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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第3章  わからない日
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3-7. 暗闇

「戻ってきてしまいましたねえ。ざんねん。でもおもしろいなあ」

「みぎにおなじ」

 カイも、二番手に志願したサーキィも、みごと――といっていいのかわからないが――屋上まで到達できずに入り口に逆戻りしていた。

「次はわたしか。このぶんではわたしも屋上に行き着けないのだろうが――。のちほど互いの見解をまとめよう」

 もはや結果は見えているように思うが、実のところ、わたしもちょっと味わってみたい気持ちがあった。下りているつもりがないのに下りているとはどういう感じなのか、なんともいえずわくわくする話ではないか。

 入り口をくぐると、ファウラの言ったとおり、ひたすら階段が上へと続いているだけで、部屋も分かれ道もありそうにない。

 らせん状になっている階段の幅は広いので圧迫感はないのだが、ここを遺体が通っているのだなと想像すると、背すじが寒くなってくる。

 こつ、こつと、わたしのゆっくりとした靴音が響く。

 当たり前だが携灯(カンテラ)だけではあたりは暗く、壁も、階段も、行く先も、ぼんやりとしかわからない。

 静かだ。なんとも表現しがたいにおいが、眼前の暗闇からただよってくるように感じるが、気のせいかもしれない。

 携灯(カンテラ)の炎がときおり不気味にゆらめいた。

 足を止める。生き物の気配はない。

 うしろを振り返り、闇があるだけなのを見て、また前を向いて歩き出す。

 ただただ続く、ずっと同じ見た目の階段と壁。壁に手をつくと、ひんやりとした感触が手に伝わった。

 どうして窓の一つも作らなかったのだろう。自分がどれぐらいの高さまで来ているのかわからなくなる。

 光の少ない中で、変化のない景色を見続けていると、これは冥界への旅路を思わせるものなのかもしれないな、という考えが浮かんだ。してみると、わたしは冥府へ近づいているというわけか。

 こつ、こつ。靴音が反響しては、消えていく。

 自分の息づかいが妙にやかましく耳に届いた。

 本当に死者の魂は天上へと送られているのだろうか。この空間に滞留しているのではないのか? 塔に縛られた死者の魂が、のぼる者を惑わせているのでは。

 そんな妄想が頭をもたげてくるのだが――それにどっぷりつかっていられるほど、この塔は高くない。外観からすれば、屋上までの道のりは短いはずだ。

 ま、どうせわたしもたどりつけないのだろうが――――

 と思っていたら、目の前に扉が現れた。入り口の、ではない。扉からはくだりの階段が続いているのだから、これはまごうことなき屋上への扉だ。

 わたしひとりが到達できるとは、いったいどういうことなのか。わたしはただのぼってきただけだ。

 ともあれ、みなに知らせなければ。

 わたしは急ぎ階段を駆け下りた。これはきっと解決の糸口になる。先ほどまでの、死への畏怖でいっぱいだった感覚はどこかへ消えていた。

 それはそれとして、わたしも体験したかったぞ。


次回 >>> 「 奇 気 」

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