3-5. 天葬
「あれです。あの塔です」
先導するファウラが丘の上に立つ建造物を指差した。
ファウラが言っていた「困ったこと」――それを調べるため、われらはファウラに案内されて、ソニヤーから南へ少し離れたところにあるなだらかな丘をのぼっていた。
太陽は沈んだが、夜にはまだ早い薄明の時間帯。丘の上の塔は静かな存在感を示していた。日が落ちて以降でなければ塔に近づいてはいけない決まりだそうだ。
塔とはいっても、そう高いものではない。普通の家でいうなら、三階建てか四階建てかというところだろうか。
面積としては広めに作られているのを考えれば、遠くから見たとき、丘の上にぽっこりと小さな台地があるように思うかもしれない。
あるいは想像力豊かに、巨石が空から降ってきて丘に刺さったとか、丘から大岩がにょっきり生えているとか思うかもしれない。
なぜならその塔には窓一つなく、装飾もなく、入り口と屋上のほかは、ただただ石が積み上げられているだけのものだったからだ。焦げたような色合いの、扁平な円筒。
わたしの常識からすればとても信じられぬ。
これが葬送のための場所だとは。
「この塔の屋上に行きたいのですが、どうしても行けないのです」
古代の遺跡といわれても納得しそうな建造物。その入り口の前で、ファウラが言った。
わたしはあやふやな気持ちのまま、その塔の頂上を仰ぎ見た。
ファウラから聞いた話は、少なくともわたしにとっては、一から十まで理解不可能なものだった。
まず、ソニヤーでの死者の送り方というのが仰天ものだった。
ソニヤーでは人が死ぬと、別れの儀式をしたあと、その遺体を鳥に食わせるのだという。
そのため、遺体の血抜きをし、鳥が食べやすいように切れ目を入れるのだと。
わたしはこのあたりで気分が悪くなったが、カイは興味津々で聞いていた。サーキィは無表情だった。
次に、遺体を塔の屋上に置き、鳥が遺体の肉を食べ尽くし、骨になるのを待つ。近くの山に猛禽が数多く生息していて、ここまで集団で飛来してはあっという間に食べてしまうという。
そのまま数日間放置すると、遺骨は熱い日の光によって浄化される。
残った骨はみな同じところに埋められ、土に還ることになる。老若男女、貧富の別なく、最後はひとまとめにするという。
と、簡単にいえばそのような過程を経て、ソニヤー流の葬送がおこなわれる。死者の魂は空を駆ける鳥を通じて天に送られ、永劫の安寧を得る、というのがソニヤーの民が長く維持してきた信仰であるとの由である。
これを称して「天葬」といい、ゆえにこの塔は「天葬の塔」と呼ばれている。複数人いる祭司は一連の葬送儀式を分担して執り行い、遺族と死者の魂のため、祈りをささげる――。
ファウラは以上のことを淡々と説明した。
わたしの故郷での葬儀とはあまりに異なるうえ、ファウラの淡白な話しぶりから、何を言う気も起きなかった。彼女らにとってはあまりにも当たり前の行為なのだ。
正直なところ、わたしは最初この葬り方を「野蛮」と思ってしまった。だが、あるさすらい人の記述を読んだ時の記憶がよみがえって、わたしはすぐに認識を改めた。そのさすらい人はこう記していたのである。
〝人々は自分の慣習にないものを野蛮と呼ぶ。しかしながら、どのような慣習もそれぞれの道理を持つに過ぎない〟
どのようなやり方であれ、そういうものなのだから、そういうものなのだ。それで納得するしかあるまい。わたしはここでも過客であり、心の境界を越えることはできない。
ファウラの家が担当するのは、最後の部分――すなわち、遺骨の回収・埋葬であるという。
わたしが信じがたいことはさらにここからであった。
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