「いえ、いいんです。始末は自分でつけますよ」

 ラーシュの口ぶりからして、その腕輪は追跡の目印になるものなのだろう(どういう仕組みでかはわたしには知る由もないが)。カイは遠からず、確実に(、、、)捕まることになってしまったということだ。そんなものがあるとは予想外だった。

「ただ、今夜のことは他言無用で。ぼくも他人はできるだけ巻き込みたくないですから」

「……わかった。だがひとつだけ、今一度訊かせてくれ。なぜそなたは追われているのか」

 カイはラーシュの去っていったほうを見つめ、

「一族の者たちは、術の使い手を目の届くところに置いておきたいのですよ。<力>を可能な限り秘匿(ひとく)するのが使命だと考えているのです」

 わたしはそれを信じなかった。

 もちろん、根拠はない。本当にカイの言うとおりなのかもしれない。自由に旅して回りたいという、一族のはぐれ者たるカイの酔狂が、そこにはあるだけかもしれない。

 けれど、この者の関わる世界の奥深くに――――もっと深遠(しんえん)なる謎、大いなる神秘がひそんでいるに違いないと、どうしてか感じずにはいられなかったのだ。

 そして、その謎に一歩でも近づきたいという感情が芽生えているのを、わたしは自覚していた。

「さあ、誰か起きてこないうちに、戻りましょう」

 驚いたことに、カイはわたしを軽々と抱きかかえて立ち上がった。

 そっ、そなた、そんな筋力のある体ではないだろう。いや、これは動術なのか?

 そんな疑問と、幾分の気恥(きは)ずかしさが湧いたものの、持ち上げられた勢いのせいか、それとも術を()らった影響か、頭がくらくらしてきて、目の前が急速に暗くなっていった。


次回 >>> 「 機 微 」

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