2-13. 善性
わたしは高ぶった感情を抑えて、
「……わたしは自分が正義感にあふれる人間だなどとうぬぼれるわけではないが、しかし放っておいてよいとも思わぬ。なんとかしようはないか?」
「だいぶ力を失っているようですから、大したことは起きないと思うんですが……」
言いながらカイは霊珠を手の内でコロコロともてあそぶ。
わたしは、自分がカイの善性を恃む感情を持っていることに気がついた。
「じゃあこうしましょう。サーラさん、ナイフを持ってください」
「ナイフ?」
わたしが訝しみながらナイフを抜くと、カイは霊珠を地面に置いた。
「ナイフでこれを斬ってみてください。まあ一応、思いっきり」
「一応ってなんだ一応って。大事にはなるまいな?」
「そう祈ってください」
「おい」
「冗談です。だいじょうぶです。まずまちがいなく」
言葉の付け加え方が不穏だ。サーキィの持ち物なんだぞ、とサーキィのほうを振り返ると、彼女はゆっくりとうなずいた。いい、のか。
わたしは霊珠のほうに向き直り、ひざまずいた。カイがきっと心変わりをしてくれたのだと信じて、ナイフを力いっぱいに振り下ろす。
意外にも霊珠は簡単に割れた。瞬間、霊珠は閃光を放ち、わたしは思わず目をつぶった。
ゆっくり目を開けると、霊珠からは色味が消え、そこらの石と同様の姿に成り果てていた。
「! …… ちから ふえた」
「なに?」
サーキィが近づいてきて、ナイフを凝視した。焦点が合っているのか合っていないのか判然とせぬ目で、一心に刃のきらめきを見つめている。まるで魅入られたようだ。
「やあ、うまくいきましたね」
「どうなったんだ?」
「サーキィさんの言うとおりですよ。そのナイフは強化されました。どういうふうに強くなったかはわかりませんけどね。霊珠に残っていた力とナイフが持っていた幻動気がうまく混じり合っています。たぶん、発動できる動術が強力になったんじゃないですか?」
「余もそうおもう すばらしい」
「そういわれてもな……」
変わったように見えぬ。わたしには動術の才能がないのかもしれない。
サーキィはあたりをきょろきょろ見回して、
「サーラさま ちょっとこれ さしてみて」
と、近くにあった岩に近づき、ぽんぽんと叩いた。サーキィと同じぐらいの大きさだ。
刺すって……かなり固そうだぞ。刃こぼれしないといいのだが……。
と思いつつ、そのとおりやってみると、大して力も入れていないのにナイフはあっさりと刺さった。のみならず、入ったヒビがどんどんと広がって、あっという間に岩は真っ二つになってしまった。
ずずん、という重々しい音とともに岩は両側に倒れていった。
「いぜんだったら きれただけ こんどはわれるように なった すごいすごい」
驚異的な力だ。たったの一刺しでここまでのことが。
「いやー幸運でしたね。うまくいってよかった。なにせ何が起きるかわかりませんし」
カイは晴れやかに笑う。どうもわざとらしい笑みだ。大丈夫だと言っていたではないか。調子のいいやつだな。
やはりこの者に善意を期待するのはまちがいであろうか……。
……さりながら、優れた能力でもってわたしを助けてくれ、時には命さえも救い、恩を着せるそぶりも見せない。
わたしは複雑な気持ちで深く嘆息した。
――とにかく、だ。
これで霊珠による問題は起きなくなったわけだ。そのことは素直に喜ぶべきだ。
仮にわたしがカイから霊珠を取り上げたとしても、わたしはその処理に大いに困ったことであろう。どこへ投げ捨てたとしても不安が残るし、埋めたとしてまた掘り出されてしまうかもしれない。持ち歩くなんてまっぴらごめんだ。
解決法を提言してくれただけ、よかったのだ。そう思うことにする。
それにしても、こんな面倒な代物がこの世にあるとはな……。「題材」に出てくる奇想天外な出来事は、客による誇張が入っているのだろうと思っていたが、もしかすると裏でこういうものが作用していたのかもしれない。世界はなんと不思議に満ちていることか。
わたしはナイフをおさめ、
「さあ、町の人たちを呼んでこよう。きっと坑道の中にさらわれた人がいるのであろう。助けねばな」
次回 >>> 「 土 産 」




