2-7. 滋味
槍は二束三文であった。
わかっていたんだそんなことは。
槍のことなんか知らぬ。知らぬ知らぬ。
「あ、あそこは食堂ですね。入りましょう」
槍を処分してから、振り切るようにして町を闊歩していると、カイが食堂を見つけた。
屋外にも卓子と椅子を並べた大衆食堂。ヤックムの風俗が体感できそうで、たいへんよい具合である。さあ、腹ごしらえだ。
ウロゥクという名のその食堂では、店員のひとりがわたしの洲の料理を知っているというので、例えてもらいながらメニューの説明を受けることができた。
とはいっても、うまく想像できないものも少なからずある。どういうものかもわからぬままに頼んで冒険してみたい気持ちもあるのだが、饂飩に似ているというメニューを選んだ。饂飩ならばなじみ深い。
しかして、出てきたのは、饂飩と同じように汁に入った麺と肉、野菜、茸なのであるが、饂飩よりも麺が細いし、いくぶん黄色い。
店員の言葉がよく聞き取れなかったが、らー何某という名前らしい。
この店員がなかなかおしゃべりで、いろいろと解説してくれる。この土地の言葉を完全には理解できないわたしであるので、話半分になってしまうのだが。
それでは食べるとしよう。
ほうほう。この麺は玉子を使っていて、饂飩とは違ったコシがあると。
ずるずるといってみる。なるほど弾力がある。ふしぎな味わいだ、これで同じように小麦粉から作っているのか? 麺自体の味がしっかりと出てくる。
それにしてもこの汁の味は何であろう。なに? 牛の骨を煮込んだとな? そのような作り方、想像の埒外である。うまい。しみいる。しょーゆ? しょーゆとは何だ? わからぬ。うまい。しょっぱい。うまい。
野菜だけでなく茸を多く使うのがこの土地の味であるか。汁だけを飲んでみよう。ああ、森の生命力が溶け出しているかのようだな。よい香りが口から入ってくるぞ。塩味のはざまを通り抜けていくさわやかな味に、ひとつ唄でも吟じてみたくなる。こういうのを「ダシがきいている」と表現するのか? おぼえておこう。うまい。
麺の上に乗っている肉は牛肉であると。わたしの洲では牛肉はあまり食べぬ。どれ。おお、甘い。しかし羊肉の甘さとはまた異なるものだな。とろけるような歯ごたえだ。塩味と甘味と脂の味がうずまいて暴力的だな。暴力はうまい。
たぐる麺。
舌にしみこむ汁。
麺と汁と精神と時のはざまを取り持つ野菜と茸。
――――。
完食。
ああ、そうだな。食物と宇宙に感謝であるな。
ありがとう。ごちそうさま。
「よい食事をさせてもらった」
わたしは店員に駄賃をはずんだ。
「精霊人のしょくじ おもいだす」
同じように完食したサーキィがぽつりともらす。
「ああ、なんであったか。精霊人にも麺料理があるのだったな。一度聞いた」
「ただ もっとそぼくな あじ」
「そうなのか。いずれ食べさせてくれ」
ひとつの楽しみが口の中を通り過ぎ、次の楽しみができた。
異郷の地で感得した味のよろこび、旅の味。
次回 >>> 「 咆 哮 」




