表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第1章  父を殴りに三千里
4/79

1-4. 儀式

「手紙についてといわれても、ぼくは中身を知らないんですよ。題材屋に届けてくれとバダルさんに頼まれただけで」

 少年の平然とした物言いに、わたしはあごが外れそうになった。

 バダルとはわたしの父の名前だ。

 父は生粋の旅行好き、いやむしろ度し難い放浪癖があるといってよく、めったに帰ってくることはない。いつもどこかを旅していて連絡がつかないが、出し抜けにこうして手紙を送ってくることがある。

 手紙の内容は、たいていの場合は父なりの紀行文であり、旅先で見聞したことをつれづれに綴っているに過ぎない。

 こたびの手紙は久しぶりで、しかも題材屋の客に預けるとは、珍奇なことがあるものだと思っていたのだった。

 少年の言葉を聞いて、わたしの頭に父への怨念がむくむくと立ちのぼってきた。

「なんだかずいぶんとお怒りのようですね……。何が書いてあったんです?」

「父の手抜かりぶりを嘆いているところだよ。――手紙には、『この手紙を届けた少年が案内してくれるだろう』と書いてある」

「案内?」

「……すまぬ。詳しく話そう」

 わたしは腰に手をやり、深く深くため息をついた。焦りと怒りと落胆がないまぜになって、うまく説明できていない自分が情けなくなる。

 こんな情けない思いをするのは父のせいに違いなかった。わたしは大いに眉間にしわを寄せ、銀河のかなたへ吹っ飛んでいくべき父の姿を想像してから、続けた。

「わたしは今日十八歳になったばかりなのだが、十八といえばこの(くに)では成人の年齢だ。わが洲では、成人として認められるには、家の当主が課す成人の儀式を履行する必要がある。この儀式というやつには決まりはなく、当主が自由に定めることになっている。わがサファル家の商売は、傑物(けつぶつ)たる母が取り仕切っていて何の問題もない。しかしながら、当主は依然として父なのだよ」

「ほうほう。それはそれは」

 少年は予想がついたようである。

 まったくかなしいことだ。

「父の言い分は要するにこうだ――

 『十八歳の誕生日おめでとう。サーラの成人の儀式についてだが、〝父を捕まえること〟とする。なお父は好きなように旅を続けるのでそのように。この手紙を預けた町までは、少年が案内してくれるだろう。そこからは、どこかしらに次の行き先の手がかりを残しておくから、まあなんだ、がんばれ』

 だ! たわむれにもほどがある!」

 手紙を地面に叩きつけそうになるのを、わたしは必死でこらえなければならなかった。


次回 >>> 「 宣 言 」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