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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第2章  はじめての死威
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2-15. 輪郭

 宿の寝床で、今日一日のことを思い返していた。

 あわただしい滞在になってしまい、ヤックムの風情(ふぜい)をろくに見聞できなかったのは心残りだが、ここに来るまででもずいぶん時間を使っている。急がねばならない。

 父はまだソニヤーにいるのか、その先か。あるいは、さらにその先へ行ってしまっているのか。まるで見当はつかぬが、わたしはきっと捕まえられるという確信を持ちはじめていた。

 故郷を飛び出し、精霊風に吹かれ、さまざまな土地を通ってここまでやってきた。異邦の食物を胃の()に入れ、親しみのない気候となまりの響きを浴びて歩んだ。

 化け物と戦いもした。町の人たちの喜びよう、まるで英雄になった気分だ。詩文を好むわたしとしては、ひとつ歌でも吟じてみたい気持ちが湧いてくるのだが、

〝この宇宙にある数多くの定められた法則のなかで、文学の功績にすぐさま報いるように調節できる法則はないように見える。そして、全体として、それが良いのである〟

 という学者の言葉もある。父捜索に専念しなければならない身としては、ただ情景を思い描くに留めておこうか。

 カイとサーキィには大いに助けられた。幻動気のありようを目の当たりにし、霊珠なる存在が世界に影響を及ぼしている可能性を見せつけられた。「題材」の中に夢見てきたことが、ひとつひとつ現実になっていっている、そんな実感がある。それには例えようもない快感が伴っていて、今も、思い出しながら胸がわくわくとうずいてきて、にやけてしまうよ。

 死を感じさせるような目にも遭った。幸いにもわたしは生き延びているが、死は決して遠いものではないと感じさせられた。だからこそ、明日に思いをはせ、明日からはどうすべきかと考えることができるんだなと思う。

 天井に向かって左手を伸ばす。手を強くにぎってみると、少しだけ傷に響いて痛い。手を開くと、痛みはゆるむ。できるならば、誇らしく思える傷がほしいものだ。

 わたしの輪郭はひとまわり大きくなった。父よ、首を洗って待っているがよいぞ。


次回 >>> 閑話「 英 雄 」

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