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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第2章  はじめての死威
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2-8. 咆哮

 異郷(いきょう)の味を勢いよく楽しんで、いい気分で宿に泊まり、その夜ちょっと腹を下したりした。

 旅慣れたと思っていたが、もう一歩足りなかったらしい。だが朝になったら快調だったから問題はない。ないのだ。旅には強靱(きょうじん)な胃腸が必要だと学んだ。

 そういうわけで、われらは化け猿が出るという鉱山へやってきた。

 紹介所がつけてくれた案内人は、当の坑道が遠目にわかるかどうかという位置まで山道を案内すると、脱兎のごとく帰ってしまった。よほど恐れているようだ。

 そうあからさまに恐怖にまみれた姿を見せられると、こちらも影響されるのでやめてほしいものである。

 恐怖を振り払おうと、わたしは昨日賞金稼ぎをやりこめた時のことを思い出していた。あれで自信はついた。今回も、うまくやる。

 坑道までの道は整備されていて、登るのに支障はない。

 が、案内人が帰って静かになると、ここまで来るのにさして気にしていなかった周囲の森林が、憂鬱な雰囲気を醸し出しているように思えてくる。虫や鳥の鳴き声が一段大きくなったかのごとく響き、まるでこの先へ人を寄せつけまいとする意思があるかのようだ。

 われらは慎重に山道を進んだ。

 木漏れ日の差す山景は美しいが、足取りを軽くさせてはくれない。

 あたりは明るいのに、闇色の空気が混ざっている。(あや)しい視線にさらされている気さえした。

 下界よりも濃い湿気で、じっとりと汗をかいた。

 坑道が近づいてくると、景色に異様な変化が現れはじめた。

 木々の枝が、坑道とは逆方向にばかり伸びているのだ。まるで大風に延々と煽られ続けたというように、あるいは坑道から逃げのびようとするように。

 一斉に病気に罹りでもしたのか、幹に奇妙な(こぶ)ができた木が何本もあった。

 転がっている岩を見ると、定規を当てて削りでもしたかのような、直線的な割れ目、傷が複数走っている。爪痕(つめあと)――では、あるまい。きれいすぎる。

 この世ならざる力の片鱗(へんりん)がそこかしこに表れていた。

 サーキィがぽつりと、

「いやな かんじ」

 と言う。同意するほかない。なのにカイときたら、

「おっ。ヘレボロ草だ。めずらしーい」

 などと植物発見の喜びに浸っていた。

 ヘレボロ草。煎じて飲むと狂気を治す効果があるといわれるが、実際には幻覚を引き起こすらしい。カイが言うには。

 真逆でおもしろいですよねと言われても困るんだこっちは。豆知識はまた今度頼む。


 ――――やがて道は開けてきて、坑道の入り口がぽっかりと大きく空いているのが見えてきた。元は自然の洞窟だったらしく、坑道としては内部はかなり広いという話だ。

 あの中に、大猿の化け物がいるのか。

 わたしは父からもらった剣を静かに抜いた。

 と、木陰から様子をうかがっているわたしの横を、すたすたとカイが歩いて行く。あまりによどみのない動作なので、何をしているのか理解できなかった。

 気がついた時には、カイは坑道のすぐ前に立っていた。

「おい、カイ――」


ゴアアアエアォアアア!!


 わたしの声は、猿のものとはとうてい思えぬ咆哮(ほうこう)にかき消された。振動で内臓が浮き上がったかと思うほどだ。

 鳥たちがギャアギャアと騒いで一斉に飛び立つ。

 わたしは後ずさりしたが、カイは坑道の前に変わらず平然と立っていた。何を考えているのだ、あの者は!

 カイを放ってはおけぬ。わたしは小声で隣のサーキィに叫んだ。

「サーキィはここにいろ!」

「ことわる」

 なぜそういうところで勇敢なのか。致し方ない。われらはふたりして木陰から飛び出した。


次回 >>> 「 打 撃 」

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