2-12. 霊珠
「何がおもしろいんだ?」
「一見すると、玉――玉というのはこのへんで珍重される宝石の一種なのですが――に見えますが、実は違います」
「ちから かんじる」
いつのまにかサーキィは立ち上がり、カイの持つ小石に視線を向けていた。
「そうですね。霊珠というやつです。めったに見られません」
「霊珠……?」
「ところによっては賢者の石とも呼ばれますが」
「賢者の石だと」
これまたうさんくさい言葉が出てきたものだ。
この言葉は多くの物語に出てくる。わたしも腐るほど見てきた。
やれ不老不死になれるだの、全知全能になれるだの、泥を金に変えることができるだの。要するに、「何か凄いことが起きる」その媒介に対して、便宜的に名付けられただけのものだ。
と、わたしは理解しているのだが。
胡乱な顔で見ているわたしに対して、実在を当然視する様子で淡々とカイは語る。
「ごくまれに鉱山などから産出するのですが――あえて言うとそうですね、幻動気が塊になった、みたいなものです。この猿が偶然飲み込んだんでしょうね。で、これが本来の姿」
カイが縮んだ猿を指差す。こんな小石を飲んだだけで、あんなに巨大化して、暴れ回るようになったと……?
「賢者の石なんてものが本当にあるというのか……?」
「賢者の石と呼ばれる伝説のたぐいはまあだいたいホラ話なんでしょうけど、これは今ここにあるんですから、あるんですよ」
とカイは当たり前のように言う。
「この猿はこれを飲み込んで狂暴化したようですが、常にそうなるというわけではないでしょうね。何が起きるかわからない、というのが実際のところです」
「そなたほどのさすらい人でもわからぬか」
「不可思議なことは世に多いものです。どうです? ためしに飲んでみますか? もしかしたら動術を使えるようになるかも」
カイがにやにやして霊珠とやらをわたしの目の前に差し出すので、わたしはのけぞり、
「悪い冗談はよせ。そんな気色の悪い物」
「でしょ? 誰でもそう言います。だから『何が起きるかわからない』。知識はいつも体験に劣後するというわけです」
「……なるほどな」
わたしも、実際にここまで来てみなければわからぬことがたくさんあった。これからもきっと多くのことがあって、わたしはそれらを虚心に受け入れていかねばならないと思っている。
だからといってそんな怪しい物を飲んでみようとは思わないが。
命を失いかねない種類の知識は蓄積されづらい、と納得しておくことにしようか。
「さてこれ、どうしますか」
カイは指で霊珠を上に弾き飛ばし、宙に浮くそれを人差し指と中指とで器用につかんだ。
「どうとは?」
「ぼくがこの種のものを見つけたときは、たいていその場にそのまま置いておくんですけど」
「その場にって……」
「そこの坑道から出てきたんでしょうから、中に適当に転がしておきますか」
カイの言いぐさにわたしはかっとなった。
「そなた本気で言っているのか? また動物が飲み込んでしまうかもしれぬし、鉱山で働く人たちになにか起きるかもしれないではないか」
「そうでしょうね」
「そうでしょうねとはなんであるか」わたしは声を荒らげた。「そんな危ないもの、放置はできぬだろう」
「サーラさんは有徳の人ですねぇ。ぼくは、そこにあるものはできるだけそのままに、というやり方で今まで旅をしてきましたから」
カイは、しかたないでしょうというふうに肩をすくめるのだが、わたしはそんなカイに得体の知れぬものを感じた。
まるっきり世間で何が起きようが知ったことではないといった口ぶりではないか。
しかもそれは、俗世から離れた隠遁者のような悟りの境地でもない。たとえ人が苦しむのが容易に予想できるとしても、そのごく近くで、ただ冷ややかに眺めていて、それでなんの悪びれも同情も儚みもない。
そういう素性が、この少年の内奥から漏れ出てくるかのように思えてしまった。
カイのことをそんなふうに思いたくはない。
次回 >>> 「 善 性 」




