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真っ白な死神  作者: 嶺上開花
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第四話 事件

その日も相変わらず平和だった。

多くの死神が寿命を迎えた人間の魂を収集して戻ってきてはまた人間界に降りて行く。その往来はまるで蟻の行列を眺めているかのようだった。

勿論それを眺めているのは白いローブを羽織った死神、ロゼだった。ロゼは飽きもせずそれを眺めている。「暇なのか」と聞かれれば「そうでもない」と彼女は答えるが、端から見ればその光景は暇そうな彼女そのものだった。

「おや?もしかしなくてもロゼじゃないかい?」

背後から急に名を呼ばれる。その声はロゼの親友であるフラムベルジュの物ではない。何せフラムベルジュはロゼの隣に腰を下ろしているのだ。では声の主は?ロゼが声のした方向に目を向けると、そこには長い赤髪を風に靡かせ、古い血のような赤黒いローブを羽織った美人の死神がいた。その死神は手を振りながらロゼに近づいてくる。

「やっぱりロゼだ。大きくなったねぇ」

「もしかして、ミラさん?」

ミラと呼ばれた死神はまるで久しぶりに会った親戚のように構ってくる。

「…こんな所で何してるんですか?ミリアンヌ裁判官?」

完全に除け者にされているフラムベルジュは鬱陶しそうなジト目でミリアンヌを見つめていた。

「裁判官なんて堅苦しく呼ばなくていいよ。いつも通りミラって呼んどくれ」

裁判官と言うのも、死神は様々な仕事をしている。それこそ寿命を迎えた人間の魂を回収するのもそうだが、その他にもその魂の罪状を審判したり、只単に人間に死を告げるだけだったり、死神界で事務をしていたりと様々だ。ミリアンヌはその中でも魂の罪状を審判する裁判官の一人なのだ。

「それよりミラ、こんな所に何の用?裁判官が人間界へのゲートに来るなんて珍しいね」

「あ~… それなんだが…悪い、ロゼ。あんたを拘束させてもらう」

「……なっ!?何で行きなりそんな話になるですか!?」

何の脈絡も無い一言に一瞬呆気にとられたが、ロゼよりも先にフラムベルジュが異議を申し立てた。

「仕方がないんだよ。ロゼ、解ってくれ」

解るも何も、突飛過ぎて訳が分からない。が、ロゼはそれでも取り乱していなかった。

「ミラがそこまで言うってことは、何かあったんでしょう?私で良ければ付いていくよ」

依然として取り乱しているフラムベルジュは言い足りないといった風だったが、当事者であるロゼが行くと言ってからはそれ以上何も言わなかった。


死神界の中心には大きな施設が堂々と佇んでいる。正式な名称は無いが、殆どの死神は当施設の事を"中央局"と呼んでいる。ミリアンヌに連れられたロゼはその中央局の"死神問題課"とプレートの掛かった部屋に連れられていた。

中にはミリアンヌと同じ赤いローブを着た死神が4人座っていた。ロゼを挟むように二人ずつ向かい合い、残りの一人であるミリアンヌがロゼに向かい合うように席に着く。

「さて、これより『連続死神殺傷事件』の事情聴取を執り行う」

事情聴取、といった雰囲気ではないが、取り敢えずはそう言う名目なのだろう。

「えっと…取り敢えず、その『連続死神殺傷事件』だっけ?それの説明が欲しいんだけど?」

「うん。それはピーター、頼んだよ」

ピーターと呼ばれた裁判官が立ち上がり、こほん。とわざとげに咳払いをして手に持った紙の内容を読み上げる。

「死神・ロゼは現在死神界で連続している死神殺傷事件に関与している疑いがある。当事情聴取は、裁判を兼ねた聴取である」

ピーターは仏頂面で席に座る。

「えっと、先ずどこから突っ込んだら良い?」

「詳しく話すと、"連続死神殺傷事件"って言う事件が起こってね。被害者は皆口を揃えて『白い死神にやられた』って言うんだ。そこいらで白い死神ったらロゼしか居ないから、ほぼ自動的にアンタが関与しているんじゃないかって事になったのさ」

ピーターの一方的な説明にため息を溢しながらミリアンヌが捕捉説明する。それを聞いて、成る程と納得しかける。

「いや、でも私って確証も無いよね?なんで行きなり裁判も兼ねてる訳?」

その一言が、遂にピーターの堪忍袋を大爆発させた。

「裁判長!もう聴取など不要です!この死神が犯人で無い証拠などありません!」

ピーターの怒号に少し肩を竦めたが、そんなことよりも、だ。

「ミラっていつの間に裁判長になったの?昇進?」

「あぁ、こんな状況じゃ無けりゃあ自慢するんだがねぇ…」

「でも凄いね。最年少じゃない?」

「お、嬉しいこと言ってくれるじゃないかいーー」

ほのぼのと世間話に発展しつつある会話を、ピーターの大きな咳払いが断ち切った。相当頭に来ているようだ。

「でもさ?やっぱり私って言う確証無いんでしょ?」

「でもまぁ、アンタくらいだからねぇ。白い死神なんて」

事実、ロゼを除いた死神は『白なんて死神らしくない!』と言って白いローブを嫌う。そんなローブを着ているのはロゼくらいだ。

ミリアンヌの言い分に納得仕掛けていると、部屋の扉が勢いよく開いた。そこには血相を書いた死神が肩で息をしながら開けた扉に凭れていた。

「一体何の騒ぎだ‼今は裁判中だぞ!!」

「そ…その件ですが。また"白い死神"の犯行です…」

息も絶え絶えで放たれた内容に、ロゼとミリアンヌ以外が驚いた。


聴取兼裁判から数時間後、連続死神殺傷事件の犯人が捕まった。犯人は一話でロゼを馬鹿にしていた死神だった。何でも、卑下していたロゼが最近調子に乗っていると感じ、事件の犯人にして貶めようと考えての犯行だったようだ。

犯人の裁判では、犯人の利己的な犯行で極めて残虐性が高いとのことで情状酌量無しで実刑判決となった。


裁判の後、ピーターがロゼに謝りに来た。どうやらピーターの息子も重症を負ったらしく、それで頭に来ていたらしい。

「全く…ピーターの奴め。確かに子供が傷つけられるのが頭に来るってのは解るけどさぁ…ロゼが死神を傷つけるなんてことするわけ無いじゃないか」

ミリアンヌはロゼとフラムベルジュと共に近くのカフェでお茶を飲みながらケーキを食べつつ愚痴を溢していた。

「子供って…ミリアンヌさんって結婚してましたっけ?」

フラムベルジュはやたらにやついてミリアンヌに答えの知れた問を投げる。ミリアンヌは煩いと一蹴して黙々とケーキに手を付けるロゼを抱き締める。

「アタシはこの子が小さい頃からこの子を見てきたんだ。つまりこの子はアタシの娘同然さ!」

「いやどう言う理屈よ!」

フラムベルジュは机を叩きつけて立ち上がる。不意の事にロゼはびくりと肩を竦めた。

「あ、ごめんロゼ。驚かせちゃったわね」

「はぁ…アンタってロゼに対してはこのケーキよりも甘いわよねぇ」

ミリアンヌの予期せぬ一言にフラムベルジュの顔が真っ赤になる。

今日も死神界は平和である。

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