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真っ白な死神  作者: 嶺上開花
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第一話 白い死神

さて、『死神』と聞けば、皆はどのような姿を想像するだろう。

ぼろぼろの真っ黒なローブ、魂を切り取る大鎌、そして無気味な骸骨…とまぁこのくらいだろう。

皆が想像する死神は所謂大ベテランだ。と言うのも、死神にもランクがあり、黒は多くの魂を切り取った死神の証なのである。他には赤や灰色等がある。

そして、丁度そこに居る死神のように真っ白なローブを着た死神は大方修行中の死神か、『人の魂を一つも刈り取ったことの無い』死神だ。白い死神ははこぼれ一つ無い大鎌を担ぎ、夜の帳を落とした人間界の街を眺めていた。

「おい、見ろよ。ゼロがまた人間界を眺めてるぜ?」

「どうせ魂を刈らないなら眺めても仕方ないのにな」

背後からは嘲笑が飛んでくるが、真っ白な死神は気にも止めていなかった。すると、人混みの中から黒いローブを着た死神が駆け寄ってきた。

「お待たせ、ロゼ。今日は人が多くってさ」

「…ううん。私は待ってないから平気だよ、フラム」

二人は待ち合わせをしていたようで、それから二人で人間界へと降りていった。


「フラム、あの人の寿命、もう殆ど残ってないよ」

ロゼが指差した老人は酷く痩せこけ、それでいて目には生気が灯っていなかった。

「そうなんだ。やっぱりいいな~、その"目"」

フラムベルジュはロゼの顔を覗き込んで、その朱い瞳を見る。ロゼの瞳は血を固めて造ったかのように朱い。死神にはたまに、こうやって朱い瞳を持つ死神が生まれる。その瞳を持つ死神は、生ある物の寿命を視覚的に視ることが出来るのだ。さらに、その朱が鮮やかであるほどその精度が高い。ロゼは秒単位で人の寿命を視ることが出来るのだ。

「いいことなんて無いよ… よく『お前にそれは必要ない』って言われるし…」

「どうせロゼの事知らないクズ共の言い分でしょ?ほっとけばいいのよ、そんなの」

雑談しながら、ロゼ曰く寿命が残っていない老人の元へと降り立った。

老人には二人の事が見えるようで、虚を眺めていた双眸がギョロリと二人を捉える。

「おぉそちらの黒いのは死神か… そっちの白いのは…天使様か?」

「私は天使じゃないよ。この人と同じ死神」

ロゼの反論も虚しく、老人は「真っ白な死神など聞いたことが無いわい」と笑い、それを聞いたフラムベルジュもつられて笑った。

「兎に角、死神が来たと言うことは、儂の命もそろそろ尽きるのか…」

老人は自分の死を悟り、消え入りそうなため息を吐いた。

「じゃあ、刈り取っても良いわよね?」

フラムベルジュは手に持った大鎌で老人を刈り取ろうとする。しかし、ロゼが鎌を握ってそれを制した。

「まだだめ。この人にはまだ3日間寿命が残ってる。せめてそれくらいは…」

「あんたねぇ… そんなこと言って、すぐ感情移入して殺せなくなるんだから。」

「ごめん…でも、残ってる寿命位全うさせてあげたいよ」

フラムベルジュに本当の事を言われ、自分の考えを述べるしか出来ないロゼはしゅんとなって反論した。その姿には勝てないらしく、フラムベルジュは3日くらいならと許してくれた。


老人はベッドの上から動けないようで、翌日は只々窓から外を眺めているだけだった。街は晩秋が近く、所々に植わっている街路樹は葉を全て落とし、越冬の準備をしていた。細い枝だけになった街路樹はまるであの老人のようだった。違うとすれば、寿命があるかどうかだろうか。

その翌日は、老人の家族が一同に会していた。老人とは別々に住んでいるらしく、老人は死など感じさせないような笑顔で笑っていた。


老人の家族が家を去った夜、老人がロゼとフラムベルジュを呼んだ。

「死神様。儂の命はあと一日残っておるのだろう?」

「…?えぇ、後一日だけ残っていますが…」

「そうですか… では、今日儂を看取ってくれませぬか…」

老人の口から出た言葉に、ロゼは大層驚いた。

「何故!?まだ一日生きていられるんですよ!?」

驚くロゼを見て、老人は静に微笑んだ。

「今日、儂の家族が来たんじゃ… 家族とは離れて暮らしていてな。今日は二月ぶりに来てくれたんじゃ…そうそう、孫が大きくなっていてのぅ、それはそれは可愛くて…」

「そんなに嬉しそうなのに、何で今日死ぬなんて言うんですか…?」

見るとロゼはボロボロと涙を流していた。老人は答える。

「今日が嬉しかったからじゃよ。今日は皆が来てくれて嬉しかったが、儂はどうもこの静かさが苦手でなぁ…どうせ死ぬなら、今日の余韻に浸って死にたいんじゃ…叶えてくれませぬか?」

ロゼの涙は勢いを増し、しゃくりながら息をしている。

「…今でいいんだね?」

見かねたフラムベルジュが老人に歩み寄る。

「あぁ、今日は楽しかった。 願いを聞いてくれて…儂を殺してくれて、ありがとう…」

フラムベルジュは掲げた鎌を降り下ろし、老人はベッドに倒れ込んだ。


「だから行ったじゃん。"どうせ殺せなくなる"って」

死神界にあるロゼの自宅に戻り、未だ泣き止まないロゼの肩に手を回してフラムベルジュは言い聞かせた。

「ロゼが優しいのは知ってる。寿命が細かく読み取れることも… でも、私たちは死神なんだよ?人を殺すのが仕事。仕事は投げ出しちゃダメだよ…」

「…解らない。何であの人は寿命を全うしなかったの?あと一日、何で生きなかったの…?」

目を真っ赤に腫らした優しい死神は、友人の胸の中で静かに泣いた。

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