2-3. 伝言
「カイだ」
「カイが来たぞ」
「うわーカイが来ちまったのかー」
「カイが来てくれた!」
なまりの強い言葉ながら聞こえてきたのは、わたしでもサーキィでもなく、カイの来訪を受けとめるものだった。
カイはどよめくに値する人物であるらしい。
「カイ、そなたやけに有名人なのだな」わたしは含み笑いをして、「何をしでかしたんだ?」
「なんで悪いことをしたかのように言うんです?」
「冗談だ。で、何をしたのだ」
カイは肩をすくめて、
「以前来た時、依頼をいくつか安値で引き受けただけですよ」
「父に会った時か?」
「いえ、その前です。手紙を預かったのはヤックムの外れでのことで、その時は、ぼくは町なかに入らずヤックムを離れましたから」
ふむう。
そういうことならば、久しぶりの来臨ということで、また何か安く引き受けてくれるのではないかと期待するのかもしれないが、それにしては反応が大きすぎるようにも思う。
思い起こせば、町を歩いていてやたらに注目を集めていたように感じたのは、「あれはもしやカイでは」と通行人たちが見ていたからではないのか。
カイはよほどのことをしてきたように思われるが、はたして……。わたしはカイについて何も知らないな、と今さら思う。しかしこの様子、頼れる人物であると予感はさせる。
カイは周囲の反応を気にするふうでもなく、受付のほうへと歩を進めた。受付の近くにいた人たちがすっと道を空けていくのが、おもしろくも奇妙だ。
「カイさん、いいところに来てくだすった。実は困ったことがあって」
受付の初老の男は、待望の人がやってきたとばかりに、先んじてカイに話しかけてきた。
「リウさん、すみません。その前に。以前、サルカルのバダル・サファルという人がここで仕事を請けたと思うんですが、彼から何か聞いてませんか? 伝言を残しているとか」
「バダル・サファル……。ああ、あれかな。ちょっとお待ちを」
リウと呼ばれた人のよさそうな受付の男は奥へ引っ込んでいった。
「手がかりありそうですよ、サーラさん」
「助かった。そなたが気がついてくれたおかげだな」
意外に楽に次の行き先をつかめそうだ。
父からすれば、ここは小手調べといったところなのかな? カイにここまでの案内を承諾してもらえればよしとでもいうような。
ヤックムに着いた時は暗澹たるスタートになったと思っていたが、わたしは気が楽になってきていた。現金なものだと自分のことながら苦笑してしまう。よーし、このまま順調にいってくれよー。
やがて、リウ氏は戻ってきて、なぜかわたしに声をかけてきた。
「そっちの方、名前は?」
「? サーラ・サファルだが」
「バダル・サファルからサーラ・サファル宛てということで、手紙を一通と、革袋を一つ預かっとります。ことづけとして、『まず手紙を読むように』、それから『革袋の扱いは手紙に書いてある』とのことで」
「まず、手紙?」
嫌な予感がした。
そして手紙とは別に革袋があるとな。明らかな意図を感じる。これはきっと、腹立たしいほうの意図であろうな……。とりあえず父を殴る図を想像して心を癒やした。
リウ氏の節くれ立った手から手紙を受け取る。ああ、なんだかもう手紙に触っただけで指先から不幸が流れ込んで来るみたいだ。
おそるおそる手紙を開いてみると、あったのは短い文章で、こう書いてあった。
<この紹介所でいちばん面倒な仕事を請けること。そうしたら、革袋を与える。袋の中に次の行き先を記した紙と、ちょっとしたプレゼントが入っている>
あああああ! 嫌な予感は当たってもなんにもうれしくない!
次回 >>> 「 仕 事 」




