1-13. 欲求
「サーラさま てんしゅの しごと」
サーキィはわたしの腰あたりの高さから、いつものように朴訥に問いかけてくる。
精霊人全体がそうなのか知らないが、かれんな花のごとき声色なのに、地面がゆるやかに鳴動するかのような底深い響きだ。
「まあ待てサーキィ。仕事をさぼって遊びに行こうというわけではない」
「じゃあ なに」
「これには深い事情があってだな」
などと言いながら脇を走り抜けようと画策したが、どこを見つめているのかわからぬ蜜茶色の目に圧されて、動けなかった。
精霊人がそうなのか地霊人がそうなのかそれとも彼女特有なのか、ともあれサーキィは勘がいい。
わが家付きになったからなのかもしれないが、わたしが店から抜け出そうとすると、よく先んじて釘を刺してきたものだ。
むろんわたしもそれに対抗して洞察力を発達させ、何度か出し抜いてきた。
こたびはサーキィの勝ちである。
が、旅に出ることまでゆずる気はない。
この際、わたしは正直に事の次第を話すことにした。成人の儀式として、父捜索を課されたことを。
わたしは懸命にして早口の説得を敢行した。カイは待っているであろうし、最終便の時間も気がかりだ。
「…… しかし やはり母君に そうだんしてみる べき」
案の上のことを言う。
言及したくはなかったが、わたしは口にした。
「…………もしわたしがそなたの命を助けたことを恩義に感じてくれるなら、見逃してはくれまいか」
ふつう人とは暮らさぬ種族であるところを、ふとしたことでわたしが窮地を救ったために、サーキィはわが家付き――正確には「わたし付き」となった。
恩に着せるつもりはなかったし、むしろわたしは、精霊人がいつでもともにいてくれるということに特別な感慨をいだいてきたのである。
サーキィは頭をかかえ、
「余は それをいわれると よわい」
「ならば」
「しかし きけん」
わたしのほうもそれを言われると弱い。
なにせ洲の外はわたしにとっては想像の世界でしかない。
わたしに何ができるであろうとかえりみてみれば、知識も武芸も習得してきたつもりではあるが、不安がないと言い切れるほど、自信の地位は確かでない。
成人になることを抜きにして、ただただ身の安全を考えるなら、なおのことここに残るのが正解だろう。彼女がそれを第一に考えてくれているのは痛いほどわかる。
どうにかならないものか。そしてわたしは、本当のところどうしたいのか?
次回 >>> 「 安 堵 」




