2-1. 先達
「やっと着いたっ」
ヤックムに到着し、わたしは両手を振り上げ高らかに発声した。
たまたま近くを歩いていたおじいさんがぎょっとした顔でこちらを見たが、一言ぐらい許してほしい。
まぁぁああっったく、スタート地点に来るだけでこんなに時間がかかるとは!
何日もかけてここまで来たからすっかり旅慣れて、はじめて洲外へ出た緊張はどこかへ消えてしまったぞ。
燦々と照る太陽さえも憎らしく思える余裕がある。
わたしはギリギリと歯ぎしりをして、キッと太陽をにらみ、陽光で目を灼かれてウッとうめき、こうなったのも全部父のせいだという気持ちを大いに盛り上げた。八つ当たり気味な気もするが、生産的な八つ当たりもあるのだとわたしは強く信じている。
何はともあれ。
ここが、父が手紙をカイに預けた場所ということだ。
父はここをとうの昔に発っていて、次の行き先についてなんらかの手がかりを残しているはずである。
父め、待っていろ。
やる気に打ち震え、ぎゅっと拳をにぎるわたしの横で、カイが冷静に言う。
「さて、どうしますか」
わたしは複雑な表情を返して、
「どう、とは?」
「どうやってバダルさんを探すんです?」
「………………」
いや、うん。とにかくヤックムに着けばなんとかなるだろうと考えていたというか、初めての長旅でまともに今後のことを考える精神的余裕がなかったというか。
「手紙にはなんと?」
「…………。父の手紙には、『どこかしらに次の行き先の手がかりを残す』としか書いていなかったが」
「ヤックムは田舎町ではありますが、あてもなく探していたら何日あっても足りませんよ」
「う、うう」
出だしで詰んだ感がある。やる気が早々と頭のてっぺんから煙になって抜けていきそうだ。やる気を吸引する動術があったら身に付けたい。
まったく勝手のわからぬ土地にやってきて、いったい何をしろというのか。
カイの言うとおりたしかにここは田舎町のようで、あたりを見回してみても、山野が当たり前のように視界に入ってくる。そこかしこに雑木林があり、道端にぽつぽつと立っている木はもちろん街路樹なんていう上品な代物ではない。
建物の数は多くはない。といって、一戸一戸訪ねて回れる数ではない。いま立っているあたりこそまばらだが、もう少し先のほうは町らしく家々が建ち並んでいる。全戸回ることなどできないのは一目瞭然だった。
絶望的である。役所か? まずは役所に行くべきか?
それとも、そのへんを歩いている人を捕まえて、「バダルという変なおじさんを知りませんか?」と聞いて回るか?
その場合変な人はわたしじゃないか! ううむ。
煩悶したわたしは、静謐を保っているサーキィの頬をふにふに揉んで心を落ち着けるほかなかった。サーキィは無反応である。
「ふーむ。バダルさんがぼくに手紙を預けたことから考えると…………」
カイはあごに手を当てて独りごち、
「……うん。サーラさん、サーキィさん、ついてきてください」
そう言って町の中心部のほうへすたすた歩きはじめた。
わたしとサーキィは慌ててカイのあとを追う。
「どこへ行くんだ?」
「土地ごとにいろいろ呼び名はありますが――要するに仕事紹介所へ向かっています」
「仕事紹介所?」
「ええ、日雇いでできるような仕事を紹介してくれます。ここは小さい町ですが、鉱山がありますから、たいていはその関係の労働者を募集してますね」
「そこになにか父と関係が?」
「バダルさんはときどき路銀稼ぎに紹介所で仕事をもらっていました。ここに滞在していた時もやっていたでしょうから、行けば何か知っている人に会えるかもしれません」
「おお!」
ありがたい。カイ様々だ。
「せんだつは あらまほしきこと なり」
サーキィがぽつりと言った。
次回 >>> 「 初 顔 」




