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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第1章  父を殴りに三千里
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1-3. 接触

 地面に激突した禿げの巨漢は、一度びくりと身動きしたかと思うと、すぐに静かになってしまった。死んではいまいが、重傷は疑うべくもない。

 われに返ったごろつきたちは、動かぬ仲間を見捨てて逃げてゆく。なんたる無情。

 少年はそのありさまを、柔らかなほほえみを浮かべて、ただ見ていた。

 この者は、いったい何をした?

 あの巨体を投げ飛ばしたとはとても思えぬ。

 わたしよりやや低い背丈。帽子からのぞく、くせのついた黒髪。筋骨隆々ではまったくない。見た目の上では、年若いであろうことは容易に推測できる。

 しかしながらその立ち居振る舞いには平らかな精神がありありとあらわれ、先ほどの恐喝劇など毛ほども気にせぬ様子だ。

 気味が悪い。

 すすけたつば広帽子の下の落ち着き払った顔つきに、わたしは話しかけるのをもちろん躊躇した。

 横目に映る痛々しい男の姿のせいで、わけもなく、わたしもああなるのではないかと想像してしまう。

 しかし、手に持つ手紙の感触が、重い足を進めさせた。安全策をとっている場合ではないことが手紙には書かれていたのだから。

「もし、そなた」

 わたしは自分が出したためらい声に自分で驚きつつ、少年に向け言葉を継いだ。

「こ、これを持ってきたのはそなただな?」

 わたしはつぶれかかった手紙を不器用に差し出した。

 少年はわたしの顔と手紙を交互に見つめ、

「えーっと、題材屋の店主さんでしたっけ。……そうですね。ぼくが持ってきた物だと思います」

 あっけらかんとした、少年らしい高音域の声。耳に心地よいまろやかな響きだ。わたしの顔に見覚えはあるらしい。

 とりあえず、触れる者すべて空中へ弾き飛ばしてしまう厄介な性格ではなさそうだ。

「これについて尋ねたいことがある」

 少年の声色に少し安心して、話を続けようとしたところで、倒れたままのごろつきがふたたび目に入った。だめだ、こんなところでは冷静に話せる気がしない。

「……場所を変えよう」

「? はい」

 元来た道へと戻り、落としてきた靴を拾った。足の汚れを払い、靴を履き直す。通行人らの怪訝(けげん)な視線が痛い。ほっといてくれ。

 小さく深呼吸をしてから、少年のほうを向き直り、わたしはようやく落ち着いて話を始めることができた。


次回 >>> 「 儀 式 」

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