2-4. 仕事
「と、いうことなんですけど」
慨嘆のあまり手紙を破りそうになるわたしをよそに、手紙の内容をリウ氏に伝えるカイ。
その冷淡さ、心憎い。
「まあ、その、なんだ……」
リウ氏は、難事を依頼できると一瞬喜んだ表情を見せたが、わたしに同情したのであろう、言葉を濁した。
その遠慮、父に格安で売ってくれぬか。
「みせて」
サーキィの背の高さでは手紙が見えなかったようである。
手紙を渡すと、サーキィは無表情で読み、そのまま沈黙し、わたしの太ももを揉んだ。
……彼女なりのなぐさめの表現であることは理解しているが、あまり人前でやらないでもらいたい。変な声が出そうになる。
「…………『この紹介所でいちばん面倒な仕事』とやらを聞かせてくれるか?」
わたしが頭をかかえながらしぶしぶ促すと、リウ氏は申し訳なさそうに、重い口を開いた。
「ヤックムには鉱山があるんですが、実はある坑道の――」
人手が足らないので三倍仕事しろと言うんじゃあるまいな。
「――なかに化け物が棲みつきまして」
もっと悪かった。
「全身真っ白で、姿形は猿のようなんですが、あまりに巨大でして……あんな大きいのは誰も見たことがなくって、それが暴れ回るんで困っておるんですよ。おっそろしい目をして、腕も脚もぶっとくって尋常じゃないんです。その坑道は近づくこともできないんで、鉱夫も鉱山師も商売あがったりですわ。さらに悪いことに、その猿がたまに町に降りてきよるんです。つい先日も、女性が一人さらわれてしまいまして。助けに行きたいんだけんども、町の者は誰も近寄りたがらないもんで……まあその、一応報奨金は出しますから、なんとかしていただければと……」
えーと、うん。思わず目をつぶって天を仰ぐ。煩悶。
まったくけしからん猿であり、その惨状、察するにあまりある。あまりあるのであるが、それを? われらが? 解決せねばならない?
どういうつもりで父は「いちばん面倒な仕事」などという指定をしたのか知らぬが、大変なことになってしまったぞ……。
「じゃあそれの退治、担当しまーす」
窮するわたしをおいてカイがあっさりと承諾の返事をしたので、わたしはカイを疾風のように隅へ連れて行った。
憤懣を精いっぱい隠した笑顔でカイの胸ぐらをつかみ、噛んで含めるように言った。
「そなた。安請け合いにも、ほどがあるのでは、ないかな?」
しかしカイはちっとも調子を変えず、気楽そうに返す。
「だって、やるしかないんでしょ?」
「うぐ……しかしだな」
「だいじょうぶ。あなたの命はぼくが守ります。仲間ですから」
「その冗談はサルカルでも聞いたぞ。……ははーんそうか、そなたの動術で退治するということか? そうなんだろ?」
「サーラさんの成人の儀式なんですから、サーラさんが主体にならないといけないのでは?」
「く……。良識あることを言いよる」
「まあまあ。なんとかなりますよ」
「なんとかったって」
わたしが食い下がっていると、サーキィがてふてふやってきて、
「サーラさま やるしかない 余もがんばる」
きゅっと両拳をにぎって見せた。かわいらしい。最高。最も高貴。
…………嗚呼。そういったわけで、やることになってしまった。化け物退治。
次回 >>> 「 邪 魔 」




