3-6. 尺度
先ごろ一人亡くなり、一連の「天葬」の手続きがおこなわれた。
遺骨を回収する段となり、塔をのぼって屋上へ行こうとすると、どうしてもたどりつくことができない。
階段をあがり、上に向かっているはずなのに、気がつくと塔の入り口に舞い戻ってしまっているのだという。
このままではいつまで経っても遺骨を埋葬できない――――どうしたものかと祭司たちで話し合っていたところに、われらが訪れたということだ。
「とにかくまずは一度のぼってみようと思うのだが、よいか?」
塔の入り口で門番のようにたたずむファウラにわたしは尋ねた。
のぼっているはずなのに戻ってきてしまうというのはいったいどういうことなのか。まずは体験してみるしかあるまい。
「ええ。ですが、しきたりにより、この塔に一度にのぼれるのは一人までです」
むむ。
地霊人と動術家の二人がいるから、全員で検分しながらいけば時間をかけずに調査できると思っていたのだが、そういうわけにいかないのか。
「では、まずはぼくが行きましょう」カイが無邪気に手を挙げた。「とても興味深い現象です。ぜひとも味わってみたい」
大猿のときもそうだったが、この者の緊張感のなさは尊敬に値する。
しかし、計り知れない強い能力と広い見識の持ち主であることには相違なく、一番手としては適任であろう。
ファウラは手に持っていた携灯をカイに渡して言った。
「塔の中は、屋上の扉までずっとらせん状に階段があるだけです。この携灯を持っていってください。一本道ですし、迷うことはない、はずです」
「でも、戻ってしまうということなんですね?」
ファウラの説明に、カイは楽しげに口を挟んだ。
「はい。下りているという感覚がなく、気がつくと、入り口まで来てしまっています。もし屋上の扉まで到達できたら、お手数ですが一度下りてきて教えてください。扉の鍵は祭司の者しか触れてはいけないことになっていますので」
ファウラは首から下げた鍵を持って示した。
「わかりました。それでは行ってきます。いやー楽しみだな」
カイは笑みを浮かべながら塔の入り口に吸い込まれていった。
カイが階段をのぼる足音が少しのあいだ聞こえていたが、すぐに静かになった。
「……不謹慎に感じさせてしまったなら、すまぬ。あの者はいかなるときもあんな調子でな」
「いえ、不謹慎だなんてことはありませんよ。ふしぎな方ですね。強い力をお持ちのようですのに、とてもそうは見えません」
ファウラにも、カイがただ者ではないことは推察できたようだった。
「父を探す道連れになってくれるというのでいっしょに旅をしている」わたしはおどけて言った。「酔狂が人の形をしているような男だよ」
「まあ。ふふふ」
「そなたの勘はカイをどのように見たのか、聞いてもよいだろうか」
わたしはどうして自分がそんなことを言い出したのか、よくわからなかった。
「カイヴァーンさま、でしたか。勘ということでいうと、なんとも言えない、というのが正直なところですね。この世のことを見ているようで、まったく別の世界を見ているような……つかみどころがない感じはバダルさんに似ているような気もしますが、善人とも悪人ともつかないなと。いえ、悪く言うつもりはないのですけど」
「いや、そのとおりと思う。わたしにもあの者が持つ尺度がわからぬ」
「そうですね。でも、魅力を感じます、わたくしは。会ったばかりなのになぜかといわれても答えられないのですが」
「……そうか」
ファウラの意外な言葉に、わたしはそう返すのが精いっぱいだった。
「お姉さまは違うのですか?」
ファウラがわたしの顔をのぞきこんできたが、わたしは塔を見つめたまま、
「さてな。わからぬ」
「そうですか」
「だが少なくとも、大切な仲間だ」わたしはしゃがんで、サーキィの肩に手を置いた。「サーキィと同じくな」
「余もカイどのの ことはわからない だがこころづよい ひと それで じゅうぶん」
「はは、そのとおりだな」
「すてきなことですね。みなさんの旅、きっとうまくいきます」
「それも勘か?」
ファウラの、何もかもを見極めたようなほほえみにわたしが問いかけると、
「いいえ、祈りです」
とファウラは短く答えた。
思えば、神霊を祀る役目の者からこの旅への祈りをたまわったのは初めてだった。
あたたかな何かによって体が満たされたような気がした。
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