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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第2章  はじめての死威
23/79

2-4. 仕事

「と、いうことなんですけど」

 慨嘆(がいたん)のあまり手紙を破りそうになるわたしをよそに、手紙の内容をリウ氏に伝えるカイ。

 その冷淡さ、心憎い。

「まあ、その、なんだ……」

 リウ氏は、難事(なんじ)を依頼できると一瞬喜んだ表情を見せたが、わたしに同情したのであろう、言葉を濁した。

 その遠慮、父に格安で売ってくれぬか。

「みせて」

 サーキィの背の高さでは手紙が見えなかったようである。

 手紙を渡すと、サーキィは無表情で読み、そのまま沈黙し、わたしの太ももを揉んだ。

 ……彼女なりのなぐさめの表現であることは理解しているが、あまり人前でやらないでもらいたい。変な声が出そうになる。

「…………『この紹介所でいちばん面倒な仕事』とやらを聞かせてくれるか?」

 わたしが頭をかかえながらしぶしぶ促すと、リウ氏は申し訳なさそうに、重い口を開いた。

「ヤックムには鉱山があるんですが、実はある坑道の――」

 人手が足らないので三倍仕事しろと言うんじゃあるまいな。

「――なかに化け物が()みつきまして」

 もっと悪かった。

「全身真っ白で、姿形は猿のようなんですが、あまりに巨大でして……あんな大きいのは誰も見たことがなくって、それが暴れ回るんで困っておるんですよ。おっそろしい目をして、腕も脚もぶっとくって尋常じゃないんです。その坑道は近づくこともできないんで、鉱夫も鉱山師(やまし)も商売あがったりですわ。さらに悪いことに、その猿がたまに町に降りてきよるんです。つい先日も、女性が一人さらわれてしまいまして。助けに行きたいんだけんども、町の者は誰も近寄りたがらないもんで……まあその、一応報奨金(ほうしょうきん)は出しますから、なんとかしていただければと……」

 えーと、うん。思わず目をつぶって天を仰ぐ。煩悶。

 まったくけしからん猿であり、その惨状、察するにあまりある。あまりあるのであるが、それを? われらが? 解決せねばならない?

 どういうつもりで父は「いちばん面倒な仕事」などという指定をしたのか知らぬが、大変なことになってしまったぞ……。

「じゃあそれの退治、担当しまーす」

 (きゅう)するわたしをおいてカイがあっさりと承諾の返事をしたので、わたしはカイを疾風のように隅へ連れて行った。

 憤懣(ふんまん)を精いっぱい隠した笑顔でカイの胸ぐらをつかみ、噛んで含めるように言った。

「そなた。安請け合いにも、ほどがあるのでは、ないかな?」

 しかしカイはちっとも調子を変えず、気楽そうに返す。

「だって、やるしかないんでしょ?」

「うぐ……しかしだな」

「だいじょうぶ。あなたの命はぼくが守ります。仲間ですから」

「その冗談はサルカルでも聞いたぞ。……ははーんそうか、そなたの動術で退治するということか? そうなんだろ?」

「サーラさんの成人の儀式なんですから、サーラさんが主体にならないといけないのでは?」

「く……。良識あることを言いよる」

「まあまあ。なんとかなりますよ」

「なんとかったって」

 わたしが食い下がっていると、サーキィがてふてふやってきて、

「サーラさま やるしかない 余もがんばる」

 きゅっと両拳をにぎって見せた。かわいらしい。最高。最も高貴。

 …………嗚呼(ああ)。そういったわけで、やることになってしまった。化け物退治。


次回 >>> 「 邪 魔 」

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