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真っ白な死神  作者: 嶺上開花
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第五話 真っ白な死神

 ロゼはいつものように死神界の端っこから地上を眺めていた。 別に日課になっているというわけではないのだが、毎日そうしているところを見ると彼女の中では日課になりつつあるのかもしれない。

 そんな中で、ロゼは異変に気付く。

「…! これは…」

 突然ロゼが驚き、それにつられて近くにいたフラムベルジュも驚いた。

「だ、どうしたの?いきなり…」

「ふ…フラン…。 普通、人の寿命ってゆっくり減るはずだよね…?」

「そ、そうだね。そうだけど…」

「大陸一つの人の寿命が… ほとんどなくなってる…!」


 事態は意外にも重大だった。 何しろ一つの大陸に住んでいる人間の寿命がほとんど尽きているのだ。死神界にも多くの魂が運び込まれている。運び込まれている数が死神よりも圧倒的に多いため手が足りていない。

「それにしても、いったい何が…?」

 フラムベルジュの疑問に、ロゼも共に首を傾げる。そこに、聞きなれた声が響いた。

「ロゼ、ここにいたのか」

「あ、ミラ…」

 声の主はミリアンヌだった。しかしその顔にはいつもの余裕はなく、真剣な表情そのものだった。

「すまないが、力を貸してくれないかい? おそらく、この異変を収束できるのは、ロゼ。アンタだけなんだ」

 素っ頓狂な話に、ロゼもフラムベルジュも話が呑み込めず二人は互いの顔を見比べていた。 無理もない。突然異変解決のカギと言われてもピンとこないのだ。

「詳しい話は中央局でしよう。兎に角付いて来な」

 そういって踵を返す。その行動からも事の重大さが伝わってくるようだった。


 中央局の中も多くの死神が行きかい、いつにも増して忙しそうだった。

「ミリアンヌ裁判長、そろそろ話してくれませんか? どうしてこの異変にロゼの力が必要なんですか?」

 フラムベルジュの問いに、ミリアンヌは足を止める。 依然としてその表情は緊張している。

「実は、この異変は死神が起因しているらしい。 だが、私たちの”瞳”じゃあ犯人は特定できない。そこで、類稀な”瞳”を持ったロゼに犯人を特定してもらおうってことさ」

 —―瞳—— 死神の瞳は人間のそれとは違って血のような赤が混じる。その赤が強ければ強いほど寿命を見分ける能力が高い。

 ロゼの瞳はほかの死神とはくらべものにはならないくらいに赫い。ちなみにその能力はとびぬけていて、人の魂に刻まれた罪や秒刻みの寿命まで見ることができる。恐らくはその罪を見抜く能力を使って犯人を特定しろということなのだろう。

「そういうことだ。だからこの仕事はロゼ、お前にしか頼めない。やってくれるか?」

 ロゼはうつむき、何も語らない。 考えあぐねた結果、ロゼは首を縦に振った。

「いいよ。私の力でよかったら、いくらでも使ってよ」

「…助かる。 それと、なんだが――」

 ミリアンヌは何かを言いかけて飲み込み、やはり口に出す。

「力になれなくて… 頼ってばかりで、ごめんな…」

 それまでの真剣さが嘘のように、ミリアンヌは力なくロゼに向かった。 ロゼもそんなミリアンヌを見るのは初めてで、何か強い意志のようなものがロゼの中で生まれた。


 犯人を見つけるといっても、死神界にも人間界ほどでは無いが多くの死神がいる。その不特定多数の中から犯人を特定するのは至難の業だ。それこそ、砂漠の中から特定の砂粒を見つけだすような——

