不思議の物語
同類は嫌いだ。
自分の嫌いなところを客観的に見ることになる。
「昨日はどうだった? あまりに負担になったら言って。そのときはどうにかするから」
樹さんの話があまり入ってこないのは昨日、あまり眠れなかったせいだろう。
『「幻想」今も作れるよ。”だった”じゃなくて今も作れる』
昔みたいに万音は雲の上にいた。
ずっと奇病の産物だと思ってた「幻想」は存在していた。奇病以外の能力も持ってるなんて……。莉央は大喜びだったけど。でも、じゃあ万音の奇病はなんだろう。というか……あの、「幻想」も。
「特に、問題はないです」
能力のことと、美春に人形にされていること以外は本当に問題はない。
樹さんは満足げにうなずいていた。
「ならよかった。あと……今日、放課後に佐久間のところに行ってくれない? あの子のこと連れて」
「わ、わかりました」
嫌だなあ……。面倒くさい。
「今日からのイベントあるのに?」
「そう」
理事長室から出てきた僕に話しかけてきたのは莉央である。
「なんか検査とかあるのかなぁ~?」
「そうじゃない?」
昔、佐久間虚空に似ていると言われたことがある。
『何をしていてもめんどくさがってる感じが』
『だるそうな感じが』
別に、こっちだって好きでこんなにだるそうなわけじゃない。全部奇病のせいだ。
「まあ、いいんじゃない? ほら、一時間目始まるよぉ?」
「どけどけ~!! 美紅さんのお通りじゃ~!」
体育の授業は杉谷美紅の独壇場である。プールへ行けばみんなのことをクロールで吹っ飛ばして行く。ついでに言えば、僕がいるのはプールからかなり離れた音楽室である。それでも美紅の声が聞こえてきたのだ。
「ししょーは今日もお元気ですねぇ! 臨さん!」
色素の薄い、小さな少年。眼鏡をかけた姿は一瞬頭が良さそうだけれど、美紅を「ししょー」と崇めるこいつは美春の同級生の鹿山陸である。
れっきとした鈴蘭学園中学校3年生だ。さらに言えば僕らの幼馴染。特に美紅の。そして、美紅同様アホだ。
「そういえば臨さん! その人は誰ですか!?」
ビシッと効果音のつきそうな勢いで陸が万音を指さす。陸にとっては美紅の身辺調査は欠かせないものであり、近づく人間は基本威嚇する。朝っぱらから美紅が万音に抱きついてるところを見たのだから無理もないかもしれないけど……。
「え、えっと、あの」
「ししょーになんの目的で近づいているんです!?」
涙目で恐怖している万音に詰め寄るのは是非ともやめてほしい。
「その子は稲仁万音。喪失少女なんだ。恐怖は人間に対してだから、そんなに詰め寄らないでやって」
「……喪失少女。むう……今日のところは見逃す」
「じゃあ、ほらとっととリコーダー持って」
鈴蘭学園では中学部一人と高校部二人でリコーダーの演奏を授業でする。陸に教えるのは相当難題のため、仲の良い僕に任された。何が難題なのか。それは陸のバカさにある。
「じゃあ、ドを弾いてみて」
ピュイーッと、高音がする。
「穴一つも塞いでないぞ。ほらここと」
ピイーッと、高音。穴を塞いでから、吹く瞬間にもう一度穴を開ける陸にため息をつく。
「で? 陸くんがドを吹くのに何分かかったって?」
「授業一時間丸ごと」
莉央が腹を抱えて笑う。いつも通り腹立つので置いていく。莉央は慌てて僕と万音の横に並んで歩く。
「待って待って! で、今からお偉いさんに会いに行くと」
「そうだよ」
何するの?と僕に聞く不安気な万音に「大丈夫だよ、多分」と声をかけつつ、佐久間のところへ向かう。
「っていうか……莉央はなんでいるんだ?」
「親友でしょぉ! それくらい察してよぉ。心配だからついてきたの!」
「心配ってなんだよ」
「それはねぇ〜」
「こんにちは」
急に会話に別の声が入ってきた。その後ろからの声に驚いて飛び退くと、そこには佐久間虚空がいた。
「あ~……そんなに驚く?」
真っ白で長いぼさぼさの髪をわしゃわしゃとしながら、佐久間は近づいてくる。無気力そうな虚ろな目、真っ白な白衣で、やっぱり僕の嫌いな佐久間虚空だった。
お久しぶりです。
胡桃野子りすです。
ネットの制限がとけて、やっと投稿することができました。また書いていけるのが凄く嬉しいです!
これは何ヶ月も前に書いたものですが、前よりも上手く書けていたらな、と思ってます。
それでは、また。




