1-2. 路地
やや開けた路地に至って、そこでわたしの目に飛び込んできたのは、
最初に、
〝ごろつき三人に恐喝されているとおぼしきローブ姿の少年〟
次に、
〝あざける顔つきで少年の胸ぐらにつかみかかる、巨漢のごろつき〟
そして少しの間をおいて、
〝二階の高さほどまで宙を舞うその巨漢〟
だった。
巨体を空中に揺らしながら、何が起きたのか心底わからないといった表情の男。
それもそのはず、今の今まで優位に立っていたのは彼のはずなのだ。
取り巻きのごろつきたちは、ぼうぜんと口を開けて、空へと吹っ飛んだ仲間を眺めることしかできないでいる。
わたしもまったく同様に、驚愕のまま視線を上へ上へと移す。
それはやけにゆっくりした瞬間だった。
空中で一瞬動きを止め、巨漢の禿げ上がった頭が、暮れかかった陽光を煌と照り返す。
そして地面へ急降下。
――――ッ。
哀れな音がした。
それはおそらく複数本の骨折がもたらした悲劇の音楽だ。
「高所から人が地面に落ちる音」など、はたしてこのあとの人生で聞くことはあるであろうか?
あまりこころよいものではないから、できれば今後そんな音は遠ざけておきたいのだが、おそらくはその原因たる少年に、わたしは近寄らねばならない。
わたしの心臓の高鳴りは、焦燥によるものから、別の何かに変わっていた。
感じていたのは、渦中にある少年に近づくことの恐ろしさだけではない。眼前で起きた信じられぬ出来事が視覚と聴覚を駆け抜け、当分頭の奥に残りそうな感触があった。
そしてにわかに立ちのぼる、「とんでもないことが起ころうとしている」という予感。「もはや引き返せないところまで来ている」という直感。
それが、胸の鼓動をいっそう高ぶらせていた。
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