1-1. 手紙
父からの手紙を名状しがたき気持ちで開いて、一読した次の瞬間、わたしは手紙をにぎって走り出していた。
「サーラさまっ」
制止の声をあげたのは、わが家付きの地霊人であるサーキィ。
わたしはかわいらしい声質のお叱りを聞き流し、店主室を飛び出して、わが店<題材屋>の玄関前へと躍り出た。
手紙を持ってきた少年はいずこか。まだ遠くへは行っていないはずだ。
このあたりは細い道が多い。見逃すわけにはいかぬ。これは人生の大問題なのだ。わたしはいそがしくあたりを見回した。
手紙をにぎりつぶさんばかりに震える手と、急速に高鳴る心の臓をうとましく思いながら、必死で目を凝らす。
少ないながらも人通りがあって、少年の姿はすぐには見つからない。あああこいつら全員蹴散らしたい! と不穏当な気持ちが湧いてくる。
――と、少年が着ていたローブの端が、横道へ吸い込まれていくのが視界に入った。
得たり!
逃がさぬぞ!
少年は逃走しているわけではないのだが、わたしは心の中でそう叫んで、駆け出した。
少年が曲がった角まで、近くはないが、遠くもない。まだいけるぞ!
走るとひらひらする服がうっとうしい。ええい面倒だ。わたしはスカートをたくし上げ、靴を脱ぎ捨てた。まったくどこのどいつだ、靴のかかとを高くしようなんて考えたのは。
内心毒づきつつ、わたしはすぐさま再疾走した。頼むぞ少年、さらに小道に入って姿を消していたなんてのは勘弁だからな!
勢い余りそうになりながらも角を曲がり、暗く細い道を突き進んだ。やや湿気のこもった空気が鼻をついたが、気にする余裕はない。
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