 ロゼとフラムベルジュは特にこれと言ってするわけでもなく、死神の往来の中を二人で歩いているだけだった。

「それにしても、ミリアンヌさんも無茶ぶりするよね。 死神界にどれだけの死神がいると思ってるのよ…」

「全部で10億とちょっと。ここにいる死神だけだったら130万くらいだっけ?」

 現実を突きつけられ、フラムベルジュは肩を落とす。

「にしても、本当に死神の仕業なの? 悪魔の仕業とか、そういうのじゃないの?」

「あ。それに関してはリサーチしてるよ。 知り合いに悪魔がいるんだけど、曰く『死神の仕業じゃないですか?って言うか、自分たちの食い扶持減らさないで欲しいよ』だってさ」

「アンタいつの間に… まぁでも、そういうことならほぼ特定できるってわけね。この大陸に異変が出てるってことはここの支部の中の犯行だろうしね」

 そうやってくっちゃべりながら街を歩いていると、周囲の喧騒が次第に小さくなっていった。

 それに気づいて周りを見ると、死神の往来はなくなっていて、それどこか人っ子一人…というより、死神一人もいなくなっていた。

 すると、小道から一人の死神が歩み出てきた。その死神は、一話でロゼを馬鹿にしていた、四話で捕まった死神の片割れだった。

「ちょっとアンタ、なんか用?私たち忙しいんだけど――」

 フラムベルジュが言いかけると、その死神は魂回収用の剣を握って二人に切りかかってきた。

 突然のことにロゼは反応できなかったが、フラムベルジュはギリギリのところで反応し、ロゼを突き飛ばす。 ロゼは突き飛ばされてやっと切りかかってきたことに気が付き、ゴロゴロと転がる。平衡感覚が失われ、代わりに鈍い痛みが染み入ってきた。

 とっさに顔をあげると、そこには腹に剣を突き立てられたフラムベルジュと、その剣を突き立てた死神が立っていた。そして剣を引き抜かれると、フラムベルジュはその場にぐしゃりと倒れこんだ。

 剣の死神はフラムベルジュを攻撃する気はなかったのか、剣を取りこぼして小刻みに震えている。

 ロゼは真っ白になっていく頭で、必死にフラムベルジュに駆け寄った。

「あはは… ドジっちゃった…かな?」

「フラン…! フラン」

 必死に名を叫ぶが、フラムベルジュの体はどんどん消えてゆく。というのも、死神とは曖昧な存在で、肉体はないが魂だけは存在しているのだ。 そんな死神を死神の持つ武器で攻撃すると、たちまち消滅してしまい、さらにはほかの死神の記憶からも消滅する。(といっても、記録は残るので『記憶にはないが記録にはある』という風な感覚に陥る)

 消えてゆく存在の中で、フラムベルジュは最後の力を振り絞りつつ、ロゼの頬に手を添える。

『無事でよかった… ごめん…ね――』

 その先は声になっていなかったので聞き取れなかったのだが、その瞬間からロゼは、何に駆け寄っていたのか分からなくなった。しかし、震えながら頭を抱えている死神に対して、怒りがこみ上げてくる。

 ロゼは何も考えられなくなった頭で大鎌を取り出し、その死神をずたずたに切り裂いた。

 そんなことで、彼女の気分が晴れることはなかった―――


 結果として、事態は急激に収束していった。なんでも例の死神が犯人だったらしく、犯人が死亡したことによって異変は解決したらしい。



 とある死神は人間界に降り立つ。そして辺りの人間を根絶やしにする。別に魂を回収するわけではない。殺したらそのまま放置して死神界に帰るのだ。

 するとそこに、馴染みの悪魔がひょっこり現れる。

「おやおや、今日も派手にやってますなぁ。 どうしたんだい?昔はあんなに人を殺すことに抵抗を持ってたのに」

 死神は別に、と短く答える。それを聞いた悪魔はそうですか、と苦笑いを浮かべる。

「ま、自分としては食料に困らなくて済むんで、楽でいいですけどね~」

 不気味な笑みを浮かべる悪魔を尻目に、死神は新たな人間を探してさまよう。

 心にぽっかり空いた、”大切だった友達”の穴をふさぐために…

これにて本作品は終了いたします。

最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。


次回作も読んでいただけると幸いです。

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