箱入り娘 1
これは、青年が亡くなる少し前の話だ。青年の名前はタカシといった。タカシは、背は高いがヒョロっとして頼りなさげな風体だった。ただ、私が守ってあげなきゃいけない系女子には概ね好評だった。
タカシは、某大学に通う学生で卒業を間近に控えていた。かったるい卒論も就活も終わり、後は、最後の学生生活をエンジョイしていた。決して、整った顔立ちではなかったタカシだがガールフレンドは、そこそこいたらしく割と暇はしていなかった。そして、いつものように、学校を終えガールフレンドと遊んでいた。
「ねえ、タカシ君知ってる?」
「何が?」
「学校の近くに、ちょーすごいお金持ちが住んでるって話」
「何それ?知らない」
タカシは、さほど興味無さそうに答える。女の子は、髪の長い綺麗系な美人だったが、この娘にあまり興味はなかった。もちろん、恋愛としての興味だ。けど、暇潰しにはなるし、話は面白かったから一緒にいるってだけの間柄だったから、話半分という感じで対応する。
「え~お金だよ?お金持ちなんだよ!?マジすごくない?」
「そりゃあ、まぁ」
「リアクション薄っす。興味なさすぎでしょ」
ケラケラと、女の子が笑っている。タカシは、女の子の頭の弱さと下品さには馬鹿にしていたが、身体の良さだけは、評価していた。端的に言えば抱きたいと思うだけのものはあるという事だった。しかし、タカシは身体だけの関係は憧れる反面、妙なところ潔癖症でセックスするなら、絶対彼女と。と決めていた。だからこの女の子とは、身体の関係は持っていなかった。それよりも、女遊びはする癖に最後の一線だけは、守ってる俺恰好いいという自惚れもあった。
タカシは、ずっと、喋り続けている女の子をスルーしつつ、携帯をいじりはじめた。着信もメッセージも届いていないのだが、この手のどうでもいい話題をやり過ごすには、携帯を見るフリをするのが一番いいのである。
「ちょっとぉ、聞いてんの!?」
女の子が、タカシへ声をかける。当然、タカシは携帯を見ていたのだから聞いている訳がない。しかし、タカシが女の子にこんな態度を取っていても、嫌われない理由があった。タカシは要領が良いというか、実にこの手の問題を上手く躱していくのである。それだから、女子達の間でも、悪い噂が立たず穏便に学生生活を送れていたのである。そのかわり、男子からのやっかみというか、嫉妬というかそんなのがあって、友達は少なかった。
それからタカシは、女の子と適当に遊んで二人は別れた。学校がある以上面倒臭いのはごめんとばかり、タカシはそそくさと家に帰った。
タカシは、家に着くなりベッドを寝そべった。夜飯を食べなくてはならないが、自炊するのが面倒だった。かといって外食するのもかったるく、ベッドでゴロゴロしながらふと思っていた。ああ…あの子に奢らせれば良かったなと。
自炊か外食かで考えているうちに、そのまま寝てしまっていた。
「タカシ君起きて…」
声がして、タカシは目を覚ました。辺りを見回すと、いつの間にか何も身につけていない自分と、声の主だけいる状態だった。
「んあ。…誰だ君は?」
タカシの側に、一人の女の子が横になっていた。髪の長い結構な美人。だが、タカシにはまったく身に覚えがなく誰だか見当がつかなかった。
「ウケる!タカシ君ったら、私の事覚えていないの?」
「ごめん、まったく…」
「もう…」