2-5. 邪魔
「あんたがカイって人かい」
当の鉱山への案内は明日してもらうこととなり、宿に入る前に食事をしようと、食堂を探して町を歩いているさなかのことである。ちょうど人通りの切れたところで、われらの前に男が一人、立ちはだかった。
立派な体つきの若い男。ぼさぼさの長髪に無精ひげ、薄汚れた旅姿で、槍を一本右手に持っている。
問われたはずのカイは立ち止まってきょろきょろとした。こやつ、しらを切るつもりか。
「そなただ、そなた。わざとらしい」
わたしが言ってやると、カイはいたって知らぬ顔で、
「いやーほかにカイって人がいるのかなと思って。……あー、ぼくがカイですが」
そう言ってカイはしかたなさそうに一歩前へ進み出た。
「んだァてめぇ。ふざけてんのか?」
男の口調が途端に乱暴になった。
まったくだ。カイはふざけているとしか思えぬ。
だが、それはそれとして、初対面でその口の利き方はなんであるか。
「チッ。まあいい。あんた、化け猿退治をしに来たんだろう。猿は俺が退治するからよ、引っ込んでてくんねえかなぁ」
男はそう言うと右手の槍をカイに向かって突き出してきた。やや大ぶりな穂先がカイの顔に届きそうになる。わかりやすく、脅しだ。わたしはマントの中で腰の剣に手をかけた。
しかしカイは微塵も動揺を見せず、身構えることすらせず、
「はあ。ええと何でしょう。察するに、報奨金が出るというのを聞きつけてヤックムまで来たというわけですか?」
「そういうこった。面倒な依頼をひょいひょい片付ける野郎がいるってんで、先を越されたかと思ったぜ。まさかこんなガキだとはな」
なるほど。ヤックムの噂を聞いて外からやってきた賞金稼ぎか。
そうだったな。世の中にはこういう輩もいるのだ。危険な事があるならば、それで活計を立てる者もいるということだ。
「別に恨みはねえからよ、しばらくどっかに消えててくれや。痛い目見ないうちによう」
男は嘲るように口角を上げ、槍の穂先をカイの顔の前でぷらぷらと揺らした。完全に人をなめている。
わたしが嘲弄されているわけではないのだが、わたしはいつになく怒りを感じていた。
なにせわたしは今すこぶる機嫌が悪いのだ。
やっとヤックムに到着したと思ったら、父は極悪な手紙を残しているし、極悪な仕事を請けさせられるし、そしてこの無礼者だ。
だいたいこの男、大した技量じゃないだろう。
当人は腕に自信があるつもりかもしれないが、槍の穂先を見ても手入れが行き届いていないし、手も足も筋肉がゆるんでいる。他人に刃物を向けておきながら、緊張がちっとも足りていない。恵まれた体躯があるからやってこれただけ、という印象を持たざるをえない風体だ。
そんなありさまでしてよい態度ではないぞ。
痛い目を見るべきなのは貴様のほうだ。
次回 >>> 「 初 陣 」




