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待ち合わせ

あ、やばい!!!

俺は急いでベッドから飛び起きる。

時計を見、待ち合わせ時刻30分前であることに気がついたからだ。

急いで家服から外服に着替える。

今日はいつもの半ズボンとTシャツなんかという地味~な服装ではなくなるように心がけたつもりだ。

なんだって今日は人生初の彼女との初デートだ。変な格好で嫌われたらひとたまりも無い。

着替えを終え黒色の小さなリュックサックに財布や旅行雑誌のる◯ぶ東風谷版などを詰め込み部屋のドアから出る。

そこはリビングで母親と妹の吉野梨奈が朝食を食べていた。いつもなら梨奈と2人で食べるのだが、今日は母親の仕事が休みのようだ。

「遅いよ隼人!ってどこ行くのそんな格好して」

「ちょっとある場所。どうしても行かなきゃいけない場所」

「いつもの服装に慣れてるから全然違く見えるよ?そんな気合い入れちゃって。もしかして告られたとか」

あれ、結構隠してたつもりなんですけど。でもばれたら妹のことだから友達に言うかもしれないし、だから

「え、違う違う!!今日はさくらでいるかトランシスの工場の一般開放があるからそれに行くだけ」

とあわてて嘘をついた。

いるかトランシスは、イルカ鉄道の車両を多く製造する、鉄道車両メーカーだ。さくらは地名で、南岸町から出ている斗内海岸鉄道というローカル線に乗って2時間弱の小さな市だ。ここから南岸町までは1時間ほどかかるから、大体片道3時間を見積もると良い。

とはいうものの、今日の本当の目的は結音との東風谷デートである。

そして

「たぶん夜までには帰るから」

ずいぶん曖昧なこと言ってしまった。怪しまれても仕方がない。後悔したがいまさら取り返すことも出来ない。

「気をつけてね。いってらっしゃい」

母親にそう言われ俺は

「いってきます」

と答え、玄関向かった。

そして靴紐を結んでいると後ろのドアの向こうから妹が何か話しているのが聞こえた。

「お兄ちゃん昨日東風谷のるるぶ買ってきてたよ。絶対彼女とデートだよ」

げっ、これはやばい。

どうやら昨日るるぶを買ったことがばれていたらしい。

そうだ、そういえば昨日駅のファミマで買ってビニール袋に入れて手に提げて持って帰ってきたな。

とにかく今親になんか口出しされるとこれもって行けだのこんな服装駄目とか色々文句を言われてしまう。

今は時間が無いのだ。

親が来る前に、と急いで玄関を出て鍵を閉める。

暖かな春の風が吹いていた。

マンションの廊下を静かに駆け、急いで運よく停まっていたエレベーターに駆け込み『2』のボタンを押す。

エレベーターの扉が開いた先はマンションのエントランスだ。2枚のガラス戸が同時に左右に開き、急いで改札へと向かう。


改札機の光っている部分にICカードのIrucaイルカをタッチすると電子音と共に突然改札が閉まる。

『チャージしてください』

いつもは定期券で通学しているので残高を気にせず使っていたから忘れていた。こういう時に後ろに人がいるととても申し訳ない気分になるのだが、今回は幸いいなかった。

券売機でチャージを済ませる。

再び改札を通りホームへ向かうころには時刻は約束の20分前になっていた。ここからイルカへは運良く特別快速に乗っても20分は掛かるから間に合うのは絶望的になってしまった。

停まっていた列車に飛び乗る。

アナウンスによるとこの列車は8時16分発の普通、南イルカ行きらしい。

乗ってすぐ発車メロディーが鳴り、『ピンポン』と言う電子音と共にドアが閉まった。

『この先、揺れますので、ご注意ください。』と言うイルカ鉄道お馴染みの伊藤萌祈(いとう もえぎ)さんの声に耳を傾けながら今日の予定を確認すべくスマホを開きカレンダーで一日の流れを確認した。そして遅れることが絶望的なので、結音にLINEしておく。


明日葉駅を過ぎると進行方向右側に里野川が並行する。

両岸に植えられた桜は満開で川の流れを彩っていた。青い空、淡い桃色の桜、両岸の青々とした草たち、そして春の風に揺られる川の水面みなも。春という季節を凝縮したかのような風景だ。


普通列車なので各駅に止まり、30分ほど経ってようやく列車はイルカ駅に到着した。

もうこの時点で10分遅れていた俺はかなり焦っていた。

初デートで遅刻する彼氏がこの世にいるだろうか、と思ったからだ。

いつもなら列車がホームから見えなくなるまで見送る俺も今回はエスカレーターに飛び乗り、彼女である清水結音との待ち合わせ場所である中央改札へ急いだ。

休日、そして8時半とはいえコンコースには大勢の人の姿がある。少し探すと結音の姿があった。

「遅れてごめん。ちょっと寝坊しちゃって」

「いやいやいいよ、このくらい。私からしたらこれは時間通りの範囲内」

「ごめんね!本当にごめん」

俺はそういわれてもなお謝るほかなかった。

「そう言えば前、あの後どうなったの?」

「あああの後ね?!一回家に帰ってもう一回行って。結局2時間くらいの遅れで済んだかな」

「そんなに。本当にごめんね」

「いやいやそんな事謝られるほどの事じゃないから。安心して」

「そう。ありがと」

今まで硬かった彼女の顔がみるみる内に緩んでいくのが俺にも分かった。

「じゃあ、も行こっか。時間もないし」

「時間もないって、まだ8時半じゃん。まだまだいっぱいあるよ?」

「でも出来るだけ長く結音といたいから、ね」

「またまたそんな事言って」

そんなこんなでいろいろ雑談をしながら俺がさっき降りたホームへと向かった。

エスカレーターを降り目の前にある電光表示板を見上げる。

次の列車は8時36分発の普通、南岸町(なんぎしちょう)行きらしい。

俺と結音は2人並んで青色のベンチに座る。

ここは2年前に地下化され5面10線の大きな地下駅に生まれ変わった。ちなみに面は線路に囲まれた島みたいな部分、線はホーム(-番線)の数のことだ。

「今日は誘ってくれてありがとね」

「いやいや。折角LINE交換したのに活用しないともったいないと思ってね」

数分が経ちホームに接近メロディーと接近放送が流れ列車がゆっくりと入ってきた。

「じゃ、乗ろっか」

俺は結音の手を引いて乗車列に並んだ。


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