第二話 拝啓、天使様
ロゼは相変わらず地上を眺めている。何億とも居る人間を眺めるのは何故か飽きなかった。
ふと、とある街の片隅にある教会の中に寿命の尽きかけた人間が居るのを見つけた。ロゼはどうせまた老人だろうとたかをくくり、教会に出向いた。
その教会は古くはあったが何処か神聖な雰囲気を醸し出し、「はたして死神がこの様な所に入っていいものか」と二の脚を踏んだが、中に回収対象が居る限り入る他なかった。
古びた扉を開き、鮮やかなステンドグラス片隅の光が射し込む屋内へと入っていった。
一見無人のように見えたが、よく見ると掲げてある十字架の前に修道女が祈りを捧げているのを見つけた。寿命を見ると、もう少ししか残っていなかった。
「…そこに、誰か居るのですか?」
祈りを捧げていた修道女は目を瞑ったままロゼの方に振り向き、ロゼに声を掛けた。
「…気のせいだったのでしょうか?誰かが入ってきたような気がしたのですが…」
「あ、あの… 気のせいじゃ、無いです」
おずおずと名乗り出ると、修道女は驚いたかのようにビクリと跳ねた。
「こ、これは失礼しました… おぉ、我が主よ…愚かな私に赦しを…」
ロゼ達死神は寿命が尽きかけている者にはその姿が見えているはずだが、修道女はロゼの存在にすら気が付いていなかった。
「もしかして、貴女目が?」
「えぇ、生まれてからというもの、私は光を目にしたことがありません。しかし、それを不便に感じたことはございません。これは、主が私に与えられた試練なのですから」
視覚が無いのにも関わらず、それを不便に感じていないと言う修道女に、ロゼは戸惑いを隠せなかった。
「ところで、貴方はこの教会に祈りを?」
そう聞かれると返答に困ったロゼだったが、思いきって「死神です」と短く告げた。
「死神… ですか?」
「そう、貴女の寿命はもう尽きかけてる。私はそれを回収しに来たの」
修道女は若かったため、自分の死を告げられたら何らかの反抗を見せるかと思ったが、修道女は笑顔になり「そうなのですね」とだけ答え、十字架に向かって再び祈りを捧げ始めた。
「主よ、遂に天より迎えがお越しくださいました… これより私は天へと赴きます…」
死を受け入れる様子に、ロゼはやや戸惑った。
「何故そんなに死を受け入れられるの?死ぬのが怖くないの?」
すると修道女は見えないはずの目でロゼを見据えた。
「死期が来たと言うならばそれまでですし、これは抗いようもない運命なのです。我が主が与えてくださった運命なら、この目のように全てを受け入れます」
修道女はそう言うと、ロゼに向かって膝をついた。
「さぁ、私の生涯を完成させてくださいませ」
その瞬間、ステンドグラスから射し込む光が強くなり、神聖さが増したように見えた。
ロゼは自分で修道女の魂を刈り取らねばならないことを自分に言い聞かせ、勢いよく鎌を振り抜いた。
「あぁ… この世界は…これ程にも美しかったのですね……」
事切れる瞬間、修道女の瞳に光が宿った。そこに写ったのはステンドグラスによって色とりどりに輝く教会と、大鎌を持った天使のような死神の姿だった。
死神界に戻り、ロゼは初めて切り取った魂を天界へ届け、死神本部より灰色のローブを支給された。死神界では、一人でも人間の魂を刈り取ると半人前と認められ、ローブが白から灰色になる。
ロゼは自宅に戻り、真新しいローブをぼんやり眺めていた。
「ロゼ~!魂持ち帰ったんだって!?やったじゃん!」
ぼんやりしていると、フラムベルジュが部屋へと入ってきた。
「懐かしいな~。私もこのローブ来てたな~」
まるで自分の事のように喜ぶフラムベルジュだが、ロゼはローブを小さく畳んでクローゼットに仕舞った。
「私、白いローブでいいよ」
「何で?ようやく半人前って認めてもらえたのに?」
ロゼは身に付けている白いローブの裾を掴み、その姿を姿見に写した。
「こっちの方が、なんだか私っぽいから。私はこっちでいい」
そう言って申し訳なさそうに笑うロゼを見て、フラムベルジュは「しょうがない子だなぁ」と笑った。




