1-17. 霊果
「もどった」
サーキィが両手に果物を山とかかえて戻ってきた。
わたしからすればその一つ一つは手のひらに収まる大きさの実だが、小さな彼女にとっては少々手に余り、ずいぶんがんばって持っているように見える。
その姿はなんだか可笑しくも愛らしい。
「それはどうしたんだ、サーキィ」
「風霊人にもらった みかん」
「ミカン? ミカンとはなんぞ?」
だいだい色の小さな果実。オレンジによく似ているが形も大きさも異なっている。オレンジの一種なのであろうか。
「精霊人の きゅうきょくのおやつ たべよう」
究極とな。
しかも精霊人の。
聞き捨てならぬことを言う。食べねばなるまい。
異文化交流というやつだ。食文化の理解は大事なことであるからな。いやまったくしょうがない。大事なことだから。食は生きることの基本であるし、諸文化の基礎を担うものであるゆえ。しょうがないのだ。食べようと言ってくれているのに断るのは失礼に当たるであろうし。わたしは礼儀知らずではないからな。うむ。うっひっひ。
といった気持ちはおくびにも出さず、サーキィから一つみかんとやらを受け取り、さてこれはどうやって食すのかな……むいて食べるのでいいよな……? と眺めていると、
「サーラさま」サーキィはわたしが小脇にかかえた剣を指差した。「それなに」
「ああ、この剣か? 父からの誕生日祝いだ。おそらくだけど」
「なんだか ふしぎな かんじする」
「そうなのか?」
「ちから あるような ないような」
動術は特殊な道具によっても使えると聞いたことがあるが、そういうものの一種であるということだろうか?
「でも わからない すまない」
「まあ、父に訊けばよかろうさ」
「あ そうだ カイどの ちょっともって」
サーキィはカイにみかんの山を渡して、銀糸の刺繍が入った外套の中をごそごそと探りはじめた。
「これ あげる」
取り出したのは、一本のナイフであった。といっても、彼女にとってはナイフというにはやや大きく、鉈のような手頃感になろう。
蔓が絡まり合ったような意匠の鍔と柄、幅広で曲線のついた刀身が、地霊人の存在感によく親和していた。それを持ったサーキィの姿は、神話的な勇士のようでもあり、天からの使いのようでもあった。
「サーキィ、これは?」
「地霊人の釼 かんたんな動術 つかえる」
「そうなのか! これが! ……しかし、いいのか?」
「よい」
「いやいや二つとないものであろう、これは」
「みをまもるため」
「しかしそなたの身こそ」
……などと押し問答していると、みかんの壁の向こうからカイが割って入った。
「まあまあご両人。バダルさんを見つければまた元通りの暮らしなんですから、旅が終わったら返却するということで、サーラさんが受け取っておけばよいのでは」
「余も そうおもう」
「む、むむ……」
護身用の刃物が二つになってしまった。
一つはともかく、サーキィのものは粗末に扱うわけにはいかぬ。わたしは丁重に腰のうしろにくくりつけた。
それにしても、動術を使うことができる道具が本当にあるとは……「題材」の中で読みはしたものの、それを何の疑いもなく信じるほどわたしは子供ではないつもりだった。
だが、今こうして目の前にある。
そしてそれをサーキィが持っていたとは。
さっそく想定外のことが起きた。これからも予想を超えた出来事が起きるのだろうなと感じざるをえなかった。それは楽しみでもあり、不安でもあり。
「さあ たべよう みかんみかん」
「ああ、そうだったな。これはどうやって食べるんだ? 普通にむけばいいのか?」
サーキィ・みかん先生に手のひらを巧みに使ったきれいな皮のむき方を教わっていると、
「せっかく安定飛行になったんですから、甲板に出て食べましょうか」
とカイ。そうか、甲板に出てもよいのだな。たいへんに魅力的な提案である。採用。
次回 >>> 「 感 傷 」




