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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
閑話  隠れ湯けむり霊泉探訪
37/79

2.5-3. 温泉

 サーキィと同様の体格と配色をしている、と思ったが、瞳の色が異なっていて、サーキィの蜜茶色に対してふたりは星青色の目をしていた。これが水霊人(ウンディーネ)の特徴であるようだ。

地霊人(ノーム)だ」

「のーむ」

「おんせん はいりにきたか?」

「きたか?」

 ふたりは輪唱(りんしょう)するように言いながらサーキィの手を取って、同胞との邂逅(かいこう)を喜んでいるように見えた。

 ように見えたというのは、精霊人(スプライト)はあまり豊かには表情を変えないからで、サーキィのほうも、表情であらわすよりはほんわかとした雰囲気の醸成(じょうせい)でもって応えていた。仲良くできているようで何よりである。

「おんせん はいっていけ つかれ とれる」

「とれる」

「このおんせん われわれがつくった」

「つくった」

水霊人(ウンディーネ) すごい」

 最後の一言はサーキィのものである。

 みな朴訥とした調子でしゃべるので、会話の拍子(ひょうし)がつかみにくい。

 それはともかく、確かにすごい。水霊人(ウンディーネ)はきっと水を操る術を使えるのであろうが、こんな場所に温泉を作ってしまうとは。

 いかんせん、山奥に住まう者たちのしわざであるがゆえ、数少ない山越えをする人たちにはまずもって気づかれることはないであろう。この温泉はもっぱら精霊人(スプライト)たちだけの楽しみになっているのだろうな。

 そう考えればわれらは僥倖(ぎょうこう)だ。こんなめずらかな場所で汗を流すことができるのだから。

 いうなれば、水霊人(ウンディーネ)の隠れ湯か。この世にはまだまだわたしの知らぬ珍奇な秘境があるものだ。

 彼女らは、わたしのマントを引っ張って早く入れ入れと言ってくる。ありがたいし、かわいらしい。にやにやが留まるところを知らない。

「あの、そろそろ手をどけてくれません?」

 目をふさがれ続けているカイがぽそりと言った。聞けぬ願いだ。

「彼女らはいま裸である」

「体は人格に関係ないってサーラさんが」

「放念せよ。わたしもこれから温泉に入ろうと思っているしな」

「ぼくの目をふさぎながらどうやって入るつもりなんです? だいじょうぶですって、裸に興味ありませんから」

 なんだと?

 それはそれで腹が立つな?

 わたしのうるわしき肉体を見せつけてやろうか。

 ――というよこしまな考えが頭をよぎったものの、何を考えているんだわたしはと一瞬で思い直す。

「ぼくは見張りに立ってますから。入浴をぞんぶんに楽しんでください」

「そなたは入らんのか?」

 これは混浴したいという意味ではない。順番にという意味である。

「遠慮しますよ」

 カイはするりとわたしの拘束を脱すると、すぐに温泉に背を向け、茂みの中へ消えた。

 風呂をのぞいてませんよというアピールであろうか、と邪推してしまったが、気を遣ってくれたのだろうと思う。

 見張りをやってくれるというのはまちがいなくありがたいことであるし。

 でもちょっと口惜(くちお)しい気持ちが湧いてこなくもない。

「はいろう」

「はいろう」

「はいろう」

 精霊人(スプライト)たちの「入ろう」の三重奏に押され、わたしは旅装を解きはじめた。

 防具を外し、剣を置くと、それだけで解放感がある。

 屋外で裸になるのはかなり、かなり気が引けたが、湯のにおいをかいでいると、すぐにも飛び込みたい気持ちがわき上がってきた。湯には魔性のかおりがある。

 下着も脱いで自然の風に当たると、いわくいいがたい感覚で全身がいっぱいになり、たまらない心持ちになる。開放的な空間で裸になるとはなんと蠱惑(こわく)的なことか。


次回 >>> 「 休 息 」

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