1-4. 儀式
「手紙についてといわれても、ぼくは中身を知らないんですよ。題材屋に届けてくれとバダルさんに頼まれただけで」
少年の平然とした物言いに、わたしはあごが外れそうになった。
バダルとはわたしの父の名前だ。
父は生粋の旅行好き、いやむしろ度し難い放浪癖があるといってよく、めったに帰ってくることはない。いつもどこかを旅していて連絡がつかないが、出し抜けにこうして手紙を送ってくることがある。
手紙の内容は、たいていの場合は父なりの紀行文であり、旅先で見聞したことをつれづれに綴っているに過ぎない。
こたびの手紙は久しぶりで、しかも題材屋の客に預けるとは、珍奇なことがあるものだと思っていたのだった。
少年の言葉を聞いて、わたしの頭に父への怨念がむくむくと立ちのぼってきた。
「なんだかずいぶんとお怒りのようですね……。何が書いてあったんです?」
「父の手抜かりぶりを嘆いているところだよ。――手紙には、『この手紙を届けた少年が案内してくれるだろう』と書いてある」
「案内?」
「……すまぬ。詳しく話そう」
わたしは腰に手をやり、深く深くため息をついた。焦りと怒りと落胆がないまぜになって、うまく説明できていない自分が情けなくなる。
こんな情けない思いをするのは父のせいに違いなかった。わたしは大いに眉間にしわを寄せ、銀河のかなたへ吹っ飛んでいくべき父の姿を想像してから、続けた。
「わたしは今日十八歳になったばかりなのだが、十八といえばこの洲では成人の年齢だ。わが洲では、成人として認められるには、家の当主が課す成人の儀式を履行する必要がある。この儀式というやつには決まりはなく、当主が自由に定めることになっている。わがサファル家の商売は、傑物たる母が取り仕切っていて何の問題もない。しかしながら、当主は依然として父なのだよ」
「ほうほう。それはそれは」
少年は予想がついたようである。
まったくかなしいことだ。
「父の言い分は要するにこうだ――
『十八歳の誕生日おめでとう。サーラの成人の儀式についてだが、〝父を捕まえること〟とする。なお父は好きなように旅を続けるのでそのように。この手紙を預けた町までは、少年が案内してくれるだろう。そこからは、どこかしらに次の行き先の手がかりを残しておくから、まあなんだ、がんばれ』
だ! たわむれにもほどがある!」
手紙を地面に叩きつけそうになるのを、わたしは必死でこらえなければならなかった。
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